[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1887年(明治20年)東京農林學校(九月)-代數學

2020.11.07記
昔は数字の「二」とカタカナの「ニ」などが区別し易いように、カタカナのフォントは小さ目だった


【代數學】(二時間)

[1] 和ヲ倍スルハ逐一其加フ可キ數ヲ倍スルニ等シ此證ヲ問フ

[2] \dfrac{2x}{2y-c}\cdot\Bigl(\dfrac{y+c}{3}-\dfrac{c}{2}\Bigr)\dfrac{a^3b-a^2b^2+ab^3}{3a^4b-3ab^4} ヲ最簡式ニ化セ

[3] 甲乙ニ商元金併セテ五百圓ヲ以テ社ヲ結ビ其元金ヲ商社ニ投ズルヿ甲ハ五ヶ月乙ハ二ヶ月ニシテ元利合計各四百五拾圓ヲ得タリ問各商ノ元金各幾何

[4] 一次二元方程式ヲ解キ各未知数ヲ求ムルニ幾証アリヤ例ヲ擧ゲテ之ヲ示セ

[5] \sqrt[-n]{a^m}\sqrt[n]{\dfrac{1}{a^m}} ニ等シキヲ證セヨ

[6] 正方形ナル大小兩牧塲相接シテ一邊直線ヲナシ其長サ a ニシテ兩牧塲面積ノ和ハ b ナリ問フ此牧塲ヲ合シテ一トナシ其周圍ニ柵ヲ結ハンニハ其長幾何


2022.05.22記


[1] 和を自然数倍するときは、それぞれを自然数倍したものの和に等しいことを証明せよ.
(実数倍だと面倒なので)

[2] \dfrac{2x}{2y-c}\cdot\Bigl(\dfrac{y+c}{3}-\dfrac{c}{2}\Bigr) および \dfrac{a^3b-a^2b^2+ab^3}{3a^4b-3ab^4} を簡単にせよ.

[3] 甲乙が元金合わせて500圓を商社に投じて甲は5ヶ月、乙は2ヶ月にて元利合計としてそれぞれ450圓を得たという.それぞれの元金はいくらか
(但し単利とする).

[4] 2元一次方程式を解いて各未知数を求める方法は何種類あるか、例を擧げて示せ.

[5] \sqrt[-n]{a^m}\sqrt[n]{\dfrac{1}{a^m}} に等しいことを証明せよ.

[6] 正方形である大小2つの牧塲があり,それぞれのある一邊はつながって直線をなし、その邊の長さの和が a,面積の和が b であるという.此の牧塲を合わせて1つとして其の周圍に柵を作るときの長さはいくらか.


2022.05.22記

[解答]
[1] n 個の和の自然数 k 倍について示すには厳密には n,k の二重帰納法で示すべきだが、当時の感覚だと「…」で十分だろう.
(a_1+a_2+\cdots+a_n)\times k
=(a_1+a_2+\cdots+a_n)+\cdots+(a_1+a_2+\cdots+a_n)
=(a_1+a_1+\cdots +a_1)+(a_2+a_2+\cdots +a_2)+\cdots +(a_n+a_n+\cdots +a_n)
=(a_1\times k)+(a_2\times k)+\cdots +(a_n\times k)

[2] 普通に計算すれば \dfrac{x}{3}および\dfrac{1}{3(a-b)} となる.

[3] 甲の元金を x とし、単利の利率を y とすると
 x(1+5y)=450(500-x)(1+2y)=450
が成立する.y を消去して
 (10y=)\dfrac{900}{x}-2=\dfrac{2250}{500-x}-5
から
 x^2+11x\times (50)-60\times (50)^2=0
つまり
 (x+750)(x-200)=0
となるが 0\leqq x\leqq 500 より [tex=200] よって甲の元金は二百圓,乙の元金は三百圓.

単利が月25%ってすごいな.

[4] 加減法、比較法、代用法、未定乗法の4種類ある.

加減法は、2式をそれぞれ定数倍して引いて1文字消去する方法である.

比較法は、2式を例えば x= の形にして比較する方法である.

代用法(現在の代入法)は、1式を例えば x= の形にして、もう1つの式に代入する方法である.

未定乗法は、加減法の派生アルゴリズムであり,
ax+by=ecx+dy=f
連立方程式から未定乗数 \lambda を導入した
(a-\lambda c)x+(b-\lambda d)=e-\lambda f
から
\lambda_1=\dfrac{a}{c} から x を消去して y=\dfrac{e-\lambda_1 d}{b-\lambda_1 d} と求め,
\lambda_2=\dfrac{d}{y} から y を消去して x=\dfrac{e-\lambda_2 d}{a-\lambda_2 c} と求める方法である.

魯敏孫 (ロビンソン)の校訂代数学(上巻、p.251)
(原著はNew university algebra : Robinson, Horatio N. (Horatio Nelson), 1806-1867 : Free Download, Borrow, and Streaming : Internet Archive
によると
「省元法四アリ、曰ク加減、曰ク比較、曰ク代用、曰ク未定乗法是ナリ」
(There are four principal methods of elimination:
1st, By addition and subtraction; 2d, By comparison; 3d, By substitution; 4th, By indeterminate multipliers.)
とあるが,その後すぐに出版された
New elementary algebra: containing the rudiments of the science for schools and academies : Robinson, Horatio N. (Horatio Nelson), 1806-1867 : Free Download, Borrow, and Streaming : Internet Archive
のp.140 の 148. Elimination には

There are three principal methods of elimination:
1st, By substitution; 2d, By comparison; 3d, By addition and subtraction.
(主に3つの消去法がある.代入法、比較法、加減法である)

と、未定乗法はなくなっている. 未定乗法は加減法の派生アルゴリズムだから省略されたのだろうか.この未定乗法は、クラメルの公式の萌芽になっている.

なお、魯敏孫 (ロビンソン)の校訂代数学(上巻)には、

「此省元法ハ仏朗西人 ビゾウ 氏ノ作ル所ナリ、是ヲ未定乗法ト名ツクル者ハ、初メ之ヲ用ユルノ際ニ方テ、未タ確定セサルカ為メナリ、精密ニ之ヲ推考スレハ、實ニ定マラサルニ非ス、盖シ未知數ヲ省カント欲スレハ、必ス之ニ一定ノ數價を附與せざる可からす、其數價タルヤ施術ノ間ニ於テ常ニ確定スル者ナリ」(誤植らしきところは修正済)
(This method of elimination is due to the French writer, Bezout. It is called the method of indeterminate multipliers, because the multipliers which we employ are at first undetermined. Strictly speaking, the multipliers thus used are not indeterminate ; for, in order to effect the elimination of the unknown quantities, they must have certain definite values, which values are always determined in the course of the operation.)

とある.このビゾウ氏は Étienne Bézout (ベズーの定理で有名な)だろう.彼も行列式の研究で大きな仕事をしている.

[5] \sqrt[-n]{a^m}=(a^m)^{-\dfrac{1}{n}}=a^{-\dfrac{m}{n}}
=(a^{-m})^{\dfrac{1}{n}}=\sqrt[n]{\dfrac{1}{a^m}}

[6] 大きい正方形の一辺の長さを x,小さい方を y とすると
x+y=ax^2+y^2=b から
x=\dfrac{a+\sqrt{2b-a^2}}{2}y=\dfrac{a-\sqrt{2b-a^2}}{2}
となる.周囲の長さは 2a+2x=3a+\sqrt{2b-a^2}