[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1995年(平成7年)東京大学前期-数学(理科)[2]

2024.01.13記

[2] f(x)=1-\sin x に対し,g(x)=\displaystyle\int_{0}^{x} (x-t)f(t)\,dtとおく.このとき,任意の実数 xy について
g(x+y)+g(x-y) \geqq  2g(x)
が成り立つことを示せ.

本問のテーマ
Jensen の不等式

2024.01.10記
g(x)=\displaystyle\int_{0}^{x} (x-t)f(t)\,dt のとき,f(x)=g''(x) である.

2024.01.13記
一般に
g(x)=\displaystyle\int_{0}^{x} \dfrac{(x-t)^n}{n\,!}f(t)\,dt とおき,f(x)の原始関数を f_1(x)f_1(x) の原始関数を f_2(x),… とすると
g(x)=\left[-\dfrac{(x-t)^{n}}{n\,!}f_1(t)\right]_0^x+\displaystyle\int_{0}^{x} \dfrac{(x-t)^{n-1}}{(n-1)!}f_1(t)\,dt
=\dfrac{x^{n}}{n\,!}f_1(0)+\displaystyle\int_{0}^{x} \dfrac{(x-t)^{n-1}}{(n-1)!}f_1(t)\,dt
=\dfrac{x^{n}}{n\,!}f_1(0)+\dfrac{x^{n-1}}{(n-1)!}f_2(0)+\displaystyle\int_{0}^{x} \dfrac{(x-t)^{n-2}}{(n-2)!}f_2(t)\,dt
のように続けていくと,
g(x)=\dfrac{x^{n}}{n\,!}f_1(0)+\dfrac{x^{n-1}}{(n-1)!}f_2(0)+\cdots+xf_{n}(0)+\displaystyle\int_{0}^{x} f_{n}(t)\,dt
=\dfrac{x^{n}}{n\,!}f_1(0)+\dfrac{x^{n-1}}{(n-1)!}f_2(0)+\cdots+xf_{n}(0)+f_{n+1}(x)-f_{n+1}(0)
が成立するので,両辺を n+1微分すると
g^{(n+1)}(x)=f(x)
が成立する.

[解答]
g(x)=x \displaystyle\int_{0}^{x} f(t)\,dt-\displaystyle\int_{0}^{x} tf(t)\,dt
の両辺を微分して
g'(x)=\displaystyle\int_{0}^{x} f(t)\,dt+xf(x)-xf(x)=\displaystyle\int_{0}^{x} f(t)\,dt
となるので,さらに微分して
g''(x)=f(x)=1-\sin x
となり,任意の実数 x について g''(x)\geqq 0 である.
(つづく)

この後,「下に凸の定義である割線が曲線の上にある」ことを用いて

g(x) は全ての実数において下に凸であるから Y=g(X) 上の任意の2点 (x-y,g(x-y))(x+y,g(x+y)) の中点 \left(x,\dfrac{g(x-y)+g(x+y)}{2}\right)Y\geqq g(X) の領域にあるので,
\dfrac{g(x+y)+g(x-y)}{2} \geqq  g(x) が成立する.

と言ってしまって良いように思うが,人によってはこれは「下に凸ならば割線が曲線の上にある」(これが下に凸の定義なのに…)を示す問題だから Jensen の不等式を使ってはいけないというかも知れない(そのような判断をさせてしまう問題が悪い).

そこで「任意の実数 x に対して g''(x)\geqq 0 のとき,任意の実数 xy について g(x+y)+g(x-y) \geqq  2g(x) が成り立つ」ことを示しておくことにする.

(つづき)
任意の固定された T に対して G(X)=g(X)-\{g'(T)(X-T)+g(T)\} とおくと G(T)=0 であり,G'(X)=g'(X)-g'(T) により G'(T)=0 であり,G"(X)=g''(X)\geqq 0 が成立する.
よって
G'(X)\leqq 0X\leqq T),G'(X)\geqq 0X\geqq T
となり,G(X)\geqq G(T)=0 が成立するので,
g(X)\geqq g'(T)(X-T)+g(T)
が成立する.ここで (X,T)=(x\pm y,x) とした2式
g(x+y)\geqq g'(x)(y)+g(x)g(x-y)\geqq g'(x)(-y)+g(x)
を加えると g(x+y)+g(x-y) \geqq  2g(x) が成立する

もしくは直接

(つづき)
h(y)=g(x+y)+g(x-y)- 2g(x)y の関数と見ると h'(y)=g'(x+y)-g'(x-y) であり,
h''(y)=g''(x+y)+g''(x-y)\geqq 0
が成立する.ここで h'(0)=0 であるから
h'(y)\leqq 0y\leqq 0),
h'(y)\geqq 0y\geqq 0
となり,h(y)\geqq h(0)=0
が成立する.よって g(x+y)+g(x-y) \geqq  2g(x) が成立する

とすれば良いだろう.もちろん,g''(x)=1-\sin x から

(つづき)
g''(x)=1-\sin xg'(0)=0g(0)=0 から
g(x)=\dfrac{x^2}{2}-x+\sin x
である.よって
g(x+y)+g(x-y)-2g(x)=y^2+2(1-\cos y)\sin x
\geqq y^2+2(1-\cos y)(-1)=y^2+2\cos y-2
が成立する.
H(y)=y^2+2\cos y-2 は偶関数であるから,y\geqq 0H(y)\geqq 0 を示せば良いが
H'(y)=2(y-\sin y)\geqq 0H(0)=0
により y\geqq 0H(y)\geqq 0 が成立し,よって g(x+y)+g(x-y) \geqq  2g(x) が成立する