[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2008年(平成20年)東京大学後期-総合科目II[2]C

[2] 部屋の温度など,時間によって変化する現象を理解するためには,注目している量が微小時間 \Delta t の間にどれだけ変化するかを,その現象を特徴付ける関係式に基づいて考察することが必要である.

C
ある国全体の時点tにおける生産量を Y(t),資本量を K(t),投資量を I(t) とする.ここで,t0 以上の実数であり,Y(t),K(t),I(t) は正の実数を値にもつ微分可能な関数とする.これらの関数の間には次の関係式が成立しているとする.
Y(t)=K(t)^{\frac{1}{2}}……⑥
I(t)=sY(t)……⑦
ここで,s0\lt s\lt 1 を満たす定数で,貯蓄率とよばれる.生産量 Y(t)国民所得となり,その一部 sY(t) が貯蓄にまわされる.ここでは,貯蓄がすべて投資に用いられると仮定し,このことから式⑦が導かれる.一方,資本量の時間変化は
\dfrac{d}{dt}K(t)=I(t)-rK(t)……⑧
で表されるとする.ここで,r0\lt r\lt 1 を満たす定数で減価償却率とよばれる.以下,t=0 における資本量は K(0)=1 で与えられるとする.

(C-1) 式⑥,⑦,⑧より,\dfrac{d}{dt}Y(t)Y(t)r,s を用いて表せ.

(C-2) 上の問で求めた関係式に第2問Aと同様の方法を適用して,生産量 Y(t)t の関数として r,s を用いて表せ.

生産量 Y(t) のうち,貯蓄される分を除いた (1-s)Y(t) が消費に費やされる.C(t)=(1-s)Y(t) とおく.

(C-3) 消費量 C(t)t についての単調増加関数,単調減少関数,定数関数になるための r,s の条件を,それぞれ求めよ.

(C-4) すべての t\geqq 0 においてつねに C(t)\geqq c を満たす実数 c の中で最大の値を,最低消費量とよぶ.(C-3)のそれぞれの場合について最低消費量を求めよ.

(C-5) 与えられた減価償却r に対して,最低消費量を最大にするような貯蓄率 s を求めよ.

2021.02.09記

[解答]

(C-1) \dfrac{d}{dt}Y(t)=\dfrac{1}{2K(t)^{\frac{1}{2}}}\dfrac{d}{dt}K(t)=\dfrac{1}{2K(t)^{\frac{1}{2}}}\{I(t)-rK(t)\}=\dfrac{1}{2Y(t)}[sY(t)-r\{Y(t)\}^2]
=\dfrac{1}{2}\{s-rY(t)\}

(C-2) \dfrac{V}{W}\to\dfrac{r}{2}\dfrac{q}{V}+\rho\to\dfrac{s}{r}x_0\to 1 と置き換えて Y(t)=\dfrac{s}{r}+\Bigr(1-\dfrac{s}{r}\Bigr)e^{-\frac{r}{2}t}

(C-3) \dfrac{d}{dt}C(t)=(1-s)\dfrac{d}{dt}Y(t)=-(1-s)\Bigr(1-\dfrac{s}{r}\Bigr)\dfrac{r}{2} e^{-\frac{r}{2}t}=-\dfrac{(1-s)(r-s)}{2} e^{-\frac{r}{2}t} であるから,
単調増加 \Longleftrightarrow s\gt r,定数関数 \Longleftrightarrow s=r,単調減少 \Longleftrightarrow s\lt r

(C-4) \Longleftrightarrow s\gt r のとき,C(t)\geqq C(0)=(1-s)Y(0)=1-s より,c=1-s
\Longleftrightarrow s=r のとき,C(t)=1-s より,c=1-s
\Longleftrightarrow s\lt r のとき,C(t)\gt \displaystyle\lim_{t\to+\infty} C(t)=\dfrac{s(1-s)}{r} より c=\dfrac{s(1-s)}{r}

(C-5) t=c(s)=\left\{ \begin{array}{ll} \dfrac{s(1-s)}{r} & (0\lt s\leqq r) \\ 1-s & (r\leqq s\lt 1) \end{array}\right. であるから,
t=\dfrac{s(1-s)}{r} の頂点 \Bigl(\dfrac{1}{2},\dfrac{1}{4r}\Bigr) を含むかどうかで場合分けして

s=\left\{ \begin{array}{ll} r & (0\lt r\leqq \dfrac{1}{2}) \\ \dfrac{1}{2} & (\dfrac{1}{2}\leqq r\lt 1) \end{array}\right.