[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1984年(昭和59年)東京大学-数学(理科)[3]

2023.08.25記

[3] 2以上の自然数 k に対して f_k(x)=x^k-kx+k-1 とおく.このとき,次のことを証明せよ.

(i) n多項式 g(x)(x-1)^2 で割り切れるためには,g(x) が定数 a_2,…,a_n を用いて g(x)=\displaystyle\sum_{k=2}^{n} a_k f_k(x)の形に表されることが必要十分である.

(ii) n多項式 g(x)(x-1)^3 で割り切れるためには,g(x) が関係式 \displaystyle\sum_{k=2}^{n} \dfrac{k(k-1)}{2}a_k=0 をみたす定数 a_2,…,a_n を用いて g(x)=\displaystyle\sum_{k=2}^{n} a_k f_k(x) の形に表されることが必要十分である.

本問のテーマ
ベルヌーイの不等式
マクローリン展開

2020.11.26記

ベルヌーイの不等式

任意の整数 r\geqq 0 と全ての実数 x\geqq −1 に対し
 (1+x)^r\geqq 1+rx
が成立するという式.

r=0,1 のときは明らかに成立する.

r\geqq 2 のとき,x\geqq -1y=f(x)=(1+x)^r は下に凸であるから
(1+x)^r=f(x)\geqq f'(0)x+f(0)=rx+1
が成立する,という式である.ここで 1+x=X とおくと
X^r\geqq r(X-1)+1=rX-r+1
となり,
X^r-rX+r-1\geqq 0
となるが,X=1 で等号が成立することから,これは (X-1)^2 で割り切れる.ベルヌーイの不等式を知っていても,(X-1)^2 で割った商を知らない人は結構多い.しかし数列で x\neq 1 のときに
x+2x^2+\cdots+nx^n=\dfrac{nx^{n+2}-(n+1)x^{n+1}+x}{(x-1)^2}
を求めた人は多いだろう.この式を x で割って n+1=r とおくと
1+2x+3x^2+\cdots+(r-1)x^{r-2}=\dfrac{(r-1)x^{r}-rx^{r-1}+1}{(x-1)^2}
となり,もちろんこれは 1+x+\cdots + x^{r-1}=\dfrac{x^r-1}{x-1} の両辺を微分して求めることができるという話も聞いたことがあるだろう.

さらに,t=1/x として両辺に t^{r-2} を掛けると
t^{r-2}+2t^{t-3}+3t^{r-4}+\cdots+(r-1)=\dfrac{(r-1)-rt+t^{r}}{(1-t)^2}
となり,ベルヌーイの不等式の形が登場する.

[大人の解答]
(ベルヌーイの不等式を思い出すと)
f_k(x) =x^k-kx+k-1 =(x-1)^2(x^{k-2} + 2x^{k-3}+\cdots+ (k-2)x+(k-1)) =:(x-1)^2h_{k-2}(x) となることから

i) g(x)(x-1)^2 で割り切れることと g(x)f_k(x) の線型結合でかけることと同値

ii) g(x)(x-1)^3 で割り切れることと g(x)f_k(x) の線型結合でかけ,因数定理から線型結合の係数 a_k a_k h_{k-2}(1)=a_k \dfrac{k(k-1)}{2}=0 をみたすことと同値

2023.08.25記
h_k(x) は最高次の係数が1の k 次式だから,任意の m 次式は \displaystyle\sum_{k=0}^m a_k h_k(x) と表すことができるので,n次式 g(x)(x-1)^2 で割った商を q(x)n-2次式),余りを r(x)(1次以下)とおくと
 g(x)=(x-1)^2\left(\displaystyle\sum_{k=0}^m a_k h_k(x)\right)+r(x)
 =\displaystyle\sum_{k=0}^m a_k (x-1)^2h_k(x)+r(x)
 =\displaystyle\sum_{k=0}^m a_k f_k(x)+r(x)
と書けるので,g(x)(x-1)^2 で割り切れることと g(x)f_k(x) の線型結合でかけることと同値となり,

g(x)(x-1)^3 で割り切れることと (i) が成り立つ上で  \displaystyle\sum_{k=0}^m a_k h_k(x)x-1 で割り切れることは同値であり,因数定理から  \displaystyle\sum_{k=0}^m a_k h_k(1)=0 が成立し,
h_k(1)=1+2+\cdots+k=\dfrac{k(k-1)}{2}
であるから題意が成立するということである.

ベルヌーイの不等式を知らない場合はどうするかであるが,
(x-1)^2(x-1)^3 で割るのだから,x-1=t とおけば,t^2t^3 で割ることになり,
x^k=(t+1)^k
から二項定理を用いるのは自然である.
(結局,ベルヌーイの不等式そのものが登場してしまう訳だが)

[うまい解答]
x-1=t とおくと,
f_k(x)=(t+1)^k-k(t+1)+k-1=\displaystyle\sum_{i=2}^k {}_k \mbox{C}_i t^i
となる.ここで,C_k(t)=\displaystyle\sum_{i=2}^{k} {}_{k} \mbox{C}_i t^{i-2} とおく.
このとき
f_k(x)=(x-1)^2C_k(x-1)
である.

(i) C_k(t) は最高次の係数が1の k-2 次式だから,任意の tm-2 次式は \displaystyle\sum_{k=0}^m a_k C_k(x) と表すことができる.

n次式 g(x)(x-1)^2 で割った商を q(x)n-2次式),余りを r(x)(1次以下)とおくと
 g(x)=(x-1)^2q(x)+r(x)
 =(x-1)^2 q(t+1)+r(x)
 =(x-1)^2\left(\displaystyle\sum_{k=0}^m a_k C_k(t)\right)+r(x)
 =(x-1)^2\left(\displaystyle\sum_{k=0}^m a_k C_k(x-1)\right)+r(x)
 =\displaystyle\sum_{k=0}^m a_k (x-1)^2 C_k(x-1)+r(x)
 =\displaystyle\sum_{k=0}^m a_k f_k(x)+r(x)
と書けるので,g(x)(x-1)^2 で割り切れることと g(x)f_k(x) の線型結合でかけることと同値である.

(ii) g(x)(x-1)^3 で割り切れることと (i) が成り立つ上で  \displaystyle\sum_{k=0}^m a_k C_k(t)t で割り切れることは同値であるから,この式の定数項が 0 となることと同値.ここで C_k(t) の定数項は {}_{k} \mbox{C}_2 だから
定数 a_2,…,a_n\displaystyle\sum_{k=2}^{n} \dfrac{k(k-1)}{2}a_k=0 をみたすことと同値である.

もちろん,マクローリン展開から,g(x)(x-1)^2 で割り切れる必要十分条件g(1)=g'(1)=0 で,g(x)(x-1)^3 で割り切れる必要十分条件g(1)=g'(1)=g''(1)=0 である.これを利用しても良い.

[解答]
(i) g(x)=g_0 +g_1 x+\cdots + g_n x^n とおく.
g(x)(x-1)^2 で割り切れるので,g(1)=g'(1)=0 だから,
g_0+g_1+\displaystyle\sum_{k=2}^n g_k=0g_1+\displaystyle\sum_{k=2}^n k g_k=0
つまり,
g_0-\displaystyle\sum_{k=2}^n (k-1) g_k=0g_1+\displaystyle\sum_{k=2}^n k g_k=0
となる.

ここで,x^k=f_k(x)+kx-(k-1) により
g(x)=g_0+g_1x+\displaystyle\sum_{k=2}^n g_k\{f_k(x)+kx-(k-1)\}=\left(g_0-\displaystyle\sum_{k=2}^n (k-1)g_k\right)+\left(g_0+\displaystyle\sum_{k=2}^n k g_k\right)+\displaystyle\sum_{k=2}^n g_kf_k(x)
であるから,

g(x)(x-1)^2で割り切れる」
\Longleftrightarrowg(1)=g'(1)=0
\Longleftrightarrowg_0-\displaystyle\sum_{k=2}^n (k-1) g_k=0g_1+\displaystyle\sum_{k=2}^n k g_k=0
\Longleftrightarrowg(x)=\displaystyle\sum_{k=2}^n g_kf_k(x)と書ける」

となる.

(ii) (i) に加えて g'''(1)=0 が成立することが必要十分条件である.
f_k''(x)=k(k-1)x^{k-2} よりf_k''(1)=k(k-1) だから,
g'''(1)=\displaystyle\sum_{k=2}^n g_kf_k''(1)=\displaystyle\sum_{k=2}^n g_k\cdot k(k-1)=0
となり,よって

(i) に加えて定数 g_2,…,g_n\displaystyle\sum_{k=2}^{n} k(k-1)g_k=0 をみたすことが必要十分条件である.

問題文で
\displaystyle\sum_{k=2}^{n} a_k\cdot k(k-1)=0
ではなく
\displaystyle\sum_{k=2}^{n} a_k\dfrac{k(k-1)}{2}=0
となっているのは,{}_k\mbox{C}_2=\dfrac{k(k-1)}{2} だからでもあるし,マクローリン展開\dfrac{f_k''(1)}{2!}=\dfrac{k(k-1)}{2} だからでもある.