[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2008年(平成20年)東京大学後期-総合科目II

[1] 2つの対象がどれくらい離れているかを定量的に記述するために, 対象の間のへだたりを表す量を適切に導入することはさまざまな分野において有効である.

A
数直線上に n 個の点 {\rm P}_1,…,{\rm P}_n をとり,これらの座標をそれぞれ,x_1,…,x_n とする.実数 u に対して
f(u)=\displaystyle\sum_{k=1}^n |x_k-u|
とおく.

(A-1) n=3 のとき,x_1\lt x_2\lt x_3 として, 関数 f(u) の値を最小にする u とそのときの最小値を x_1,x_2,x_3 を用いて表せ.

(A-2) ある会社の事業所が一直線上に n 個並んでいる。 各事業所の位置を数直線上に表し, これらの座標を x_1,…,x_n とする.ここで x_1\lt x_2\lt …\lt x_n とする.この会社では,事業所が並んでいる直線上で各事業所からの距離の和が最小になる地点に本社を設置したいと考えている.n が奇数の場合と偶数の場合に分けて,このような条件を満たす本社の位置の座標を求め,その理由を説明せよ.ただし,n 個の事業所の一つと同じ場所に本社を設置してもかまわないとする.

xy 平面上に n 個の点 {\rm Q}_1,…,{\rm Q}_n をとり,これらの座標を,それぞれ (x_1,y_1),…,(x_n,y_n) とする.n 個の点 {\rm Q}_1,…,{\rm Q}_n になるべく近い直線 y=ax+b を求めるため,
d=\displaystyle\sum_{k=1}^n |y_k-(ax_k+b)|
とおき,d を最小にする a,b の値を定めることを考える.

以下の問では n=3 とする.

(A-3) a=1 と固定して
d=\displaystyle\sum_{k=1}^3 |y_k-(x_k+b)|
b の関数とみなす.{\rm Q}_1,{\rm Q}_2,{\rm Q}_3 の座標が,それぞれ (1,1),(2,3),(3,3) のとき,d を最小にする b の値を求めよ.

(A-4) 3点 {\rm Q}_1(x_1,y_1),{\rm Q}_2(x_2,y_2),{\rm Q}_3(x_3,y_3) に対して,
d=\displaystyle\sum_{k=1}^3 |y_k-(ax_k+b)|
を最小にするような a,b の値を x_1,x_2,x_3,y_1,y_2,y_3 で表せ.ただし,x_1\lt x_2\lt x_3 とする.

B

遺伝子は4通りの文字A,C,G,Tの配列からなり, 世代ごとに引き継がれていくが,この配列は世代とともに変化していく可能性がある.遺伝子の配列のデータから生物の系統関係などを推定するためには配列の聞のへだたりを表す量を導入することが重要である.ここでは,以下のような単純化されたモデルを用いて,遺伝子の配列の世代による推移を考察してみよう.

遺伝子の配列の一つの文字について,これが次の世代に引き継がれるときに,他の3通りの文字に置き換わる確率を,それぞれ \dfrac{\alpha}{3} とする.ここで,\alpha0\lt \alpha\lt 1 を満たす実数とする.ある文字がそのまま次の世代に引き継がれる確率は 1-\alpha である.例えば文字Aが
A→A→C
と推移する確率は
(1-\alpha)\times\dfrac{\alpha}{3}
である.

最初の世代における遺伝子の配列の一つの文字Aに注目する.これが n 番目の世代においてAである確率を P_{AA}(n) で表す.ここで最初の世代は 0 番目と数える.また,0 番目の世代においてAである文字が n 番目の世代において C となる 確率を P_{AC}(n) で表す.

(B-1) P_{AA}(n+1)P_{AA}(n)\alpha を用いて表せ.

(B-2) P_{AA}(n)P_{AC}(n) をそれぞれ \alphan を用いて表せ.

遺伝子の文字の配列が世代によって変化していく様子を考える.例えば,配列が
AACAAC
と推移する確率は
(1-\alpha)^2\times\dfrac{\alpha}{3}
である.また,文字の配列が3世代目までに
AAAA→CAAA→CAAT→AACT
と推移するとき,0 番目の世代の最後の 2 文字 AA が 3番目の世代では CT に変化している.N 個の文字の配列からなる遺伝子について n 番目の世代の遺伝子の配列を 0 番目の世代と比較して異なっている文字数の期待値を d_n とする.

(B-3) d_n\alpha,n,N を用いて表せ.

上の(B-3)で求めた式を用いることにより 2つ配列を比較して異なっている文字数を求めると,それらの聞がおよそ何世代へだたっているかを推定することができる.

(B-4) n を大きくしていくと, d_n の値は 0. 75N に近づくことを示せ.

[2] 部屋の温度など,時間によって変化する現象を理解するためには,注目している量が微小時間 \Delta t の間にどれだけ変化するかを,その現象を特徴付ける関係式に基づいて考察することが必要である.

A
室内に汚染質発生源があるとき室内の空気の汚染質濃度の時間変化を考える.単位時間に室内で汚染質が q[{\rm m}^3/{\rm h}] 増加する.また,換気によって,単位時間に室内の空気が V[{\rm m}^3/{\rm h}] 排出され,同量の室外の空気が室内に流入する.室容積は W[{\rm m}^3] とし, 室外の汚染質濃度を \rho [{\rm m}^3/{\rm m}^3] とする.ここで,q,V,W,\rho は正の定数とする.このとき,室内の汚染質濃度 x[{\rm m}^3/{\rm m}^3] を時間 t の関数として以下のように記述しよう.ただし,室内に流入したり室内で発生したりする汚染質は瞬間的に拡散し,汚染質は吸着や化学変化を起こさず,空気の温度は変化しないものとする.

[図]

微小時間 \Delta t における室内の汚染質濃度の増分を \Delta x とすると,室内の汚染質の体積の増分 W\cdot\Delta x
q\cdot\Delta t+V\rho\cdot\Delta t-Vx\cdot\Delta t…… ①
で近似される.

等式
\dfrac{\Delta x}{\Delta t}=\dfrac{q+V\rho -Vx}{W}
において,\Delta t を限りなく 0 に近づけることにより,関係式
\dfrac{dx}{dt}=\dfrac{q+V\rho-Vx}{W}……②
が得られる.

(A-1) 式①の各項がどのような量を表すかを,それぞれ述べよ.

(A-2) 室内の汚染質濃度 x がある値をとると,時間が変化してもその値が変化しなくなる.このような x の値を求めよ.

式②を変形すると
\dfrac{1}{\dfrac{q}{V}+\rho -x}\cdot\dfrac{dx}{dt}=\dfrac{V}{W}……③
となる.

(A-3) 式③の左辺の t についての不定積分x の関数として表せ.

式③の両辺を t について不定積分することにより,式②を満たす xt の関数として
x=\alpha+\beta e^{-\gamma t}……④
の形に表されることがわかる.ただし,\alpha\beta\gamma は定数である.

(A-4) t=0 における x の値を x_0 として,式④の定数 \alpha\beta\gammaq\rhoVWx_0 を用いて表せ.


B
質量 m[\mbox{kg}] の物体の空気中での落下運動を考える.鉛直下向きを正とする物体の速度をv[\mbox{m}/\mbox{s}] とおく.物体はその速度 v に比例した空気抵抗を受けると仮定すると,速度 v の時間変化は関係式
m\dfrac{dv}{dt}=mg-k(m)v……⑤
で表される.ここで,k(m) は正の値をとる m のある関数で時間 t によらず一定である.また,g は重力加速度を表す.

(B-1) 物体を落下させた後,十分時間が経つと物体の速度 v は一定値
\bar{v}=\dfrac{mg}{k(m)}
に近づく.この理由を説明せよ.

(B-2) 質量 m を変えて \bar{v} を測定したところ,質量 m が大きいほど,\bar{v} の値がつねに大きくなるという単調性が観測された。次の(イ),(ロ),(ハ)の形の関数が,m\gt 0 において,つねにこの条件を満たすかどうかを,それぞれ述べよ.

(イ)k(m)=am+ba\gt0,b\gt0
(ロ)k(m)=am^2+ba\gt0,b\gt0
(ハ)k(m)=am^{\frac{1}{3}}+ba\gt0,b\gt0

(B-3) 式⑤を9ページの式②と比べ,本聞における物体の落下速度 v を第2問Aにおける室内の汚染質の濃度 x と対応させると,この2つの量の時間変化は同様の振る舞いをするととがわかる。この点に着目し,質量 m の物体を,初速度 を 0 として,空気中で落下させたときの,物体の速度の時間変化を示すグラフの概形を描け.


C
ある国全体の時点tにおける生産量を Y(t),資本量を K(t),投資量を I(t) とする.ここで,t0 以上の実数であり,Y(t),K(t),I(t) は正の実数を値にもつ微分可能な関数とする.これらの関数の間には次の関係式が成立しているとする.
Y(t)=K(t)^{\frac{1}{2}}……⑥
I(t)=sY(t)……⑦
ここで,s0\lt s\lt 1 を満たす定数で,貯蓄率とよばれる.生産量 Y(t)国民所得となり,その一部 sY(t) が貯蓄にまわされる.ここでは,貯蓄がすべて投資に用いられると仮定し,このことから式⑦が導かれる.一方,資本量の時間変化は
\dfrac{d}{dt}K(t)=I(t)-rK(t)……⑧
で表されるとする.ここで,r0\lt r\lt 1 を満たす定数で減価償却率とよばれる.以下,t=0 における資本量は K(0)=1 で与えられるとする.

(C-1) 式⑥,⑦,⑧より,\dfrac{d}{dt}Y(t)Y(t)r,s を用いて表せ.

(C-2) 上の問で求めた関係式に第2問Aと同様の方法を適用して,生産量 Y(t)t の関数として r,s を用いて表せ.

生産量 Y(t) のうち,貯蓄される分を除いた (1-s)Y(t) が消費に費やされる.C(t)=(1-s)Y(t) とおく.

(C-3) 消費量 C(t)t についての単調増加関数,単調減少関数,定数関数になるための r,s の条件を,それぞれ求めよ.

(C-4) すべての t\geqq 0 においてつねに C(t)\geqq c を満たす実数 c の中で最大の値を,最低消費量とよぶ.(C-3)のそれぞれの場合について最低消費量を求めよ.

(C-5) 与えられた減価償却r に対して,最低消費量を最大にするような貯蓄率 s を求めよ.