[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2015年(平成27年)大阪大学-前期専門数学[1]

2023.07.26記

[1] すべての実数 x に対して定義された関数 f(x) で,必ずしも連続とは限らないものを考える.いま,f(x) がさらに次の性質を持つとする.
f(x+y)=f(x)+f(y)f(xy)=f(xy)f(1)=1
このとき,以下を示せ.

(1) すべての有理数 x に対して f(x)=x である.

(2) 実数 x,y について,x\leqq y ならば f(x)\leqq f(y) である.

(3) すべての実数 x に対して f(x)=x である.

2023.07.26記

本問のテーマ
コーシーの関数方程式
有理数の稠密性

コーシーの関数方程式
f(x+y)=f(x)+f(y)f(1)=1
f(xy)=f(xy)がない)で f の連続性を仮定しない場合(少なくとも1点においてf が連続であれば f(x)=x となる)は(選択公理を認めれば) f(x)=x 以外にも解が存在することが知られている.もちろん,x有理数に限れば f(x)=x となるのだが,無理数においてf(x)\neq x となるような f が存在することがハメル基底を利用して示される.

なお、(1) を示すにはf(xy)=f(xy)は不要である.

[解答]
(1) f(0)=f(0+0)=f(0)+f(0) より f(0)=0 である.

自然数 n に対して
f(n+1)=f(n)+f(1)=f(n)+1
であるから,これと f(1)=1 から帰納的に f(n)=n である.
よって,自然数 n に対して
f(-n)+n=f(-n)+f(n)=f(-n+n)=f(0)=0
から f(-n)=-n となり,ここまでで任意の整数 n に対して f(n)=n であることが示された.

(i) f(xy)=f(x)f(y) を使わない場合

次に有理数 q=\dfrac{a}{b}a,bは整数)に対して
a=f(a)=f(bq)帰納的に f(q)b 回足したものだから
a=f(a)=bf(q) となり,f(q)=\dfrac{a}{b}=q

(i) f(xy)=f(x)f(y) を使う場合

次に有理数 q=\dfrac{a}{b}a,bは整数)に対して
a=f(a)=f(bq)=f(b)f(q)=bf(q) となり,f(q)=\dfrac{a}{b}=q

以上からすべての有理数 x に対して f(x)=x である.

(2) x\leqq y より \sqrt{y-x}=u とおくと y=x+u^2 であるから,
f(y)=f(x+u)^2=f(x)+f(u^2)=f(x)+\{f(u)\}^2\geqq f(x)
となり題意は証明された.

(3) x\neq 0 のとき f(x)f\left(\dfrac{1}{x}\right)=f(1)=1 だから
f(x)\neq 0 である.よって(2)は x\lt y ならば f(x)\lt f(y) となる.

f(x)\neq x となる実数 x が存在したと仮定する.

(a) f(x)\gt x となった場合
x\lt q\lt f(x) をみたす有理数 q が存在する.
このとき x\lt q から f(x)\lt f(q) となり,
f(q)=q\lt f(x) とから,f(x)\lt f(x) となり矛盾する.

(b) f(x)\lt x となった場合
x\gt q\gt f(x) をみたす有理数 q が存在する.
このとき x\gt q から f(x)\gt f(q) となり,
f(q)=q\gt f(x) とから,f(x)\gt f(x) となり矛盾する.

以上から,f(x)\neq x となる実数 x は存在せず,よって題意は示された.

ここで,有理数の稠密性である
f(x)\gt x ならばx\lt q\lt f(x) をみたす有理数 q が存在する」
ことは認めたが,これを示す場合は次のようにすれば良い

\dfrac{1}{|f(x)-x|}より大きな自然数 M をとると
Mf(x)-Mx\gt 1 であり,実数の長さが1より大きい区間には(両端ではなく内部に)整数が必ず存在するので,Mf(x)\gt N \gt Mx をみたす整数 N が存在する.
よって x\lt \dfrac{N}{M}\lt f(x) が成立するので,x\lt q\lt f(x) をみたす有理数 q が存在する.