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東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2010年(平成22年)東京大学後期-総合科目II[1]A

[1] 自然科学などに数学的方法を適用しようとするとき,しばしば直接に自然現象を扱うのではなく,近似した量を取り扱うことが必要になる.また,方程式の解を直接求めるのが難しいときには,解の形を予想して解いてみる,発見的方法が重要になる.

A
二次関数のグラフを,折れ線グラフで近似することを考える.

(A-1) 0\leqq a\lt b\leqq 1 とする.閉区間 [a,b] で関数 f(x)x^2 を近似するとき,その誤差は,|x^2 - f(x) |[a,b] での最大値で与えられるとする.この誤差が最も小さくなる一次関数 f(x) = cx + d を求めよ.また,このときの誤差を与えよ.ただし,c,d は実数とする.

(A-2) 閉区間 [0, 1] をふたつの閉区間 [0, s][s, 1] に分けて,それぞれで x^2 を一次関数で近似することを考えよう.ただし,0\lt s\lt 1 である,それぞれの閉区間 [0, s][s, 1] で一次関数 f_1(x), f_2(x) を与えて,それぞれの区間での x^2 の近似の誤差の,大きい方が最も小さくなるようにする.つまり,|x^2 - f_1(x)|[0, s] での最大値と,|x^2 - f_2(x)|[s, 1] での最大値の大きい方が,最も小さくなるように,sf_1(x),f_2(x) を選ぶ.このとき,sf_1(x), f_2(x) を与えよ.

mini-max による折れ線近似(2021.02.14).
チェビシェフの多項式の理論(2021.02.22).

2021.02.14記
mini-max による折れ線近似.
Minimax approximation algorithm - Wikipedia

積分平均値の定理

(A-1) はチェビシェフ多項式の理論から,[-1,1] での mini-max を与える x^2 の係数が1の2次関数は q=p^2-\dfrac{1}{2} で,そのときの最大値の最小値は \dfrac{1}{2} であることから,x=\dfrac{b-a}{2}(p+1)+a を代入すると
y=\dfrac{4}{(b-a)^2}\Bigl(x-\dfrac{b+a}{2} \Bigr)^2-\dfrac{1}{2} のときに最大値の最小値は \dfrac{1}{2}
となることがかる.よって

y=x^2-(a+b)x+\dfrac{a^2+4ab+b^2}{8} のときに最大値の最小値は \dfrac{(b-a)^2}{8}

となることがわかるので,f(x)=(a+b)x-\dfrac{a^2+6ab+b^2}{8} のとき誤差は \dfrac{(b-a)^2}{8} となる.

[解答]

(A-1) 区間 [a,b] において
|x^2-f(x)|=\Biggl|a^2-f(a)+\displaystyle\int_a^x (2x-c) dx\Biggr|
となるので,この最大値が最小となるような f(a),c を選ぶ.

\displaystyle\int_a^x (2x-c) dx の値域の幅が最小となるのは,x=a,by=2xy=c で囲まれる部分(台形または2つの三角形)の面積を考えると,c2a2b の間にあり,y=f(x)y=c より上の部分と下の部分の面積が等しいときに最小となることがわかる.
つまり,c=a+b のときに最小となり,
-\dfrac{(b-a)^2}{4}\leqq \displaystyle\int_a^x (2x-c) dx\leqq 0 となることがわかる.

よって,a^2-f(a)=\dfrac{(b-a)^2}{8} となるように d を選べば誤差は最小値 \dfrac{(b-a)^2}{8} をとる.このとき d=a^2-\dfrac{(b-a)^2}{8}-(a+b)a=-\dfrac{a^2+6ab+b^2}{8} である.

(A-2) f_1(x)=c_1x+d_1f_2(x)=c_2x+d_2 とする.(A-1)と同様に考えると,
[0,s]c_1=\dfrac{s}{2},誤差 \dfrac{s^2}{8}
[s,1]c_1=\dfrac{s+1}{2},誤差 \dfrac{(1-s)^2}{8}
となるので,この2つの誤差の最大値が最小となるのは s=\dfrac{1}{2} のときで,
このとき f_1(x)=\dfrac{1}{2}x-\dfrac{1}{32}f_1(x)=\dfrac{3}{2}x-\dfrac{17}{32} である.

(A-2) は,それぞれで1次関数で近似せよとあり,折れ線となっているかどうかは考えていないが,
この2つの1次関数は \Bigl(\dfrac{1}{2},\dfrac{7}{2}\Bigr) でつながっている折れ線になっている.

[一般論]

一般に,凸関数 F(x)区間 [a,b] で1次関数 cx+d で同様に近似することを考えると,cF'(a)F'(b) の間にあり,y=f(x)y=c より上の部分と下の部分の面積が等しいときに誤差が最小となることがわかる.このとき,
\displaystyle\int_a^b F'(x) dx =c(b-a)
が成立するので
c=\dfrac{1}{b-a}\displaystyle\int_a^b F'(x) dx=\dfrac{F(b)-F(a)}{b-a}
が成立する.つまり minimax による折れ線近似は平均変化率を傾きとすれば良い.

このとき,積分平均値の定理により F'(\xi)=c なる \xiab の間に存在し,この \xi を用いて
d=\dfrac{F(a)+F(\xi)}{2}-c\dfrac{a+\xi}{2}=\dfrac{F(b)+F(\xi)}{2}-c\dfrac{b+\xi}{2}
=\dfrac{1}{2}\Bigl\{F(\xi)-c\,\xi +\dfrac{bF(a)-aF(b)}{b-a}\Bigr\}
が成立する.

上記に一般論を導くときに,最初阿呆な方法で導いていたのを反省を込めて記載しておく.

凸関数 F(x) について,F'(x) の単調増加性から (F')^{-1} が存在し,そのとき,求める幅は c\in[F(a),F(b)] において最小となり,c=F'(\alpha) なる一意に定まる \alpha を用いて求める幅は
\displaystyle\int_{F'(a)}^{c} \{(F')^{-1}(y)-a\}dy
または
\displaystyle\int_{c}^{F'(b)}\{b- (F')^{-1}(y)\}dy
の小さくない方となる.そして c について前者が単調増加,後者が単調減少となるので,これらが等しいときに最小となる.つまり,
\displaystyle\int_{F'(a)}^{c} \{(F')^{-1}(y)-a\} dy=\displaystyle\int_{c}^{F'(b)}\{b- (F')^{-1}(y)\}dy
をみたすときに最小となる.

ここで Fルジャンドル変換を G とすると G'=(F')^{-1} が成立し,
q=F'(p) のとき,F(p)+G(q)=pq であるから一般に F(p)+G(F'(p))=pF'(p) が成立する.
よって
\displaystyle\int_{F'(a)}^{c} \{(F')^{-1}(y)-a\} dy=G(c)-G(F'(a))-a(c-F'(a))=G(c)+F(a)-ac
であり,同様に
\displaystyle\int_{c}^{F'(b)}\{b- (F')^{-1}(y)\}dy=G(c)+F(b)-bc
であるから,c=\dfrac{F(b)-F(a)}{b-a} のときに最小となる.

[うまい解法]

(1) 一般に,凸関数 F(x)区間 [a,b] で1次関数 cx+d で近似することを考えると,cF'(a)F'(b) の間にあり,y=f(x)y=c より上の部分と下の部分の面積が等しいときに誤差が最小となることがわかる.このとき,
\displaystyle\int_a^b F'(x) dx =c(b-a)
が成立するので
c=\dfrac{1}{b-a}\displaystyle\int_a^b F'(x) dx=\dfrac{F(b)-F(a)}{b-a}
が成立する.つまり minimax による折れ線近似は平均変化率を傾きとすれば良い.

本問の場合,F(x)=x^2 であるから,c=a+b であり,\xi=\dfrac{a+b}{2}=\dfrac{c}{2} となるので,
d=\dfrac{1}{2}\{\xi^2-2\xi^2-ab\}=-\dfrac{1}{2}\{\xi^2+ab\}=-\dfrac{1}{8}\{(a+b)^2+4ab\}=-\dfrac{a^2+6ab+b^2}{8}

(2) 略

2021.02.22記
チェビシェフ多項式

[大人の解法]

(1) n 次関数 g(x)=px^n+\cdots のグラフを,n-1 関数 f(x) のグラフで近似することを考える.基準は \displaystyle \min \max_{x\in[a,b]} |g(x)-f(x)| である.

x^n の係数が 1n 次関数 p(x) のなかで,\displaystyle \min \max_{x\in[-1,1]} |p(x)| を実現する関数は n 次の第一種チェビシェフ多項式T_n(x)=2^{n-1}x^n+\cdots とおくと,p(x)=\dfrac{1}{2^n}T_n(x) であるから,与えられた n 次関数 g(x)=px^n+\cdots に対して \displaystyle \min \max_{x\in[a,b]} |g(x)-f(x)| を実現する n-1 関数 f(x)f(x)=g(x)-\dfrac{p(b-a)^n}{2^{2n-1}}T_n\Bigl(\dfrac{2x-a-b}{b-a}\Bigr) であり,このときの誤差は
\dfrac{|p|(b-a)^n}{2^{2n-1}} となる.

特に g(x)=x^2 のとき
f(x)=x^2-\dfrac{(b-a)^2}{8}\Bigl\{2\Bigl(\dfrac{2x-a-b}{b-a}\Bigr)^2-1\Bigr\}=(a+b)x-\dfrac{a^2+6ab+b^2}{8} であり,
誤差は \dfrac{(b-a)^2}{8} となる.

(2) 一般に s\in[a,b] で2つの区間に分けたとき,
[a,s] での誤差は\dfrac{|p|(s-a)^n}{2^{2n-1}}
[s,b] での誤差は\dfrac{|p|(b-s)^n}{2^{2n-1}}
となる.前者が s の単調増加関数,後者が s の単調減少関数となるので,この2つの小さくない方の最大値は両者が等しくなる s=\dfrac{a+b}{2} のときにのみ最小となる.

このとき,
f_1(x)=g(x)-\dfrac{p(b-a)^n}{2^{3n-1}}T_n\Bigl(\dfrac{4x-3a-b}{b-a}\Bigr)
f_2(x)=g(x)-\dfrac{p(b-a)^n}{2^{3n-1}}T_n\Bigl(\dfrac{4x-a-3b}{b-a}\Bigr)
となる.

なお,f_1\Bigl(\dfrac{a+b}{2}\Bigr)
=g\Bigl(\dfrac{a+b}{2}\Bigr)-\dfrac{p(b-a)^n}{2^{3n-1}}T_n(1)
=g\Bigl(\dfrac{a+b}{2}\Bigr)-\dfrac{p(b-a)^n}{2^{3n-1}}
f_2\Bigl(\dfrac{a+b}{2}\Bigr)
=g\Bigl(\dfrac{a+b}{2}\Bigr)-\dfrac{p(b-a)^n}{2^{3n-1}}T_n(-1)
=g\Bigl(\dfrac{a+b}{2}\Bigr)-\dfrac{p(-1)^n(b-a)^n}{2^{3n-1}}
となるので,n が偶数のときは
f_1(x)f_2(x)x=\dfrac{a+b}{2} で連続していることがわかる.

特に g(x)=x^2 のとき
f_1(x)=\dfrac{1}{2}x-\dfrac{1}{32}
f_2(x)=\dfrac{3}{2}x-\dfrac{17}{32}
であり,これらは x=\dfrac{1}{2} で連続している.

チェビシェフ多項式
1990年(平成2年)東京大学前期-数学(理科)[2] - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
2004年(平成16年)東京大学前期-数学(理科)[4] - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
2017年(平成29年)東京大学-数学(理科)[1] - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
など頻出