[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2007年(平成19年)京都大学-数学乙[6]

2020.09.18記

[6] すべての実数で定義され何回でも微分できる関数 f(x)f(0)=0f'(0)=1 を満たし,さらに任意の実数 a,b に対して 1+f(a)f(b)\neq 0 であって
f(a+b)=\dfrac{f(a)+f(b)}{1+f(a)f(b)} を満たしている.

(1) 任意の実数 a に対して,-1\lt f(a)\lt 1 であることを証明せよ.

(2) y=f(x) のグラフは x\lt 0 で上に凸であることを証明せよ.

本問のテーマ
双曲正接関数の加法定理

2020.09.18記

双曲正接関数の加法定理
\tanh (a+b)=\dfrac{\tanh a + \tanh b}{1+\tanh a\tanh b} と比べれば f(x)=\tanh x=\dfrac{e^x-e^{-x}}{e^x+e^{-x}} であることがわかり,題意は明らかになる.

ニューラルネットワークで用いられる活性化関数の sigmoid は \dfrac{\tanh (ax/2)+1}{2} と双曲正接関数を使って表現できる.

[大人の解答]
関数方程式を解く.

f(x+b)=\dfrac{f(x)+f(b)}{1+f(x)f(b)}x微分すると
 f'(x+b)=\dfrac{f'(x)\{1+f(x)f(b)\}-\{f(x)+f(b)\}f'(x)f(b)}{\{1+f(x)f(b)\}^2} =\dfrac{f'(x)[1-\{f(b)\}^2]}{\{1+f(x)f(b)\}^2}
x=0 を代入すると f'(b)=1-\{f(b)\}^2 が任意の実数 b について成立するので,この微分方程式
\dfrac{df}{1-f^2}=dx
を解くと
\dfrac{1}{2}\log\Bigl|\dfrac{f+1}{f-1}\Bigr|=x+C
となり
f(x)=\dfrac{\pm e^{2C} e^{2x}-1}{\pm e^{2C}e^{2x}+1}(複号同順)
となり,f(0)=0 から
f(x)=\dfrac{e^{2x}-1}{e^{2x}+1}=\tanh x
となる.このとき, f'(x)=\dfrac{1}{\cosh^2 x} より f'(0)=1 をみたしており,
\tanh x の加法定理 \tanh (a+b)=\dfrac{\tanh a + \tanh b}{1+\tanh a\tanh b} において、\tanh(a+b) は任意の実数 a,b に対して有限の値になるので 1+f(a)f(b)\neq 0 が成立し,問題文の全ての条件を満たしている.

(1) f(x)=\tanh x-1\lt \tanh x\lt 1 をみたす.

(2) f'(x)=\dfrac{1}{\cosh^2 x}x\lt 0 の範囲で単調増加するので上に凸となる.

なお,関連して大昔の入試問題にもあった

(1) |a|\lt 1,|b|\lt 1 のとき -1\lt \dfrac{a+b}{1+ab} \lt 1 を証明せよ.

(2) |a|\lt 1,|b|\lt 1,|c|\lt 1 のとき -1\lt \dfrac{a+b+c+abc}{1+ab+bc+ca} \lt 1 を証明せよ.

\tanh から眺めてみるとほぼ自明である.

また、
2015年(平成27年)東北大学後期-数学(理系)[4] - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
も参照のこと.