[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2008年(平成20年)東京大学後期-総合科目II[2]B

[2] 部屋の温度など,時間によって変化する現象を理解するためには,注目している量が微小時間 \Delta t の間にどれだけ変化するかを,その現象を特徴付ける関係式に基づいて考察することが必要である.

B
質量 m[\mbox{kg}] の物体の空気中での落下運動を考える.鉛直下向きを正とする物体の速度をv[\mbox{m}/\mbox{s}] とおく.物体はその速度 v に比例した空気抵抗を受けると仮定すると,速度 v の時間変化は関係式
m\dfrac{dv}{dt}=mg-k(m)v……⑤
で表される.ここで,k(m) は正の値をとる m のある関数で時間 t によらず一定である.また,g は重力加速度を表す.

(B-1) 物体を落下させた後,十分時間が経つと物体の速度 v は一定値
\bar{v}=\dfrac{mg}{k(m)}
に近づく.この理由を説明せよ.

(B-2) 質量 m を変えて \bar{v} を測定したところ,質量 m が大きいほど,\bar{v} の値がつねに大きくなるという単調性が観測された。次の(イ),(ロ),(ハ)の形の関数が,m\gt 0 において,つねにこの条件を満たすかどうかを,それぞれ述べよ.

(イ)k(m)=am+ba\gt0,b\gt0
(ロ)k(m)=am^2+ba\gt0,b\gt0
(ハ)k(m)=am^{\frac{1}{3}}+ba\gt0,b\gt0

(B-3) 式⑤を9ページの式②と比べ,本聞における物体の落下速度 v を第2問Aにおける室内の汚染質の濃度 x と対応させると,この2つの量の時間変化は同様の振る舞いをするととがわかる。この点に着目し,質量 m の物体を,初速度 を 0 として,空気中で落下させたときの,物体の速度の時間変化を示すグラフの概形を描け.

注)9ページの式②とは、[2]Aの式②のことである.

2021.02.09記

[解答]

(B-1) v-\bar{v} について,m\dfrac{dv}{dt}=-k(m)(v-\bar{v}) が成立し,-k(m)\lt 0 により,v\gt \bar{v} ならば v\gt \bar{v} ならば \dfrac{dv}{dt}\lt 0v\lt \bar{v} ならば \dfrac{dv}{dt}\gt 0 だから,v\bar{v} に近づく.

(B-2) \bar{v}=\dfrac{mg}{k(m)} であるから,

(イ)\dfrac{d\bar{v}}{dm}=\dfrac{gb}{(am+b)^2} は常に正だから条件をみたす.

(ロ)\dfrac{d\bar{v}}{dm}=\dfrac{g(b-am^2)}{(am^2+b)^2} は負の値もとりうるので条件をみたさない.

(ハ)\dfrac{d\bar{v}}{dm}=\dfrac{b\Bigl(b+\dfrac{2}{3}am^{\frac{1}{3}}\Bigr)}{(am^{\frac{1}{3}}+b)^2} は常に正だから条件をみたす.

(B-3) \dfrac{V}{W}\to\dfrac{k(m)}{m}\dfrac{q}{V}+\rho\to\dfrac{gm}{k(m)}x_0\to 0 と置き換えて v(t)=\dfrac{mg}{k(m)}\Bigl(1-e^{-\frac{k(m)}{m}t}\Bigr) となる.図示は略すが,単調増加で v=\bar{v} に漸近するグラフになる.