[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2009年(平成21年)東京大学後期-総合科目II

[1] 多くのデータを扱うことは,さまざまな分野で必要になる.大量のデータを整理する際に,ある基準によってデータの間に序列をつけることが有用である.また,データを転送するときには,ノイズによる転送の誤りの確率を小さくするような工夫が必要である.

A
n 種類の成分 A_1,…,A_n を混ぜ合わせて製品を作る.この製品に含まれる A_1,…,A_n の重さの比率のデータを p_1,…,p_n とする. p_1,…,p_n
\displaystyle\sum_{k=1}^n p_k=10\leqq p_k\leqq 1k=1,…,n
を満たす実数である.また A_1,…,A_n の単位重量あたりの価格を x_1,…,x_n とする.ただし, x_1,…,x_n
x_k\lt x_{k+1}k=1,…,n-1
を満たす正の定数である.この製品の単位重量あたりの材料の費用は
v=\displaystyle\sum_{k=1}^n x_k p_k
で表される.

(A-1) 材料の費用 v が最小となるような,p_1,…,p_n の値を求めよ.

(A-2) q_1,…,q_n
\displaystyle\sum_{k=1}^n q_k=10\leqq q_k\leqq 1k=1,…,n
を満たす実数とする.すべての m = 1,…,n-1 に対して
\displaystyle\sum_{k=1}^n p_k\leqq \displaystyle\sum_{k=1}^n q_k
となるとき,それぞれの製品の材料の費用について
\displaystyle\sum_{k=1}^n x_kp_k\leqq \displaystyle\sum_{k=1}^n x_kq_k
が成り立つことを示せ.

(A-3) n=3とし,,
p_1\geqq p_3p_2\leqq p_3
が成り立つとする.このとき,材料の費用が最大となるような,p_1p_2p_3 を求めよ.


B
コンピュータで扱うデータは,2つの数字 0,1 からなる列として表されることが多い.数字 0,1 からなる長さ n の列を,送信者 A から受信者 B に転送することを考える.情報を転送する際にノイズが入るために,0が1に,1が0に,それぞれ確率 p で入れ替わって伝わる.ここで,p0\leqq p\lt 1 を満たす定数である.

例えば、長さ8の数字の列 01001100 が
11001100
と伝わる確率は,1番目の数字のみが入れ替わっているので,p(1-p)^7 である.また 01001100が
00011100
と伝わる確率は,2番目と4番目の数字が入れ替わっているので,p^2(1-p)^6 である.

(B-1) 数字0,1からなる長さ n の列を1回送るとき,誤って伝わる数字の個数が偶数個である確率を P(n) とおく.ただし,誤りがない場合は0個の誤りがあったと考える.P(n+1)pP(n) を用いて表せ.

(B-2) P(n)pnを用いて表せ.

データが誤って伝わる確率を小さくするために,データを表す 0,1 からなる n 個の数字の列の後に,データの中に1が奇数個あるときは1を,偶数個あるときは 0を付け加えて,全部で n+1 個の数字の列をAからBに送る.この末尾に付け加える数字をパリティビットとよぶ.受信者Bは,パリティビットが,受け取っ たデータの n 個の数字の中の1の個数と合っていれば,情報が正しく送られたと判断してそのまま情報を受け取る.合っていなければ,情報が誤って送られたと判断して,A に再度同じ情報,つまり7個の数字の列とパリティビットを送ってもらう.この手続きを,受信者Bが,正しくデータを受信できたと判断するまで繰り返す.ただし,パリティビットも,他の n 個の数字と同様に確率 pで入れ替わって伝わる.

(B-3) 送信者 A が,n 個の数字からなるデータとパリティビットを合わせて n+1 個の数字からなる列を1回目に送るとき,受信者Bが A に再送を要求する確率を pn を用いて表せ.

(B-4) Bがデータを正しく受信したと判断して通信が終了するまでに,A が送信する数字の個数の期待値を pn を用いて表せ.

[2] 時間によって移動する点の動きなど,連続的に変化する現象を調べるときには,現象を表す関数の値を数列によって近似して,離散的なモデルを考えることができる.これらを対照して考察することや,連続的な現象を離散的なモデルの極限としてとらえることは,しばしば有効である.

A
数列 \{a_n\} に対して,b_n=a_{n+1}-a_nn=1,2,… とおく.数列 \{b_n\}
 b_{n+1}=b_n+\dfrac{1}{a_n^2}n=1,2,…
を満たすとする.また a_1=1,b_1=1 とする.

(A-1) n=1,2,… について, a_n\geqq n が成立することを示せ.

(A-2) すべての自然数 n について,\displaystyle\sum_{k=1}^n\dfrac{1}{k^2}\lt 2 を示せ.

(A-3) a_n\leqq 3n-2 となることを示せ.

数直線上を運動する点 \rm P の座標を時間 t の関数として x=f(t) で表す,ただし,t\geqq 0 とする.点 \rm P の速度 v(t)=f(t) について v'(t)=\dfrac{1}{f(t)^2} が成立するとする.また,f(0)=1v(0)=1 とする.ここで f(t),v(t) は微 分可能な関数であるとする.

(A-4) 不等式 f(t)\geqq 1+t が成り立つことを示せ.

(A-5) f(t)\leqq 1 + 2t - \log(1 + t) を示せ.ただし,\log(1+t) は自然対数を表す.


B
図 2-1 のように,ひもの一方の端点を水平面に垂直な壁に固定し,もう一方の端点を壁とひものなす角が直角になるように手で持つ.このとき,手で持つ位置と壁の距離がどれくらいになるかを,次のように考察してみよう.

図2-2のように,質量が m[\mbox{kg}] のおもりを,いくつか等間隔にひもでつなぎ,その一方の端を壁に固定して,他方の端を手で支える.ただし,それぞれのひもはまっすぐで,壁に固定されているひもは壁に垂直であるとする.となり合うおもりの間隔は \ell [\mbox{m}]として,おもりの大きさとひもの太さ,およびひもの重さは無視することにする.壁の側から順番に,ひもを S_1,S_2,… とし,それらのひもの張力の大きさを,それぞれ t_1,t_2,…[\mbox{N}] とする.また,ひも S_i が水平方向となす角度を \theta_i とする.ここで,t_1=T とおく.重力加速度を  g[\mbox{m}/\mbox{s}^2] とする.

図2-1 (略)

図2-2 (略)


図2-3は,ひも S_iS_{i+1} でつながれているおもりにかかる力がつり合ってい ることを表す.ここで \vec{a}_i,\vec{a}_{i+1} は,それぞれひも S_iS_{i+1} の張力としておもりにかかる力のベクトル,\vec{b} はおもりにかかる重力のベクトルを表す.

図2-3 (略)

(B-1) ベクトル \vec{a}_i\vec{a}_{i+1}\vec{b} の大きさは,それぞれ t_it_{i+1}mg であることをふまえて,これらのベクトルの成分表示を t_it_{i+1}\theta_i\theta_{i+1}mg を用いて与えよ.

おもりにかかる力のつり合いの条件より,ベクトル \vec{a}_i\vec{a}_{i+1}\vec{b} の和は零ベクトルである.

(B-2) \tan\theta_i\tan\theta_{i+1} の関係を mgT を用いて表せ.

(B-3) \cos\theta_imgTi を用いて表せ.

(B-4) x=\dfrac{e^t-e^{-t}}{2} とおく置換積分法により,定積分 \displaystyle\int_0^a\dfrac{1}{\sqrt{x^2+1}}dx の値を求めよ.

おもりの質量の和 M[\mbox{kg}] と,ひもの長さの和 L[\mbox{m}] を固定する.おもりの個数を n 個とすると,
m=\dfrac{M}{n}\ell=\dfrac{L}{n} となる.このとき,ひもを手で支える位置と壁の距離を X_n[\mbox{m}] とおく.図2-1 のように,質量が M[\mbox{kg}]で長さが L[\mbox{m}] のひもの一方の端点を壁に固定して,もう一方の端点を手で持ち,壁とひものなす角が直角になるようにする.このとき,手で持つ位置と壁の距離は,極限値 \alpha=\displaystyle\lim_{n\to\infty}X_n で表されると考えられる.

(B-5) 上の極限値 \alphaM,L,T, g を用いて表せ.

2009年(平成21年)東京大学後期-総合科目II[1]A - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
2009年(平成21年)東京大学後期-総合科目II[1]B - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
2009年(平成21年)東京大学後期-総合科目II[2]A - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
2009年(平成21年)東京大学後期-総合科目II[2]B - [別館]球面倶楽部零八式markIISR