[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2020年(令和2年)東京大学-数学(理科)[1]

2020.10.14記

[1] a, \, b, \, c, \, pを実数とする.不等式
 ax^2+bx+c\gt0
 bx^2+cx+a\gt0
 cx^2+ax+b\gt0
をすべて満たす実数 x の集合と,x\gt p を満たす実数 x の集合が一致しているとする.

(1) a, \, b, \, c はすべて0以上であることを示せ.

(2) a, \, b, \, c のうち少なくとも1個は0であることを示せ.

(3) p=0 であることを示せ.

2020.02.26記

[解答]
(1) a\lt 0 と仮定すると,ax^2+bx+cx\to+\infty の極限を考えると負になるので解の集合が x\gt p と一致しないので矛盾.よってa\geqq 0 である。同様にb\geqq0c\geqq0 も言える.

(2) a,b,c\gt 0 と仮定すると、3つの2次不等式の左辺は全て x\to-\infty で正となるので解の集合が x\gt p と一致しないので矛盾.よって少なくとも1つは1次不等式でなければならず,a,b,c のうち少なくとも1つは0でなければならない.

(3) c=0 として一般性は失わない.このとき a=b=0 とすると不等式をみたす x の集合は空集合となり矛盾.よって a,b の少なくとも一方は0でなく正の値である.

そしてこのとき,
(ax+b)x\gt 0
bx^2+a\gt 0
ax+b\gt 0
のすべてをみたす x について考えれば良い。

(i) a\gt 0,b\gt 0 のとき、第2式は必ず成立する。第3式より x\gt -\dfrac{b}{a} であり,第1式よりx\lt  -\dfrac{b}{a}0\lt  x であるから,不等式の解はx\gt 0

(ii) a\gt 0,b=0 のとき,
ax^2\gt 0
a\gt 0
ax\gt 0
において,第1式は x\neq 0,第2式は必ず成立,第3式は x\gt 0 だから不等式の解は x\gt 0

(iii) a=0,b\gt 0 のとき,
bx\gt 0
bx^2\gt 0
b\gt 0
は(ii)の ab を入れ換えただけなので不等式の解は x\gt 0

よって全ての場合について p=0 となる.

場合分けなしに済まそうと考えるよりは単純作業を繰り返した方が早い気がする。

2020.08.19追記

巡回行列とヴァンデルモンドの行列式で何とかなるかと思ったがうまくいかなかったので妥協。巡回行列の性質は一応使っている.

 \begin{pmatrix} x^2 \\ x \\ 1 \end{pmatrix} でも良かったが,y=x^2 \wedge z=1 をイメージして  \begin{pmatrix} x \\ x^2 \\ 1 \end{pmatrix} としている.

[大人の解答]

 \begin{pmatrix} x \\ x^2 \\ 1 \end{pmatrix} でパラメータ表示される曲線は放物線である。

行列 C=\begin{pmatrix} b & a & c\\ c& b& a\\ a& c& b \end{pmatrix} を表現行列とする線型変換 f: \begin{pmatrix} x  \\ y \\ z \end{pmatrix}\mapsto\begin{pmatrix} X \\ Y \\ Z \end{pmatrix} による,放物線の f による像のうち,X\gt0,Y\gt0,Z\gt0 の範囲に含まれる部分が放物線の x\gt p の部分の像に一致する条件を考えている.

(1) 放物線の像 \vec{X}=\begin{pmatrix} X \\ Y \\ Z \end{pmatrix}=x\begin{pmatrix} b \\ c \\ a \end{pmatrix}+x^2\begin{pmatrix} a \\ b \\ c \end{pmatrix}+\begin{pmatrix} c \\ a \\ b \end{pmatrix} の方向ベクトルは x が大きくなると  \dfrac{1}{x^2}\vec{X}\to \begin{pmatrix} a \\ b \\ c \end{pmatrix} となり,これが X\geqq0,Y\geqq0,Z\geqq0 の範囲に含まれる(極限なので等号がつく)ので, a, \, b, \, cはすべて0以上である.

(2) 3次元空間上に浮かぶ放物線と少なくとも1つ接点でない共有点をもつ平面で切ったとき,その共有点以外で放物線と交わらないための必要十分条件は、その平面が放物線の軸に平行な直線を含むことであるから,放物線の軸方向のベクトル  \begin{pmatrix} a \\ b \\ c \end{pmatrix}YZ 平面,ZX 平面,XY 平面のいずれかに含まれる必要がある.つまりX=0またはY=0またはZ=0をみたす必要がある.よってa,b,c のうち少くとも1つは 0 である.

(3) 放物線の頂点  \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} の像  \begin{pmatrix} c \\ a \\ b \end{pmatrix} は、a,b,c のうち少くとも1つは 0 であるから、YZ 平面,ZX 平面,XY 平面のいずれかに含まれているので,X\gt0,Y\gt0,Z\gt0 をみたす範囲にある放物線の像の部分の端点は頂点の像であるから p=0 が成立する.