[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2023年(令和5年)東海大学医学部一日目-数学[1](5)

2023.10.08記

[1](5) 4 つの鋭角 A,B,C,D が,\cos A = \cos B \cos C\sin B = \sin A \sin D という 2 つの関係式を満たしているとき,\sin C \tan DB のみで表すと,\sin C \tan D = [オ] である.また,\tan A \cos DC のみで表すと,\tan A \cos D =[カ]である.

本問のテーマ
直角球面三角形におけるネイピアの円(球面三角法)

2023.10.08記
球面三角法の公式については
球面三角法 - Wikipedia
参照.

[大人の解答]
\mbox{PQR} を球面三角形とし辺 \mbox{QR}\mbox{RP}\mbox{PQ} の長さをそれぞれ ABC とし,\angle\mbox{RPQ}=P\angle\mbox{PQR}=Q\angle\mbox{QRP}=R とする.

余弦定理により
\cos A=\cos B\cos C + \sin B\sin C\cos P
であるが,\cos A = \cos B \cos C\sin B\sin C\neq 0 により \cos P=0,つまり P=\dfrac{\pi}{2}

正弦定理により
\dfrac{\sin A}{\sin P}=\dfrac{\sin B}{\sin Q}
だから,P=\dfrac{\pi}{2}および\sin B = \sin A \sin Dから
\sin Q=\sin D

ここで正弦余弦定理により
\sin A\cos Q=\cos B\sin C-\sin B\cos C\cos P=\cos B\sin C
であり,A,B,C は鋭角であるから \sin A,\cos B,\sin C\gt 0 となるので
\cos Q\gt 0 となり,\sin Q=\sin D\gt 0とから Q は鋭角であり,よって
Q=D となる.

直角球面三角形の公式(ネイピアの円)により
\tan B=\sin C\tan Q = \sin C\tan Dwikipedia の(R4,R5)に対応),
 \tan C=\cos Q\tan A=\cos D\tan Awikipedia の(R6,R7)に対応)
だから

[オ]=\tan B,[カ]=\tan C

となる.

これを普通の解法に焼き直すために3次元極座標の知識を用いて座標にのせると
\mbox{O}(0,0,0)
\mbox{P}(1,0,0)
\mbox{Q}(\cos C,\sin C,0)
\mbox{R}(\cos B\cos C,\cos B\sin C,\sin B)
となる.単位ベクトル\vec{\mbox{OP}}\vec{\mbox{OQ}}\vec{\mbox{OR}} などに内積外積を用いると球面三角法の各種公式を求めることができ,上記解答を再現することができるが,通常の三角法を使うために,球面上の点を直角,つまり直方体で考えられるように
\mbox{O}(0,0,0)
\mbox{P}(\cos B\cos C,0,0)
\mbox{Q}(\cos B\cos C,\cos B\sin C,0)
\mbox{R}(\cos B\cos C,\cos B\sin C,\sin B)
のように設定する.

[解答]
\cos A = \cos B \cos C…①,\sin B = \sin A \sin D…②である.

\mbox{O}(0,0,0)
\mbox{P}(\cos B\cos C,0,0)
\mbox{Q}(\cos B\cos C,\cos B\sin C,0)
\mbox{R}(\cos B\cos C,\cos B\sin C,\sin B)
とおく.

\mbox{OR}=1\angle\mbox{OPR}=\dfrac{\pi}{2}
\mbox{OP}=\cos B\cos C=\cos A(∵①)
だから,\angle\mbox{ROP}=A である.

よって \vec{\mbox{PR}}=(0,\cos B\sin C,\sin B) とおくと
\mbox{PR}=|\vec{\mbox{PR}}|=\sin A
となる.②より
\vec{\mbox{PR}}=(0,\cos B\sin C,\sin A\sin D)
となるので,z 座標から \angle\mbox{RPQ}=D となり,
\cos B\sin C=\mbox{PR}\cos D=\sin A\cos D
が成立する.

よって
\sin C \tan D=\dfrac{\sin A\cos D}{\cos B}\cdot \tan D=\dfrac{\sin A\sin D}{\cos B}
=\dfrac{\sin B}{\cos B}(∵②)
=\tan B
であり,
\tan A\cos D=\dfrac{\sin A\cos D}{\cos A}
=\dfrac{\cos B\sin C}{\cos B\cos C}(∵①②)
=\tan C
となる.

直角球面三角形の公式(ネイピアの円)が簡単になるのは,このように球面三角形の各量を直方体で表現することができるからであり,この直方体を用いると他の公式も導くことができる.