[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2008年(平成20年)東京大学後期-総合科目II[2]A

[2] 部屋の温度など,時間によって変化する現象を理解するためには,注目している量が微小時間 \Delta t の間にどれだけ変化するかを,その現象を特徴付ける関係式に基づいて考察することが必要である.

A
室内に汚染質発生源があるとき室内の空気の汚染質濃度の時間変化を考える.単位時間に室内で汚染質が q[{\rm m}^3/{\rm h}] 増加する.また,換気によって,単位時間に室内の空気が V[{\rm m}^3/{\rm h}] 排出され,同量の室外の空気が室内に流入する.室容積は W[{\rm m}^3] とし, 室外の汚染質濃度を \rho [{\rm m}^3/{\rm m}^3] とする.ここで,q,V,W,\rho は正の定数とする.このとき,室内の汚染質濃度 x[{\rm m}^3/{\rm m}^3] を時間 t の関数として以下のように記述しよう.ただし,室内に流入したり室内で発生したりする汚染質は瞬間的に拡散し,汚染質は吸着や化学変化を起こさず,空気の温度は変化しないものとする.

[図]

微小時間 \Delta t における室内の汚染質濃度の増分を \Delta x とすると,室内の汚染質の体積の増分 W\cdot\Delta x
q\cdot\Delta t+V\rho\cdot\Delta t-Vx\cdot\Delta t…… ①
で近似される.

等式
\dfrac{\Delta x}{\Delta t}=\dfrac{q+V\rho -Vx}{W}
において,\Delta t を限りなく 0 に近づけることにより,関係式
\dfrac{dx}{dt}=\dfrac{q+V\rho-Vx}{W}……②
が得られる.

(A-1) 式①の各項がどのような量を表すかを,それぞれ述べよ.

(A-2) 室内の汚染質濃度 x がある値をとると,時間が変化してもその値が変化しなくなる.このような x の値を求めよ.

式②を変形すると
\dfrac{1}{\dfrac{q}{V}+\rho -x}\cdot\dfrac{dx}{dt}=\dfrac{V}{W}……③
となる.

(A-3) 式③の左辺の t についての不定積分x の関数として表せ.

式③の両辺を t について不定積分することにより,式②を満たす xt の関数として
x=\alpha+\beta e^{-\gamma t}……④
の形に表されることがわかる.ただし,\alpha\beta\gamma は定数である.

(A-4) t=0 における x の値を x_0 として,式④の定数 \alpha\beta\gammaq\rhoVWx_0 を用いて表せ.

2021.02.08記

[解答]

(A-1) q\cdot\Delta t は,微小時間における室内の汚染質発生源から発生する汚染質の増分,
V\rho \cdot\Delta t は,微小時間に室外から取り込まれることによる汚染質の増分,
-Vx\cdot\Delta t は,微小時間に室外に排出される汚染質の減分

(A-2) 平衡状態では①が 0 となるので x=\dfrac{q}{V}+\rho

(A-3) -\log\Bigl|\dfrac{q}{V}+\rho-x\Bigr|+C(Cは積分定数)

(A-4) -\log\Bigl|\dfrac{q}{V}+\rho-x\Bigr|+C=\dfrac{V}{W}t により
\dfrac{q}{V}+\rho-x=\pm e^C\cdot e^{-\frac{V}{W}} となり,(A-2) により
x=\dfrac{q}{V}+\rho -\Bigl(\dfrac{q}{V}+\rho -x_0\Bigr)e^{-\frac{V}{W}}だから,
\alpha=\dfrac{q}{V}+\rho\beta=-\Bigl(\dfrac{q}{V}+\rho -x_0\Bigr)\gamma=-\dfrac{V}{W}