[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2010年(平成22年)東京大学後期-総合科目II[2]A

[2] 数学的な方法は,社会における最適な行動の選択においても重要な役割を果たす.この問題では,土地の競売,商品の輸送という,ふたつの商業活動における問題を考える.

A
ある駅前の土地が競売によって売り出されることになった.競売の方法にはさまざまな種類がある.

(A-1) 買い手は自分の買い値を紙に記入して,それを秘密にしたまま,入札箱に投入するものとする.買い手が入札を終えた後,売り手は入札箱を開けて,一番高い買い値をつけた買い手に,その人がつけた買い値でこの土地を売ることにする.一番高い買い値をつけた買い手が複数いる場合は,その中から公平なくじ引きで選ばれた一人に売ることにする.

A氏は,この土地を用いた事業を行うことで a 億円の利益が得られるとする.つまり,競売に参加して x 億円で土地を買うことができたとすると,A氏の利益は a-x 億円になる.土地を買えなかった場合は,事業の利益も土地購入代も発生しないので,A氏の利益は 0 円と考える.a2 から 10 までのある整数であるとする.

この競売に,A氏の他にもう一人の買い手(B氏)が参加しているとする.買い値は,1億円単位でつけなければならないものとする.B氏のつける買い値を y 億円とし,y1 から 10 までの整数を等しい確率でとるものとする.

利益の期待値を最大にするためには,A氏はいくらの買い値をつければ良いか,a を用いて表せ.

(A-2) 今度は,違った競売の方法を考える.(A-1)と同様に,買い手は自分の買い値を紙に記入して,それを秘密にしたまま,入札箱に投入する.買い手が入札を終えた後,売り手は入札箱を開けて,一番高い買い値をつけた買い手に,二番目に高い買い値で売ることにする.一番高い買い値をつけた買い手が複数いる場合は,「二番目に高い買い値」は一番高い買い値と同じであることにし,その中から公平なくじ引きで選ばれた一人に売ることにする.

入札はA氏とB氏の二人で行うものとし,買い値は1億円単位でつけなければならないものとする.B氏の買い値を y 億円とするとき,y1 から 10 までのいずれかの整数であるとし,それぞれの値をとる確率は p_y であるとする.ただし,p_y\gt 0(y=1,2,\ldots,10)p_1+p_2+\cdots+p_{10}=1 である.利益の期待値を最大にするためには,A氏はいくらの買い値をつければ良いか,a を用いて表せ.

[注意]

(A-2) でも

A氏は,この土地を用いた事業を行うことで a 億円の利益が得られるとする.つまり,競売に参加して x 億円で土地を買うことができたとすると,A氏の利益は a-x 億円になる.土地を買えなかった場合は,事業の利益も土地購入代も発生しないので,A氏の利益は 0 円と考える.a2 から 10 までのある整数であるとする.

という条件があるものとする.

2021.02.14記
第一価格封印入札(First-price auction)と第二価格封印入札(Second-price auction,Vickrey-auction).
収入同値定理.

第二価格封印入札の最適な戦略は正直な入札を行うことであることが知られており,よって a 億円の利益が得られるならば,a 億円で入札するのが最適である.

[解答]

(A-1) x 億円で落札できる確率は \dfrac{x-1}{10}+\dfrac{1}{20}=\dfrac{2x-1}{10} であるから,利益の期待値は
\dfrac{1}{20}\Bigr(x-\dfrac{1}{2}\Bigr)(a-x)
となるので,頂点を与える \dfrac{2a+1}{4} に近いほど利益の期待値が大きくなる.

よって a が奇数のとき x=\dfrac{a+1}{2}a が偶数のとき x=\dfrac{a}{2}

(A-2) x 億円で入札したとき,y 億円で落札される確率は p_y(y\gt x)\dfrac{p_y}{2}(y=x) であるから,利益の期待値は,
E(x)=\displaystyle\sum_{y=1}^{x} (a-y)p_y-\dfrac{1}{2}(a-x)p_x(1\leqq x\leqq 10)
E(x)=\displaystyle\sum_{y=1}^{10} (a-y)p_y(11\leqq x)
となる.
E(x+1)-E(x)=\dfrac{1}{2}(a-x-1)p_{x+1}-\dfrac{1}{2}(a-x)p_x
\left\{ \begin{array}{ll} \gt 0 &(1\leqq x\leqq a-1)\\ \lt 0 &(a\leqq x\leqq 9)\end{array}\right.
E(x+1)-E(x)=\dfrac{1}{2}(a-10)p_{10}\lt 0(x=10)
E(x+1)-E(x)=0(11\leqq x)
であるから,E(x)x=a で最大となる.

一般には連続近似することが多い.

0円から10億円までの金額で入札する.
B氏の入札価格は0円から10億円までの一様分布とする.

第一価格封印入札においてA氏の利益の期待値は
x(a-x)となるのでx=\dfrac{a}{2}で最大となるので,A氏は \alpha=\dfrac{a}{2} 円で入札する.同様にB氏も同じ戦略をとって\beta=\dfrac{b}{2} 円で入札する.a,b[0,1] の一様分布のとき、\max\{a,b\} の期待値は \dfrac{2}{3} だから,\alpha,\beta\Bigl[0,\dfrac{1}{2}\Bigr] の一様分布のとき、\max\{\alpha,\beta\} の期待値は \dfrac{1}{3} となり,売り手の収入の期待値は \dfrac{10}{3} 億円である.

第二価格封印入札においてA氏は a 円で入札する.同様にB氏も同じ戦略をとってb 円で入札する.a,b[0,1] の一様分布のとき、\min\{a,b\} の期待値は \dfrac{1}{3} だから,売り手の収入の期待値は \dfrac{10}{3} 億円である.

つまり,A氏とB氏の評価額が一様分布に従うと仮定したとき、売り手の収入の期待値は第一価格封印入札でも第二価格封印入札でも同じになることがわかり,これを収入同値定理と呼ぶ.