2022.03.15記
本問は クリフォード代数 である.つまり
,,
から生成される代数.
ここで とすると, の4つで任意の2次実正方行列 が
(係数は実数)
の形で一意に表すことができる.なお,本問では は使わなくて済む.
(2022.03.30追記ここから)
と書いたものの、生成元を
,,
とすると、クリフォード代数 になる.
つまり、どちらも2次正方行列 と同型になるのだから
となり,同じ代数になる.
(ここまで)
ここで とすると, の4つで任意の2次実正方行列 が
(係数は実数)
の形で一意に表すことができる.なお,本問では は使わなくて済む.
ここで の計算規則は
,,,,,,,
によって定まる非可換代数である.
本問で登場するものは,,,, であり,これらから計算される の中身は最終的に の形になり,, から と表されることになる.
答案では, としておく.
, とおくと,
,, が成立する.
ここで , とおくと
,
であるから,
,
が成立するので,
となる(∵).
よって により, の符号に応じて または のときに最大値
をとる.
(2) , とおくと
,
であるから,
となるが,,,, であるから,
が成立する.
また,
となるが,,, であるから,
が成立する.
よって,
を示せば良い.
左辺から右辺を引いて半分にした
が正であることを示せば良い.
ここで,とおくとき, が で非負であれば良いが,
であるから, は上に凸な2次関数,または1次関数となるので
, であれば が で非負となり題意は示される.
今, であり,
であるが,AM-GM 不等式より
であり, より だから
となるので,題意は示された.
普通に計算すると計算量が多くなってしまうが,代数系の性質に着目するとかなり計算が削減できる.まぁ,普通は気付かないと思うけど.
2022.03.15記
2次正方行列に対応するクリフォード代数として,パウリ行列がある。パウリ行列は,本によって定義が異なるが,
,,
から生成される代数で,
とすると, から の線形結合(係数は複素数)で任意の2次複素正方行列を一意に表すことができる.
ここで,
(複素共役をとって転置)
(ユニタリ行列)
をみたす.
このパウリ行列から生成される代数系は
をみたすので,クリフォード代数 である.計算規則としては他に
,
,
が成立する.これら計算規則をまとめるには,クロネッカーのデルタとエディントンのイプシロンをもちればよく,
が成り立つ.これから,内積と外積をまぜたような感じになっていることがわかり,パウリ行列と四元数に対応がつく予感がする.
実際,四元数を生成する代数系はクリフォード代数 であるが,基底
,,
によって生成され,
とすると任意の四元数は の線形結合(係数は実数)で一意に表現することができる.ここで
であるから,これはクリフォード代数 である.
ここで,四元数
(係数は実数)を行列表示すると,
となるので,回転行列と複素数が対応することに注意すると、複素数の中に複素数が入れ子になった構造をしていることがわかる.
さて,本問に戻ると,本問では、回転行列と対角行列しか登場しないので,四元数 をみると で が純虚数でなければならないことがわかる.つまり係数が実数ではなくなるので,四元数に近いものの,本問は四元数ではないことがわかる.
ではパウリ行列はどうだろうか?
(係数は複素数)とおくと
であるから, で が実数, が純虚数でなければならないことがわかる.つまり係数をこのように制限したパウリ行列は本問の背景であると行っても差し支えないことがわかる.
純虚数 の部分は
と係数を実数にするように基底を変換すると,冒頭に述べたクリフォード代数 が得られることがわかる.
(2022.03.22追記ここから)
クリフォード代数に関連した入試問題については
2007年山梨大学-医学部数学[2] - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
参照のこと.
(ここまで)
2022.03.15記
2つの2次正方行列 , に対して
が成立する.これは の対応する成分の積和であるから, と の内積とみることができる.要は4次元ベクトルに直して内積をとっていることに相当する.
ここで,2次正方行列 に対して4次元縦ベクトルを によって対応させることにより,2つの2次正方行列の内積「」を
(「」はベクトルの標準内積)
で定めていることになる.
(特にベクトルの内積と行列の内積の記号を区別する必要はないが,ここではわかりやすさのためわざと区別している)
行列の内積についても線形性が成り立つので,本問において,2次正方行列を1つの基底 の線形結合で表して,内積の双線形性に着目してバラバラにして考えることにする.ここで基底同士の内積は であり, の異なる2つの行列の内積は となるので長さが等しい基底による直交基底となっていることを利用する.
なお,本問で登場する ,, は対称行列だから,見掛け上 ではなく を計算しているように感じるかも知れない.
,
,
であるから
が成立する.
まぁ,同じことを同じようにやっているだけ.
4次元空間で を長さ のベクトル に正射影したときに一番大きくなるのはいつか,もしくは 長さ のベクトル を定ベクトル に正射影したときに一番大きくなるのはいつかという問題を解いていることになる.
(1) 幾何学的な意味としては, が成立しており, はパラメータが と1つだけなので,4次元空間で半径 の円周を表す.実際, であるから,直交する長さの行列 を通り零行列を中心とする円周を表している.
次に, はともに固有値が となる対称行列であるから,固有値が となるような対称行列全体の集合が表す図形を考えることになるが,実対称行列が回転行列を用いて対角化されることに注意すると,固有値が となる対称行列は必ず のように書くことができる.実際 になっていることから, を通る で張られる平面に平行な平面上において,中心 ,半径 (の長さは )の円周上にあることがわかる.この円周上の2点 を結ぶベクトルが である.
これと,原点を通り で張られる平面に平行な平面上において,原点中心,半径 の円周上の点の位置ベクトルとの内積が最大になれば良い.ここで2つの円が平行な平面の上に載っているので, と は平行になることができるので, の最大値は となる.
ここで,, は長さが で,なす角度が であるから余弦定理により,
つまり
が成立するので,
の最大値は
となる.
という内積を考える意味が、数学や工学のどの文脈で使うのかは良くわからないが,とりあえず本問を図形的考察で解くことができた.本問のポイントは,4次元空間において,固有値が をみたす「対称行列」の集合は で張られる平面に平行な平面上にある「円」を表していることだろう.
つまり,究極的には
,
,
とおくことにより,,, の3点は4次元空間上のとある単位円に乗っていて,その偏角は であるから,この単位円が乗っている平面に新しい座標をとることによって
,,
とおくことができるので,
となるので,この最大値は となるので,これを 倍したものが答となる.
ここで登場した vec 演算子は,行列のクロネッカ積 と対で学ぶことが多く,一般に
という関係式が成立する.
この行列のクロネッカ積において,一般の正方行列 に対する の固有値の集合は重複度も込めた の固有値と の固有値の積全体の集合に一致し,固有ベクトルの集合は の固有ベクトルと の固有ベクトルのクロネッカ積全体の集合に一致することが知られている.
ここで,
であり,の固有値が であるから,4次正方行列 の固有値は となる直交行列であり,これは平面内の回転である.
同様に である.
このとき,
が成立するものの,このままでは簡単になる気配がない.
4次正方行列 について良い性質をみつけることができればうまく意味がとれるのではないかと思う.
まぁ、式自体は行列の内積とまったく同じものとなるので,
なる が存在することになるのだろうと思う.
そのうち考えてみよう.