[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1982年(昭和57年)東京大学-数学(理科)[1]

2023.08.23記

[1] 行列 A=\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} によって定まる xy 平面の1次変換を f とする.原点以外のある点 \mbox{P}f によって \mbox{P} 自身にうつされるならば,原点を通らない直線 l であって,l のどの点もfによって l の点にうつされるようなものが存在することを証明せよ.

本問のテーマ
ジョルダン標準形
不動点と原点を通らない不動直線(縮退する場合もある)

2020.11.26記

ジョルダン標準形

2\times 2 行列 A固有値

(i) 相異なる\alpha,\beta の場合,A はある逆行列をもつ行列 P を用いて
P^{-1}\begin{pmatrix} \alpha & 0 \\ 0 & \beta \end{pmatrix}P
と変形できる.

(ii) \alpha で重解の場合,A=\alpha II単位行列)であるか,そうでない場合はある逆行列をもつ行列 P を用いて
P^{-1}\begin{pmatrix} \alpha & 1 \\ 0 & \alpha \end{pmatrix}P
と変形できる.

[大人の解答]
f 原点以外の不動点をもつので,固有値 1 をもつ.

よって f の表現行列を A とすると,Aジョルダン標準形は \begin{pmatrix} 1  & 0 \\ 0 & \beta \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1  & 1 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} となる.前者の場合は \beta\neq1 のときは x=kk\neq 0)が原点を通らない不動直線(\beta=0ならば不動直線は縮退し,もとの直線上の1点となる)となり,\beta=1 のときは単位行列なので原点を通らないあらゆる直線が原点を通る不動直線となる.また,後者の場合は y=kk\neq 0)が原点を通らない不動直線となる.

固有値重解の場合の議論をうまくするために,図形的に解くのが厄介であることが,この問題が難問とされる理由だと考えられる.また,直線が点にうつる場合もあるので表現がわかりにくくなっているのも難問といわれる理由の1つだろう.

まず,固有値固有ベクトルを頭においた解答をしよう.ここでは,場合分けを少なくするために難しくするより,考え易いようにあえて場合分けを多くした.

[解答]
直線 \rm OP 上の点は全て不動点である.

直線 \rm OP 上にない点 \rm Q をとり,その像を \rm R とする.ここで \rm Q=R のとき,一次独立な2つのベクトル \vec{\rm OP}\vec{\rm OQ} が自分自身にうつされるので,平面上の任意の点が不動点となる.よってl として原点を通らない任意の直線を選べば良い.

以下, \rm Q\neq R とする.直線 \rm QR と 直線 \rm OP の交点が「ない,原点以外,原点」で場合分けする.

(i) \vec{\rm QR}\parallel \vec{\rm OP} のとき,\vec{\rm QR}=k \vec{\rm OP} とかける.

直線 \vec{\rm OX}=\vec{\rm OQ}+\lambda \vec{\rm OP} は直線\rm OPに平行な原点を通らない直線であり,
直線 \vec{\rm OX'}=\vec{\rm OR}+\lambda \vec{\rm OP}=\vec{\rm OQ}+(\lambda+k) \vec{\rm OP} となるので,これを l とすれば良い.

(ii) \vec{\rm QR}\not\parallel \vec{\rm OP} のとき,直線 \rm QR,OP の交点を \rm S とする.
このとき\vec{\rm SR}=m \vec{\rm SQ} とかける.

(a) \rm S\neq\rm O のとき,\rm S は原点とは異なる不動点であるから,
直線 \vec{\rm OX}=\vec{\rm OS}+\lambda \vec{\rm SQ} は原点を通らない直線であり,
直線 \vec{\rm OX'}=\vec{\rm OS}+\lambda \vec{\rm SR}=\vec{\rm OS}+m\lambda \vec{\rm SQ} となるので,これを l とすれば良い.

(b) \rm S=\rm O のとき,\vec{\rm OQ}固有ベクトルであるから,
直線 \vec{\rm OX}=\vec{\rm OP}+\lambda \vec{\rm OQ} は原点を通らない直線であり,
直線 \vec{\rm OX'}=\vec{\rm OP}+\lambda \vec{\rm OR}=\vec{\rm OP}+m\lambda \vec{\rm SQ} となるので,これを l とすれば良い.

\rm Q=R の場合が単位行列

\rm Q\neq R の場合において,
(i) が固有値が1で重解(で単位行列の定数倍でない)
(ii) (iii) が固有値が1とそれ以外の場合

に対応している.(ii),(iii)の場合分けは固有ベクトルの方向がわからないので,それを取り出すために場合分けが生じている.どの場合分けもほとんど同じ内容になっているには理由があって,それは \vec{\rm QR}固有ベクトルになっている ということである.これはケーリー・ハミルトンの定理から (A-I)(A-\beta I)=O と書けるので,\vec{\rm QR}=(A-I)\vec{\rm OQ} に対して
A\vec{\rm QR}=A(A-I)\vec{\rm OQ}=\beta (A-I) \vec{\rm OQ}=\beta \vec{\rm QR}
が成立するからである.これを利用した解答が大数の当時の解答になるが,大数の解答は固有値固有ベクトルを出さずに議論しているので読むのが大変になっている.

[大人の解答]
A固有値1をもつので,もう一つの固有値\beta とすると,任意のベクトル \vec{x} に対して (A-I)\vec{x}=\beta (A-I)\vec{x} となる.

直線 \rm OP 上にない点 \rm Q をとり,その像を \rm Q' とする.また \rm \vec{OP}+\vec{OQ}=\vec{OR} なる \rm R(\neq Q) の像を \rm R'(\neq Q') とする.
このとき,\rm \vec{QQ'}=\vec{RR'} が成立する.ここで \rm \vec{QQ'}=\vec{RR'}=\vec{u} とおくと,A\vec{u}=\beta\vec{u}が成立する.

(i) 直線 \rm Q'R' が 直線 \rm QR と一致するとき,これを l とすれば良い.

(ii) 直線 \rm Q'R' が 直線 \rm QR と一致しないとき
\rm Q'\neq Q,R'\neq R となり,四角形 \rm QRR'Q' は縮退していない平行四辺形である.よって 直線 \rm RR',直線 \rm QQ' は一致しない平行直線なので,これら2直線の少なくとも一方は原点を通らない.そしてこれら平行2直線は直線 \rm OP に平行ではないので,直線 \rm OP と交点をもち,それは不動点である.そして直線の方向ベクトル \vec{u}固有ベクトルであるからそれぞれは不動直線である(\beta=0のときは縮退する).よって平行2直線のうち原点を通らない方を l とすれば良い.

図形的でない解法として,次の解法が知られている.

[大人の解答]
f が原点以外の不動点をもつことと A固有値1をもつことは同値で,これは A^{\top}固有値1をもつことと同値である.

A^{\top}固有値1に対応する固有ベクトル\begin{pmatrix} p \\ q \end{pmatrix} とするとき,
直線  (p,q)\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}=1 を考えると,
 \begin{pmatrix} X \\ Y\end{pmatrix}=A\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} に対して
 (p,q)\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}=1 \Longleftrightarrow (p,q)A\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}=1 \Longrightarrow (p,q)\begin{pmatrix} X \\ Y \end{pmatrix}=1
であるから,px+qy=1 上の点の像は px+qy=1 上にあることがわかる(直線全体になるとは限らない).