[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1993年(平成5年)東京大学後期-数学[2]

[2] xy 平面において,直線 l と点 {\rm A} の距離を d(l,{\rm A})と書くことにする.さらに,相異なる3点{\rm A}=(x_1,y_1),{\rm B}=(x_2,y_2),{\rm C}=(x_3,y_3) が与えられたとき f(l)=\{d(l,{\rm A})\}^2+\{d(l,{\rm B})\}^2+\{d(l,{\rm C})\}^2 とおく.

(1)ある与えられた直線に平行な直線のうち,f(l) を最小にする直線 l_0 は三角形 {\rm ABC} の重心を通ることを示せ.

(2) 異なる 3 本の直線が f(l) を最小にするならば,三角形 {\rm ABC} は正三角形であることを示せ.

本問のテーマ
直交回帰または主成分分析

2019.02.22記
(2020.08.10に「大人の解法」の(1)の解を[解答](1)に移動し、(1)の解法を変更し、(1)の記号に合わせて(2)を修正)

3点への2乗距離が最小となるような直線を推定する問題。直線の方向を固定したとき、極小かつ最小を与えるのは、微分すれば重心を通ることはすぐにわかる。(2)は条件が過剰で、2本であれば十分。2次元データの主成分分析を考えると、通常は最小となる方向は1つしかないが、それが2つあるということは、データの分散共分散行列が単位行列の定数倍になるということ。3点からなるデータの分散共分散行列が単位行列の定数倍になるということは、3点が正三角形をなすということ。

[大人の解答]
三角形の重心が原点となるように平行移動しておく.このとき  x_1+x_2+x_3=y_1+y_2+y_3=0が成立する.

(1) 以下, E[X]=\dfrac{1}{3}(x_1+x_2+x_3)のように表すことにする.

直線の式を ax+by=c とすると
\displaystyle \dfrac{1}{3}(a^2+b^2)f(l)=\dfrac{1}{3}\sum_{i=1}^3\{ax_i+by_i-c\}^2=E[(aX+bY-c)^2]=c^2-2(aE[X]+bE[Y])c+E[(aX+bY)^2] =c^2+E[(aX+bY)^2]
により,これは c=0 で最小.つまり原点である三角形の重心を通る.

(2)データの分散共分散行列が単位行列になるとき, E[X^2]=E[Y^2]=p^2(p\gt 0)とおく)かつE[XY]=0となる.これと E[X]=E[Y]=0 が成立する.
A=\begin{pmatrix} x_1 & x_2 & x_3 \\ y_1 & y_2 & y_3 \\ p & p & p \end{pmatrix}
とおくと,データの分散共分散行列は \dfrac{1}{3}AA^{\top}=p^2 II単位行列)だから,\dfrac{1}{\sqrt{3}p}Aは直交行列なので,A^{\top}A=3p^2 Iも成立する.これから x_1^2+y_1^2=x_2^2+y_2^2=x_3^2+y_3^2=2p^2が成立するので,{\rm A,B,C}は原点中心半径\sqrt{2}pの円周上にある.外心と重心が一致しているので,この3点は正三角形をなす.

2020.08.10記
この大人の解法の分散共分散の部分は次のよう空間ベクトルで処理することができる.

p^2=\dfrac{1}{3}(x_1^2+x_2^2+x_3^2)=\dfrac{1}{3}(y_1^2+y_2^2+y_3^2) とおく.

 \vec{\rm OX}=\dfrac{1}{\sqrt{3}p}(x_1,x_2,x_3) \vec{\rm OY}=\dfrac{1}{\sqrt{3}p}(y_1,y_2,y_3) \vec{\rm OZ}=\dfrac{1}{\sqrt{3}p}(p,p,p) とおくと,
 \vec{\rm OX}\vec{\rm OY} \vec{\rm OZ} は互いに直交する単位ベクトルである.

よって,正射影ベクトルを利用すると,
(\sqrt{3}p,0,0)=x_1\vec{\rm OX}+y_1\vec{\rm OY}+p\vec{\rm OZ}
(0,\sqrt{3}p,0)=x_2\vec{\rm OX}+y_2\vec{\rm OY}+p\vec{\rm OZ}
(0,0,\sqrt{3}p)=x_3\vec{\rm OX}+y_3\vec{\rm OY}+p\vec{\rm OZ}
が成立する.よって
 3p^2=x_1^2+y_1^2+p^2 3p^2=x_2^2+y_2^2+p^2 3p^2=x_3^2+y_3^2+p^2
となる.(以下略)

(1)は大人の解法と同じようにして展開しても良いが、微分しておく.

[解答]
三角形の重心が原点となるように平行移動しておく。このときx_1+x_2+x_3=y_1+y_2+y_3=0が成立する。

(1)直線の式を(\cos\theta)x+(\sin\theta)y=cとすると
\displaystyle f(l)=\sum_{i=1}^3\{(\cos\theta)x_i+(\sin\theta)y_i-c\}^2
となる.この c^2 の係数が正の2次関数をc微分すると
6c-2\{(\cos\theta)(x_1+x_2+x_3)+(\sin\theta)(y_1+y_2+y_3)=6cとなるので,c=0で極小かつ最小.つまり原点である三角形の重心を通る.

(2) \alpha=\dfrac{1}{3}(x_1^2+x_2^2+x_3^2)\beta=\dfrac{1}{3}(x_1y_1+x_2y_2+x_3y_3)\gamma=\dfrac{1}{3}(y_1^2+y_2^2+y_3^2) とおくと
\displaystyle f(l)=\sum_{i=1}^3\{(\cos\theta)x_i+(\sin\theta)y_i\}^2=\alpha \cos^2\theta+\beta\cos\theta\sin\theta+\gamma\sin^2\theta=\dfrac{\alpha-\gamma}{2}\cos\theta+\beta\sin2\theta+\dfrac{\alpha+\gamma}{2}=K\cos(2\theta+\tau)+\dfrac{\alpha+\gamma}{2}
K=\dfrac{\sqrt{(\alpha-\gamma)^2+4\beta^2}}{2}\tau\sin\tau=\dfrac{\alpha-\gamma}{\sqrt{(\alpha-\gamma)^2+4\beta^2}}\cos\tau=\dfrac{2\beta}{\sqrt{(\alpha-\gamma)^2+4\beta^2}} をみたす角度)のように書くことができる.K\neq 0 のとき, 0\leqq 2\theta\lt 2\pi におけるこの関数の最小値 を与える \theta は1つしかないので,このような \theta が2つあるためには K=0 が必要十分である(このとき f(l) は定数となる).よって \alpha=\gamma\beta=0 が成立する.

よって  x_1^2+x_2^2+x_3^2=y_1^2+y_2^2+y_3^2x_1y_1+x_2y_2+x_3y_3=0x_1+x_2+x_3=y_1+y_2+y_3=0 のときに三角形 {\rm ABC} が正三角形であることを示せばよい.

今,点と直線の距離は回転によって不変であるから,座標系を回転しても f(l) は不変であるから, x_3=-2ty_3=0 であるとしても一般性は失わない. このとき条件式は  x_1^2+x_2^2+4k^2=y_1^2+y_2^2x_1y_1+x_2y_2=0 x_1+x_2=2k y_1+y_2=0 となる.

このとき条件式から x_2y_2 を消去すると
 x_1^2+(2k-x_1)^2+4_k^2=2y_1^22(x_1-k)y_1=0
となる.後者から x_1=k または y_1=0 となるが,y_1=0 の場合,y_1=y_2=y_3 となって {\rm A,B,C} は三角形の3頂点とはならないので不適.よって x_1=k となる.

そして,x_2=k(y_1,y_2)=(\pm\sqrt{3}k,\mp\sqrt{3}k(複号同順)となり, {\rm A,B,C} は正三角形の3頂点をなす.

最初に紹介した大人の解法は統計で習う事柄を利用したものであるが,次のような考え方もある.

補題1] 任意の三角形を一方方向に縮小すると正3角形になる.
補題2] 1辺の長さが a の正3角形の重心を通る直線に3頂点から下した垂線の長さの2乗和は \dfrac{a^2}{2} で一定.

ということが知られている.[補題1]は雑誌大学への数学1985年4月号の宿題
三角柱の切り口に正三角形があること - 球面倶楽部 零八式 mark II
からわかり,[補題2]は、三角比を用いて簡単に示せる.

[大人の解答2]
(2) 次の2つの補題が知られている.

補題1] 任意の三角形を一方方向に縮小すると正3角形になる.
補題2] 1辺の長さが a の正3角形の重心を通る直線に3頂点から下した垂線の長さの2乗和は \dfrac{a^2}{2} で一定.

\triangle{\rm ABC} に対して補題1で得られた正三角形を \triangle{\rm XYZ} とし,その正三角形の1辺の長さを a とする.この縮小によって lm にうつったとする.

一方方向への縮小により線分長は長くはならず,垂線の足は垂線の足にうつるとは限らないので、
 d(l,{\rm A})\geqq d(m,{\rm X}) d(l,{\rm B})\geqq d(m,{\rm Y}) d(l,{\rm C})\geqq d(m,{\rm Z})
が成立し,補題2から, f(l)\geqq \dfrac{a^2}{2}(=(一定))となる.

等号成立は,

(i) 一方方向への縮小により線分長が変わらない(線分の方向が縮小方向に垂直)
(ii) 垂線の足が垂線の足にうつる

の両方をみたす,つまり l が縮小方向に一致するとき(外接楕円の長軸方向のとき).

このような方向が2つあるということは,縮小倍率が1のときにしか起こらない.つまり \triangle{\rm ABC}がはじめから正三角形であるときだけである.

1985年4月号の宿題の問題と同趣旨の問題が、
2010年お茶の水大学に出題されている。

2020.08.31追記
冒頭に異なる3本の直線、というのは過剰条件だと述べたが,それは
ab平面の最小化問題において,(a,b) が解なら (-a,-b) も解となることを利用すると、異なる2本の直線が、異なる4つの (a,b) となるからであった.

異なる3本の直線というのは、異なる3つの (a,b) を表現したかったのだと思うと、そのように誘導をした意味が何となくわかる.

[大人の解答3]

三角形の重心が原点となるように平行移動しておく.このとき  x_1+x_2+x_3=y_1+y_2+y_3=0が成立する.

(1) 以下, E[X]=\dfrac{1}{3}(x_1+x_2+x_3)のように表すことにする.

直線の式を ax+by=ca^2+b^2=1)とすると
\displaystyle \dfrac{1}{3}f(l)=\dfrac{1}{3}\sum_{i=1}^3\{ax_i+by_i-c\}^2=E[(aX+bY-c)^2]=c^2-2(aE[X]+bE[Y])c+E[(aX+bY)^2] =c^2+E[(aX+bY)^2]
により,これは c=0 で最小.つまり原点である三角形の重心を通る.

(2) (1)より a^2+b^2=1 のもとでの正値2次形式
 F(a,b)=E[(aX+bY)^2] =E[X^2]a^2+2E[XY]ab+E[Y^2]b^2 の最小値を m とすると,F(a,b)=m は二次曲線(楕円)であり、二次曲線(円)a^2+b^2=1 と少なくとも異なる3点で接する.

もし、2つの2次曲線が共通成分をもたないと仮定すると、ベズーの定理により交点数は重複度も込めてちょうど4つとなるが、3点で接する場合は交点数が6以上となり矛盾.

よって、F(a,b)=m は単位円と共通成分をもつこととなり、つまり単位円と一致する.

このとき,E[X^2]a^2+2E[XY]ab+E[Y^2]b^2=ma^2+b^2=1 と一致するので  E[X^2]=E[Y^2]=m,E[XY]=0 が成立する.これと E[X]=E[Y]=0 が成立する.

A=\begin{pmatrix} x_1 & x_2 & x_3 \\ y_1 & y_2 & y_3 \\ \sqrt{m/3} & \sqrt{m/3} & \sqrt{m/3} \end{pmatrix}
とおくと,\dfrac{1}{3}AA^{\top}=m/3 II単位行列)だから,\dfrac{1}{\sqrt{m}}Aは直交行列なので,A^{\top}A=m Iも成立する.これから x_1^2+y_1^2=x_2^2+y_2^2=x_3^2+y_3^2=2m/3が成立するので,{\rm A,B,C}は原点中心半径\sqrt{2m/3}の円周上にある.外心と重心が一致しているので,この3点は正三角形をなす.

本問がちゃんと解けることを示すとき,ベズーの定理で納得してたんじゃないかと思う(嘘)。

2020.09.07記
参考
立方体の一辺の長さ - 球面倶楽部 零八式 mark II