[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2015年(平成27年)東北大学後期-数学(理系)[4]

2020.09.18記

-1\lt x\lt 1 の範囲で定義された関数 f(x) で,次の2つの条件を満たすものを考える.

f(x)+f(y)=f\Bigl(\dfrac{x+y}{1+xy}\Bigr)-1\lt x\lt 1,-1\lt y\lt 1

f(x)x=0微分可能で,そこでの微分係数は1 である

(1) -1\lt x\lt 1 に対し f(x)=-f(-x) が成り立つことを示せ.

(2) f(x)-1\lt x\lt 1 の範囲で微分可能であることを示し,導関数 f'(x) を求めよ.

(3) f(x) を求めよ.

本問のテーマ
逆双曲正接関数(双曲線関数

2020.09.18記
逆双曲正接関数 f(x)={\rm Artanh}\, x(または {\rm Arctanh}\, x

(1) x,y に適当な値を入れてみる

(2) x=0での微分係数に帰着させるのが基本

(3) 微分方程式を解く

[解答]

(1) x=y=0 とおいて f(0)=0 である.次に y=-x とおくと f(x)+f(-x)=f(0)=0 となるので
 f(x)=-f(-x) が成り立つ.

(2) f(x+h)-f(x)=f(x+h)+f(-x)=f\Bigl(\dfrac{x+h-x}{1-(x+h)x}\Bigr)=f\Bigl(\dfrac{h}{1-(x+h)x}\Bigr)
だから,k=\dfrac{h}{1-(x+h)x} とおくと,h\to 0k\to 0 だから,
\dfrac{f(x+h)-f(x)}{h}=\dfrac{f(k)-f(0)}{h}=\dfrac{f(k)-f(0)}{k}\cdot\dfrac{k}{h}\to f'(0)\cdot \dfrac{1}{1-x^2}=\dfrac{1}{1-x^2}
により,f(x)微分可能

(3) f'(x)=\dfrac{1}{1-x^2}=\dfrac{1}{2}\Bigl\{\dfrac{1}{x+1}-\dfrac{1}{x-1}\Bigr\} であるから, f(x)=\dfrac{1}{2}\log\Bigl|\dfrac{x+1}{x-1}\Bigr|+C で,-1\lt x\lt 1,f(0)=0 により,
 f(x)=\dfrac{1}{2}\log\dfrac{1+x}{1-x}

2024.04.20記
本問の \dfrac{x+y}{1+xy} の形を見て思い出すのは,食塩水の問題(この話はブログでは書いてない)と
双曲正接関数の加法定理
\tanh (a+b)=\dfrac{\tanh a+\tanh b}{1+\tanh a\tanh b}
である.

x=\tanh ax=\tanh b と置換すると,本問は

(実数の範囲で定義された)関数 f(\tanh a) で,次の2つの条件を満たすものを考える.

f(\tanh a)+f(\tanh b)=f(\tanh (a+b))a,b\in\mathbb{R}

f(\tanh a)a=0微分可能で,そこでの微分係数は1 である((\tanh a)'|_{a=0}=1 だから)

となる.つまり合成関数 f\circ \tanh はコーシーの関数方程式
F(x)+F(y)=F(x+y)
をみたし,ある1点で微分可能となるので(その1点で連続となるので)その解は線形関数に限られる(ダルブーにより1875年に証明が与えられた),つまり
f\circ \tanh (x)=kxk は定数)
に限られることがわかる.x=0 での微分係数が 1 であるから
f\circ \tanh (x)=x
となり,f\tanh逆関数となる.

よって x=\tanh y=\dfrac{e^y-e^{-y}}{e^y+e^{-y}}=\dfrac{e^{2y}-1}{e^{2y}+1} から
e^{2y}=\dfrac{x+1}{-x+1}=\dfrac{1+x}{1-x}
となり,
y=\dfrac{1}{2}\log\dfrac{1+x}{1-x}
となる.