[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2005年(平成17年)東京大学後期-総合科目II

[1]
A
時刻 0\leqq t\leqq T において次式のように三角関数の和として定義されるある関数 y(t) を考える.
y(t)=\dfrac{a_0}{2}+\displaystyle\sum_{n=1}^N
\Bigl\{ a_n\cos\Bigl(\dfrac{2n\pi}{T}t\Bigr)+b_n\sin\Bigl(\dfrac{2n\pi}{T}t\Bigr)\Bigr\}……①

ここで、N はある正の整数であり,係数 \{a_n\}(0\leqq  n\leqq  N) および \{b_n\}(1\leqq n\leqq N) は実定数である.

(1) 以下の3式の値を求めよ.ただし,mn は正の整数とする.

a.\displaystyle\int_0^{2\pi} \cos mt\cos nt \,dt
b.\displaystyle\int_0^{2\pi} \cos mt\sin nt \,dt
c.\displaystyle\int_0^{2\pi} \sin mt\sin nt \,dt

(2) 係数 a_nb_n がそれぞれ次式のように表されることを示せ.
a_n=\dfrac{2}{T}\displaystyle\int_0^T y(t)\cos\Bigl(\dfrac{2n\pi}{T}t\Bigr)dtb_n=\dfrac{2}{T}\displaystyle\int_0^T y(t)\sin\Bigl(\dfrac{2n\pi}{T}t\Bigr)dt

(3) 関数 y(t) を図示したところ,図1-1のようであった.このとき係数 \{a_n\}\{b_n\} は,二つの係数 b_jb_k を除いてすべて 0 であり,b_j=-b_k であった.ただし,j\lt k とする.なお,y(t)=0 となる時刻 t
t=0T\dfrac{2n+1}{80}T(n=0,1,2,\cdots,39)
のみであり,また
y\Bigl(\dfrac{T}{4}\Bigr)=1y\Bigl(\dfrac{3T}{4}\Bigr)=-1
である.j,k, および b_j を求めよ.

図1-1(略)


B
図1-2のように,質量 m の台車がばね定数 k のばねで接続されている.台車の位置を時刻 t の関数 x(t) で表す.台車と床の摩擦は無視できるものとする.時刻 t=0 でばねは自然長であり,台車も静止しているものとする.この位置を x 軸の原点 0 とする.このとき,
x(0)=0, x'(0)=0……②
である.時刻 t において.この台車に x 軸方向の外力 f(t) が作用するとき,x(t) は次式を満たす.
mx''(t)+kx(t) = f(t)……③
ここで x'(t)x(t)t に関する導関数を,x(t) は第二次導関数を示す.一般に,f(t) が与えられたとき,初期条件②を満たし、③式に従う関数 x(t) はただ一つ存在する.

図1-2(略)

(4) 外力 f(t) として,図1-3 に示すような時刻 t=\tau(\tau\gt 0) から時間 \Delta t の間のみ一定の力 C が加わる場合を考える.すなわち,f(t) は次式で定義される.
f(t)=\left\{\begin{array}{ll} C & (\tau\leqq t\lt \tau+\Delta t のとき)\\ 0 & (それ以外のとき)\end{array}\right.
この外力に対する台車の運動は,[t\geqq \tau+\Delta t] においては次式で表される.
x(t)=A[\cos\{\omega(t-\tau-\Delta t)\}-\cos\{\omega(t-\tau)\}]
ここで,A\omega は,\tau\Delta t には依存しない正の定数である.定数 \omegamk で表せ.

(5) \Delta t\dfrac{1}{\omega} に比べて十分小さい場合には,\sin\omega\Delta t\omega\Delta t\cos\omega\Delta t1 とする 近似を用いることができ,この近似のもとでは,運動量変化と力積の関係から(4) において力が加わった直後の台車の速度は \dfrac{C\Delta t}{m} となる.このことから,定数 AkC で表せ.

(6) 2種類の外力 f_1(t)f_2(t) を考える.外力 f(t)=f_1(t) を加えたときの台車の運動が x(t)=x_1(t) で表され,外力 f(t)=f_2(t) を加えたときの台車の運動が x(t)=x_2(t) で表されるとき,外力 f(t)=f_1(t)+f_2(t) を加えたときの台車の運動が x(t)=x_1(t)+x_2(t) で表されることを示せ.

(7) 外力が時間的に連続して加わる場合の台車の運動を考えてみよう.外力 F(t) は,T を正の実数とし,時間 0\leqq t\leqq T で定義された滑らかな関数であるとする.F(t) を図1-4に細線で示す.まず,この関数を図1-4の太線で示すよ うな,微小時間 \Delta t(=\dfrac{T}{M}) ごとに値の変化する階段状の関数 F_M(t) であると考える.すなわち F_M(t) は次のように定義される.
F_M(t)=\displaystyle\sum_{n=0}^{M-1} f_n(t)
ここで
f_n(t)=\left\{\begin{array}{ll} F(n\Delta t) & (n\Delta t\leqq t\lt (n+1)\Delta t のとき)\\ 0 & (それ以外のとき)\end{array}\right.

階段状の外力 F_M(t) による台車の運動が x(t) = X_M(t) で表されるものとすれば,滑らかな外力 F(t) による台車の運動は
x(t)=\displaystyle\lim_{M\to\infty} X_M(t)
で表される.外力 F(t) を受けたときの,時刻 t=T における台車の位置 x(T) を,F(t) を用いて積分の形で表せ.

図1-3(略)
図1-4(略)

C
0\leqq t\leqq T の間,水平にゆれが継続する地震動を考える.地震動はもともとは地面の揺れであるが,地面の上に立つものにとっては左右に揺さぶられるような力を受けることと同じであると考えることができる.
ここでは,問Bに示したようなばねで接続された台車に地震による外力 f(t) が働く場合を考え,f(t)0\leqq t\leqq T の間で次式のように表されるものとする.
f(t)=\dfrac{a_0}{2}+\displaystyle\sum_{n=1}^N\Bigl\{ a_n\cos\Bigl(\dfrac{2n\pi}{T}t\Bigr)+b_n\sin\Bigl(\dfrac{2n\pi}{T}t\Bigr)\Bigr\}……④
ここで,N はある正の整数であり,係数 \{a_n\}(0\leqq n\leqq N) および \{b_n\}(0\leqq n\leqq N) は実定数である.ここで考える地震動は極めて複雑な波であるので,さまざまな n について係数 a_n および b_n0 以外の値を持つことになる.

(8) 台車の質量 m とばね定数 k から求められる \omega
\omega=\dfrac{2j\pi}{T}(j は 1\leqq j\leqq N の正の整数 )
であるとしたときの地震終了時 (t=T) における位置 x(T)b_jTm を用いて表せ.

[2] 液体中に浮遊する微粒子が不規則なジグザグ運動をすることがブラウンによって発見され,ブラウン運動と呼ばれている.この運動は熱運動をする液体分子が微粒子にランダムに衝突することによって生じることが,アインシュタインによって明らかにされている.このような不規則な運動は,確率的な運動としてとらえることができ,粒子の拡散現象,雑音の解析から株価変動まで広い分野で研究されている.

ここでは1個の粒子が一次元の格子の上で確率的な運動をするようすを考えてみよう.格子点は図2-1に示すように左から右へひとつずつ増加する整数n で番号づけられているとする.

図2-1(略)

最初(時刻 t=0)に粒子は原点(n=0)にあり,粒子は時刻 t から t+1 の間に,確率 p_R でひとつ右の格子点へ,確率 p_L でひとつ左の格子点へ移動するものとする.ただし,ここでは離散的な時刻 (t = 0, 1, 2, 3, \cdots) での粒子の位置の変化を考 える.ここで,p_Rp_L は各格子点ごとに決まっており,それぞれ正または 0 である.また,もとの格子点に留まる確率 1-p_R-p_L も正または 0 である.時刻 t に粒子が格子点 n にいる確率を P(t, n) として,以下の問に答えよ.

A
すべての格子点で,p_R=p_L=\dfrac{1}{3} の場合に以下の問に答えよ.

(1) 時刻 t=3 に粒子が格子点 n=2 にいる確率 P(3, 2) を求めよ.

(2) t\geqq 2 場合の P(t, t)P(t,t - 1)P(t, t - 2) をそれぞれ t を用いて表せ.

B
すべての格子点で,p_R=ap_L=b とする.このとき以下の問に答えよ.

(3) P(t + 1, n)P(t, n - 1)P(t, n)P(t, n + 1)ab を用いて表せ.

(4) 時刻 t での粒子の位置 X_t の期待値 E(X_t)
E(X_t) =\displaystyle\sum_{n=-\infty}^{\infty} nP(t, n)
tab を用いて表せ.

(5) 時刻 t までの粒子の位置 X_t の分散 V(X_t)
V(X_t)=\Biggl(\displaystyle\sum_{n=-\infty}^{\infty} n^2P(t, n) \Biggr)^2-(E(X_t))^2
tab を用いて表せ.

C
次に,格子点が n=-1,0,1 の3点だけで,その外に出られない場合を考 えよう(図2-2).ここでは n=1 での移動の確率を p_R=0p_L=\dfrac{1}{2}n=0 での移動の確率を p_R=p_L=\dfrac{1}{3}n=-1 での移動の確率を p_R=\dfrac{1}{2}p_L=0 とする.このとき以下の問に答えよ.

図2-2(略)

(6) P(t + 1, n)(n =-1,0,1)P(t,k)(k=-1,0,1) を用いて表せ.

(7) 十分時間が経った極限での確率
\displaystyle\lim_{t\to\infty} P(t,n)n=-1, 0, 1 の各点について求めよ.

D
次に,格子点が n=-1,0,1 の3点だけで,その外に出た場合,つまり粒子が n=\pm 2 の位置に来た場合に,粒子が消滅するとしよう(図2-3).格子点 n=-1,0,1p_R=p_L=\dfrac{1}{3} とするとき以下の問に答えよ.

図2-3(略)

(8) 時刻 t=2 に粒子が格子点 n=-1,0,1 のいずれかに存在する確率を求めよ.

(9) P(t + 1, n)(n =-1,0,1)P(t,k)(k=-1,0,1) を用いて表せ.

(10) 時刻 t に粒子が原点にいる確率 P(t,0)t を用いて表せ.

(11) P(t,0) の減衰率 cc=-\displaystyle\lim_{t\to\infty}\dfrac{\log P(t,0)}{t} で定義する.c の値を求めよ.ここで \log P(t,0)P(t,0) の自然対数を表す.

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