[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2019年(平成31年)東京工業大学-数学[4]

2022.04.20記

[4] H_1, \, \cdots, \, H_n を空間内の相異なるn 枚の平面とする.H_1, \, \cdots, \, H_nによって空間が T(H_1, \, \cdots, \, H_n) 個の空間領域に分割されるとする.例えば,空間の座標を (x, \, y, \, z) とするとき,

●平面x=0H_1,平面 y=0H_2,平面 z=0H_3とすると T(H_1, \, H_2, \, H_3)=8

●平面x=0H_1,平面 y=0H_2,平面 x+y=1H_3とすると T(H_1, \, H_2, \, H_3)=7

●平面x=0H_1,平面 x=1H_2,平面 y=0H_3とすると T(H_1, \, H_2, \, H_3)=6

●平面x=0H_1,平面 y=0H_2,平面 z=0H_3,平面 x+y+z=1H_4とすると T(H_1, \, H_2, \, H_3, \, H_4)=15

である.

(1) 各 n に対して T(H_1, \, \cdots, \, H_n)のとりうる値のうち最も大きいものを求めよ.

(2) 各n に対して T(H_1, \, \cdots, \, H_n)のとりうる値のうち2番目に大きいものを求めよ.
ただし n\geqq2とする.

(3) 各n に対して T(H_1, \, \cdots, \, H_n)のとりうる値のうち3番目に大きいものを求めよ.
ただし n\geqq3とする.


本問のテーマ
超平面配置

2022.04.20記
超平面配置の簡単はイントロについては、
寺尾宏明, 超平面配置入門~特に、自由超平面配置について 〜(pdf)
を参照のこと.

なお,(1) は1985年の慶応理工に出題されている.

[解答]
(1) 1本の直線は n 点で a_n=n+1 個の部分に分割されることに注意する.

平面に n 本の直線で最大 b_n 個の部分に分割されるとすると,新たに n+1 目の直線を加えると,これまでにある n 本の直線によってその直線は a_n=n+1 個の部分に分割され,それら線分は1個の領域を2つの領域に分割するので、
b_{n+1}=b_n+a_n
が成立する.a_1=2 に注意すると
b_n=b_1+\displaystyle\sum_{i=1}^{n-1} a_i=2+\displaystyle\sum_{i=1}^{n-1} (i+1) =\dfrac{n^2+n+2}{2}
である.

空間に n 枚の直線で最大 c_n 個の部分に分割されるとすると,新たに n+1 目の平面を加えると,これまでにある n 枚の平面との交わりであるn本の直線によってその平面は b_n 個の部分に分割され,それら平面片は1個の領域を2つの領域に分割するので、
c_{n+1}=c_n+b_n
が成立する.c_1=2 に注意すると
c_n=c_1+\displaystyle\sum_{i=1}^{n-1} b_i=2+\displaystyle\sum_{i=1}^{n-1} \dfrac{i^2+i+2}{2}=\dfrac{n^3+5n+6}{6}
である.

よって T(H_1, \, \cdots, \, H_n) の最大値は \dfrac{n^3+5n+6}{6} である.

(2) n\geqq 2 のとき,必ず c_n-1=\dfrac{n^3+5n}{6} となる配置が存在することを示せば良い.
そのためには,固定された n に対して
c_{n}=c_{n-1}+(b_{n-1}-1)
が成立するような n 目の平面を加える方法があることを示せば良い.

つまり, n 枚目の平面を加えたときの断面である n-1 本の直線で平面が b_{n-1}-1 個の部分に分割されるような n-1 本の直線の配置が存在すれば良い.

そしてこのとき,b_{n-1}-1=b_{n-2}+(a_{n-2}-1) であるから,この平面上で n-2 本の直線が分割数が最大となるように配置され(このときどの2本の直線も平行でなく,どの3直線も1点で交わらない),その後に加えた n-1 番目の直線が,

n-2 本のいずれかに平行であり,どの3直線も1点で交わらないように配置されている

または

n-2 本のいずれとも平行でないが,n-1本目の直線を含む3直線で1点で交わるようなものが丁度1組だけ存在するように配置されている

ならば n 枚目の平面を加えたときに増える領域の個数は b_{n-1}-1 個となる.

以上から,n 枚目の平面を,これまで領域最大となるように配置されたどの2枚も平行でない n-1 枚の平面のうちの2枚の平面の交線と平行になるように配置すれば,
T(H_1, \, \cdots, \, H_n)=\dfrac{n^3+5n}{6}
とすることができる.

(3) n\geqq 3 のとき,c_n-2=\dfrac{n^3+5n-6}{6} となる配置が存在するかどうかについて考える.

n-1枚の平面が領域の分割数が最大となるように配置されてて,かつn 枚目の平面を加えたときに,その平面上に n-1 本の直線が描かれているとするとき,この n-1 本の直線が

(a) いずれかも平行でなく,3直線のみが交わる点が丁度2つあるように配置されている

または

(b)1組だけ平行な直線があり,3直線のみが交わる点が丁度1つあるように配置されている

場合にのみ c_n=c_{n-1}+(b_{n-1}-2) が成立し,(a) が成立する条件は n-1\geqq 5,(b) が成立する条件は n-1\geqq 4 であるから,n\geqq 5 ならばこのような配置が存在するので
T(H_1, \, \cdots, \, H_n)=\dfrac{n^3+5n-6}{6}
とすることができる.

そして,n=3,4 のときは,n-1枚の平面が領域の分割数が最大となるように配置されてて,かつn 枚目の平面を加えたときに,その平面上に n-1 本の直線が描かれているとするときには
T(H_1, \, \cdots, \, H_n)=\dfrac{n^3+5n-6}{6}
とすることはできない.

n=3 のとき,2枚の平面が領域の分割数が最大となるように配置されてて,かつ3 枚目の平面を加えたときに,その平面上に 2 本の直線が描かれているときには領域の分割数を 8-2=6 とすることはできないが,3枚の平面を2枚が平行で「キ」の字のように配置することによって領域の分割数を
T(H_1, \, \cdots, \, H_n)=\dfrac{n^3+5n-6}{6}=6
にすることができる.

n=4 のとき,3枚の平面が領域の分割数が最大8となるように配置されてて,かつ4 枚目の平面を加えたときに,その平面上に 3 本の直線が描かれているときには領域の分割数を 15-2=13 とすることはできない.

(i) 3枚の平面が領域の分割数が最大8となるように配置されてて,かつ4 枚目の平面を加えたときに,その平面上に 2 本の直線が描かれているとき領域の分割数の最大は,この2本で領域が4分割されているときで 8+4=12 である.

(ii) 3枚の平面が領域の分割数が2番目に大きい7となるように配置(2枚の交わりの直線3本が平行で異なる直線となる場合)されてて,かつ4 枚目の平面を加えたときに,その平面上に 3 本の直線が描かれているときに領域の分割数が13 となるには、この平面上に描かれている3本の直線で平面が6個の領域に分割されていなければならないが,このときの3本の直線の配置は*のような配置でなければならないが,そのためには最初の3枚の平面が共有点をもたなければならず矛盾するので,分割数が13になることはない

(iii) 3枚の平面の領域の分割数3番目に大きい 6 となるように「キ」の字のように配置したとき,4 枚目の平面を加えたときの切り口が一番分割されるのは,切り口が「キ」の字になるときだから,分割数の最大値は12であり,13になることはない.

(iv) 3枚の平面の領域の分割数が 5 以下とする.4枚目の平面を加えたときに増える領域の数は最大7であるから,それが13になることはない.

以上から,n=4 のとき,領域の分割数の3番目に大きな値は 12 である.

まとめると,
n\neq 4 のとき T(H_1, \, \cdots, \, H_n)=\dfrac{n^3+5n-6}{6}
n=4 のとき T(H_1, \, \cdots, \, H_n)=12
である.

2018年5月のヘウレーカという番組で超平面配置をやっていたそうな。

セミの2019年4月号から、八森先生が超平面配置について連載しているみたいなので、読んでみるか。

なんかみつけた。

これにもあるように,[解答]で a_n={}_n\mbox{C}_0+{}_n\mbox{C}_1
b_n={}_n\mbox{C}_0+{}_n\mbox{C}_1+{}_n\mbox{C}_2
c_n={}_n\mbox{C}_0+{}_n\mbox{C}_1+{}_n\mbox{C}_2+{}_n\mbox{C}_3
となり,これは帰納的に簡単に高次元に拡張され,
N 次元空間の n 枚の N-1 次元空間(余次元1)の配置による最大の分割数は
\displaystyle\sum_{i=0}^N {}_n\mbox{C}_i
となる.そして,解答にあるような領域の潰しかたを実行するために空間の微小に動かすことを考えると、ある程度までは1個ずつ領域を潰すことができるということである。n が大きければ部屋をつぶすために必要は空間を独立にある程度とることができるからである.例えば、3次元空間で n=15 のとき,例えば3枚の平面が1点で交わるようなものを少なくとも5個とれるので(本当はもっととれる)、\dfrac{15^3+5\times 15+6}{6}-kk=0,1,2,3,4,5)となる配置が存在することがわかる.この下限を求めるのは、まぁ難しい。

あと、オイラー多面体の公式を用いて、b_n を求める方法が知られている.2直線の{}_n\mbox{C}_2 個の交点を含むような,n 本の直線上に2つの頂点をもつ 2n 角形でとりかこむと,平面におけるオイラー多面体の公式において,
F=b_nE=2n+n\times {}_n\mbox{C}_1V=2n+{}_n\mbox{C}_2
V-E+F=1 に代入して整理すると b_n=\dfrac{n^2+n+2}{2} が得られる.
この数え方を工夫すると
b_n={}_n\mbox{C}_0+{}_n\mbox{C}_1+{}_n\mbox{C}_2
の意味が明確になる求め方がわかるんじゃないかな。

2022.04.22記
Orlik and Terao

を見てみたら、初っ端に
N 次元空間の n 枚の N-1 次元空間(余次元1)の配置による最大の分割数は
\displaystyle\sum_{i=0}^N {}_n\mbox{C}_i
が書いてあったよ。

オイラー多面体の公式の拡張であるシュレーフリーの定理を使って c_n を求めてみよう.
3平面の{}_n\mbox{C}_3 個の交点を,球面と同相な多面体で囲んでできる有限の領域を考えると,その個数は c_n である.
この球面と同相な多面体の頂点数を V_s,辺の数を E_s,面の数を F_s,領域の数C_s=1 について,シュレーフリーの定理により,
V_s-E_s+F_s-C_s=1
が成立する.同様に球面と同相な多面体で囲んでできる有限の領域における頂点数を V,辺の数を E,面の数を F,領域の数C について
V-E+F-C=1
が成立するので
(V-V_s)-(E-E_s)+(F-F_s)-(C-C_s)=0
つまり
(V-V_s)-(E-E_s)+(F-F_s)-(C-1)=0
が成立する.ここで
V=V_s+{}_n\mbox{C}_3
E=E_s+{}_n\mbox{C}_2\times b_{n-2}
F=F_s+{}_n\mbox{C}_1\times a_{n-1}
C=c_n
であるから,
{}_n\mbox{C}_3-{}_n\mbox{C}_2\times a_{n-2}+{}_n\mbox{C}_1\times b_{n-1}-(c_n-1)=0
となり,
c_n={}_n\mbox{C}_3-{}_n\mbox{C}_2\times a_{n-2}+{}_n\mbox{C}_1\times b_{n-1}+1
=\dfrac{n(n-1)(n-2)}{6}-\dfrac{n(n-1)^2}{2}+\dfrac{n(n^2-n+2)}{2}+1=\dfrac{n^3+5n+6}{6}
が得られる.もちろん,
b_{n-1}={}_{n-1}\mbox{C}_0+{}_{n-1}\mbox{C}_1+{}_{n-1}\mbox{C}_2
a_{n-2}={}_{n-2}\mbox{C}_0+{}_{n-2}\mbox{C}_1
を代入して真面目に変形すると,
c_n={}_{n}\mbox{C}_0+{}_{n}\mbox{C}_1+{}_{n}\mbox{C}_2+{}_{n}\mbox{C}_3
が成立することがわかる.

もちろん,4次元空間における n 個の3次元空間による空間の分割数の最大値を d_n とすると,やはりシュレーフリーの定理から
{}_n\mbox{C}_4-{}_n\mbox{C}_3\times a_{n-3}+{}_n\mbox{C}_2\times b_{n-2}-{}_n\mbox{C}_1\times c_{n-1}+(d_n-1)=0
が成り立ち,
d_n={}_{n}\mbox{C}_0+{}_{n}\mbox{C}_1+{}_{n}\mbox{C}_2+{}_{n}\mbox{C}_3+{}_{n}\mbox{C}_4
が導かれる.

以下同様。

と一段落したので、数セミ2019年の八森先生の連載を読み始めたら、
5月号p.57あたりに書いてあった。以下のリンクは八森先生の数セミの連載のまとめ
組合せ数学の雑記帳
なので,4,5月号のまとめを参照すると何が書いてあるかがわかる.とりあえず、

を探しとくか。
(八森先生のページには、離散数学講義とあるが、これは離散幾何学講義の間違いだろう)