[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1955年(昭和30年)東京大学-数学(幾何)[3]

2022.02.10記

[3] 空間にある正三角形を一つの平面上に正射影したとき,三辺の長さがそれぞれ  2,3,2\sqrt{3} であるような三角形がえられた.もとの正三角形の一辺の長さはいくらか.

2022.02.10記

[解答]
xyz 空間の一辺の長さが l の正三角形 \rm ABCxy 平面へ正射影したものが \rm AQR であるとし,\rm AQ=2\rm QR=3\rm RA=2\sqrt{3} とする。また,{\rm A},{\rm B},{\rm C}z 座標をそれぞれ 0,b,cb\geqq 0)とする。このとき,
l^2=4+b^2=9+(b-c)^2=12+c^2
が成立する。よって
2bc=5+c^22bc=b^2-3
となる。前者から
8b^3c=20b^2+4bc^2
となるので,
4b^2(b^2-3)=20b^2+(b^2-3)^2
つまり,
(b^2-9)(3b^2+1)=0
が成立する。よって b^2=9 となり,このとき c^2=1bc=3 となるので (b,c)=(1,3) となり確かに b,c は存在する。

よって,l=\sqrt{4+b^2}=\sqrt{13} となる。

本問の設定の場合 b^2-c^2 が定数となるので,連立方程式を解くときに双曲線関数が利用できる。
そのとき,\sinh は全実数をとるが、\cosh は正の値しかとらないことに注意する。

[大人の解答]
(途中から)

2bc=5+c^2b^2=3+2bc
により,
b^2-c^2=8b^2+c^2=4bc-2
が成立する。前者とb\geqq 0 より b=2\sqrt{2}\cosh t,c=2\sqrt{2}\sinh t とおくことができ,このとき後者は
 8\cosh 2t = 16\sinh 2t -2,つまり 4\cosh 2t = 8\sinh 2t -1
となる。よって \cosh^2 2t - \sinh^2 2t =1 から
 64\cosh^2 2t -(4\cosh 2t +1)^2= 64
つまり
 48\cosh^2 2t -8\cosh 2t-65=(4\cosh 2t-5)(12\cosh 2t+13)=0
となる.ここで \cosh 2t\gt 0 より
\cosh 2t=\dfrac{5}{4}=2\cosh^2 t -1
となり, \cosh t\gt 0 から \cosh t=\dfrac{3\sqrt{2}}{4} となる.
そして
\sinh 2t=\dfrac{4\cosh 2t+1}{8}=\dfrac{3}{4}=2\sinh t\cosh t
から \sinh t=\dfrac{\sqrt{2}}{4} となる.

よって b=3,c=1

双曲線関数にインスパイアされた次の解き方が一番楽。

[別解]
b^2-c^2=8b^2+c^2=4bc-2
が成立する。前者とb\geqq 0 より b=\sqrt{2}(e^t+e^{-t}),c=\sqrt{2}(e^t-e^{-t}) とおくことができ,このとき後者は
 4(e^{2t}+e^{-2t})=8(e^{2t}-e^{-2t})-2
つまり
 2e^{4t}-e^{2t}-6=(2e^{2t}+3)(e^{2t}-2)=0
となり,e^{t}=\sqrt{2} となる.よって b=3,c=1

よって,l^2=13 となり,l=\sqrt{13}

本問の設定だと,b^2-c^2=Kb^2+c^2=4bc+L の形になる。
K=0 のときは  (2\pm 4)b^2=L なので L\gt0 なら b=\sqrt{L/6}=-c
L=0 のときは b=c=0L\lt 0 なら b=\sqrt{-L/2}=c となる.

K\neq 0 のとき,
K\gt 0 ならば,b=\sqrt{K}\cosh t,c=\sqrt{K}\sinh t
K\lt 0 ならば,b=\sqrt{K}\sinh t,c=\sqrt{K}\cosh t
と置けば
K\cosh 2t=2K\sinh 2t +L
が得られ
\cosh 2t - \dfrac{L}{K}  = 2\sinh 2t
となるので,
4\cosh^2 2t- \left(\cosh 2t - \dfrac{L}{K}\right)^2=4
から
3\cosh^2 2t+\dfrac{2L}{K}\cosh 2t - \dfrac{L^2+4K^2}{K^2}=0
となる。この X=\cosh 2t とおくと,この X の2次関数は下に凸で Y 切片が負であるから,
この2次方程式は唯一の正の解
\cosh 2t =-\dfrac{L}{3K}+\dfrac{2\sqrt{L^2+3K^2}}{3|K|}
をもつ.この値を \alpha とおく.

このとき
\cosh t =\sqrt{\dfrac{\alpha+1}{2}}
が成立し,\sinh 2t = \dfrac{\alpha}{2} - \dfrac{L}{K}から
\sinh t = \left(\dfrac{\alpha}{4} - \dfrac{L}{2K}\right)\sqrt{\dfrac{2}{\alpha+1}}
が得られ,
\max\{b,c\}=\sqrt{K}\cosh t=\sqrt{K}\sqrt{\dfrac{\alpha+1}{2}}
\min\{b,c\}=\sqrt{K}\sinh t=\sqrt{K}\left(\dfrac{\alpha}{4} - \dfrac{L}{2K}\right)\sqrt{\dfrac{2}{\alpha+1}}
となる.

三角柱の切り口に正三角形があること - 球面倶楽部 零八式 mark II
も参照のこと.

2023.09.16記
一応買って読んでみた - 球面倶楽部 零八式 mark II
でこの問題を参照したので,ついでに補足しておく.
三角柱の切り口に正三角形があること - 球面倶楽部 零八式 mark II
でも述べた話を本問の枠組みで考えてみよう.

空間にある正三角形を一つの平面上に正射影したとき,三辺の長さがそれぞれ  x,y,zx\leqq z) であるような三角形がえられた.もとの正三角形の一辺の長さはいくらか.

xyz 空間の一辺の長さが l の正三角形 \rm ABCxy 平面へ正射影したものが \rm AQR であるとし,{\rm AQ}=x{\rm QR}=y{\rm RA}=z とする。また,{\rm A},{\rm B},{\rm C}z 座標をそれぞれ 0,b,cb\geqq 0)とする。このとき,
l^2=x^2+b^2=y^2+(b-c)^2=z^2+c^2
が成立する。よって
b^2+c^2=4bc+x^2+z^2-2y^2z^2-x^2=b^2-c^2
が成立する.z\geqq x より K=\sqrt{z^2-x^2}\geqq 0 とおくことができ,また
L=x^2+z^2-2y^2 とおくと
b^2+c^2=4bc+Lb^2-c^2=K
が成立する.

(i) K=0x=z) のとき L=2b(b-2c) から

(a) L\gt 0 なら b=-c=\sqrt{L/6} となり,l^2=x^2+\dfrac{L}{6}=\dfrac{4x^2-y^2}{3} から l=\sqrt{\dfrac{4x^2-y^2}{3}}

(b) L\gt 0 なら b=c=\sqrt{-L/2} となり,l^2=x^2-\dfrac{L}{2}=y^2 から l=y

(ii) K\gt 0x\leqq z) のとき
b=K\cosh t,c=K\sinh t
と置けば
K^2\cosh 2t=2K^2\sinh 2t+L
が得られ
\cosh 2t - \dfrac{L}{K^2}  = 2\sinh 2t
となるので,
4\cosh^2 2t- \left(\cosh 2t - \dfrac{L}{K^2}\right)^2=4
から
3\cosh^2 2t+\dfrac{2L}{K^2}\cosh 2t - \dfrac{L^2+4K^4}{K^4}=0
となる。 X=\cosh 2t とおくと,この X の2次関数は下に凸で Y 切片が負であるから,
この2次方程式は唯一の正の解
\cosh 2t =-\dfrac{L}{3K^2}+\dfrac{2\sqrt{L^2+3K^4}}{3K^2}
をもつ.この値を \alpha とおく.

このとき
\cosh t =\sqrt{\dfrac{\alpha+1}{2}}
が成立し,\sinh 2t = \dfrac{\alpha}{2} - \dfrac{L}{K^2}から
\sinh t = \left(\dfrac{\alpha}{4} - \dfrac{L}{2K^2}\right)\sqrt{\dfrac{2}{\alpha+1}}
が得られ,
b=K\cosh t=K\sqrt{\dfrac{\alpha+1}{2}}
c=K\sinh t=K\left(\dfrac{\alpha}{4} - \dfrac{L}{2K^2}\right)\sqrt{\dfrac{2}{\alpha+1}}
となる.このとき
l^2=x^2+b^2
=x^2+\dfrac{K^2(\alpha+1)}{2}
=x^2+\dfrac{3K^2-L+2\sqrt{L^2+3K^4}}{6}
=x^2+\dfrac{3(z^2-x^2)-(x^2+z^2-2y^2)+2\sqrt{(x^2+z^2-2y^2)^2+3(z^2-x^2)^2}}{6}
=\dfrac{(x^2+y^2+z^2)+2\sqrt{x^4+y^4+z^4-x^2y^2-y^2z^2-z^2x^2}}{3}
=\dfrac{(x^2+y^2+z^2)+\sqrt{2\{(x^2-y^2)^2+(y^2-z^2)^2+(z^2-x^2)^2\}}}{3}
となる.

こんなにシンプルになるのだったら,双曲線関数を使うよりも良い解き方があるに違いない(ありました.後半参照).

ともかく, x=2,y=3,z=2\sqrt{3} を代入すると
l^2=\dfrac{4+9+12+\sqrt{2(25+9+64)}}{3}=\dfrac{25+14}{3}=13
により l=\sqrt{13} となっている.

なお,
三角柱の切り口に正三角形があること - 球面倶楽部 零八式 mark II
の後半にもあるように,正射影の逆は一方方向への引き伸ばしであることを利用しても良いだろう.

ただ,初見では何をやっているかはわからないかも知れない.

[大人の解答]
正射影は一方方向へ縮めることであるから,3辺の長さが 2,3,3\sqrt{2} の3角形を一方方向に伸ばす( 1倍以上の拡大)を行って正三角形にしたときの一辺の長さを求めれば良い.

射影された3角形の3頂点を
(0,0)(2\cos\alpha,2\sin\alpha)0\leqq\alpha\leqq\dfrac{\pi}{2}),(3\cos\beta,3\sin\beta)
とおくと,3辺の長さが 2,3,3\sqrt{2} であるから,余弦定理により
12=4+9-12\cos(\beta-\alpha)
となり,\cos(\beta-\alpha)=\dfrac{1}{12}である.

この3点を y 軸方向に k\geqq 1 倍拡大すると正三角形になったとするとき,K=k^2-1\geqq 0 として
4+4K\sin^2\alpha=9+9K\sin^2\beta:=L^2K\geqq 0より L^2\geqq 9であり,L\gt 0 が正三角形の1辺の長さ),
6\cos\alpha\cos\beta+6(K+1)\sin\alpha\sin\beta=\dfrac{L^2}{2}
なる L が存在する.ここで
\cos(\beta-\alpha)=\dfrac{1}{12}
により
K\sin\alpha\sin\beta=\dfrac{L^2-1}{12}
が成立する.
K\sin^2\alpha=\dfrac{L^2-4}{4}K\sin^2\beta=\dfrac{L^2-9}{9}
であるから
\dfrac{(L^2-1)^2}{144}=\dfrac{L^2-4}{4}\cdot\dfrac{L^2-9}{9}
となり,
(L^2-1)^2=4(L^2-4)(L^2-9)
が成立する.整理して
(L^2-13)(3L^2-11)=0
となる.L^2\geqq 9 より L^2=13 となる.よって1辺の長さは L=\sqrt{13}

厳密に言えば,これは必要条件であり,十分性を示さなければならない.そのためには
L=\sqrt{13} のとき,
\cos(\beta-\alpha)=\dfrac{1}{12}
K\sin\alpha\sin\beta=1K\sin^2\alpha=\dfrac{9}{4}K\sin^2\beta=\dfrac{4}{9}
をみたす K,\alpha,\beta が存在することを言う必要がある.

後者3つからはK\gt 0\sin\alpha=\dfrac{9}{6\sqrt{K}}\sin\beta=\dfrac{4}{6\sqrt{K}} が得られるので,
\cos(\beta-\alpha)=\dfrac{1}{12}
から
\cos\alpha\cos\beta=\dfrac{1}{12}-\sin\alpha\sin\beta
つまり
(36K-81)(36K-16)=(3K-36)^2
をみたす K\gt 0 が存在すれば良い.
(4K-9)(36K-16)=(K-12)^2
より
K(11K-28)=0
となり,K\gt0より K=\dfrac{28}{11} となる.(k=\sqrt{\dfrac{39}{11}}

3K-36\lt 0 より \cos\alpha\cos\beta\lt 0 だから \cos\beta\lt 0 となり,
\sin\alpha=\dfrac{3\sqrt{77}}{28}\cos\alpha=\dfrac{\sqrt{91}}{28}
\sin\beta=\dfrac{\sqrt{77}}{21}\cos\beta=-\dfrac{2\sqrt{91}}{21}
が得られる.

つまり,(0,0)\left(\dfrac{\sqrt{91}}{14},\dfrac{3\sqrt{77}}{14}\right)\left(-\dfrac{2\sqrt{91}}{7},\dfrac{\sqrt{77}}{7}\right) の3点からなる三角形の3辺の長さは 2,3,3\sqrt{2} であり,これを y 軸方向に\sqrt{\dfrac{39}{11}} 倍拡大すると一辺の長さが \sqrt{13} の正三角形になることがわかり十分性が言えた.

つまりこの正三角形は, xy 平面とのなす角度\theta\cos\theta=\sqrt{\dfrac{11}{39}} をみたす平面上にある.

この解法は,答えを求めるのには都合が良いが,きっちりと必要十分条件であることを述べるのは難しい.ただ,
三角柱の切り口に正三角形があること - 球面倶楽部 零八式 mark II
により答の存在が保証されている場合は,この方法が速いという訳である.

この解答は,

の p.9[3] の解法に対応している.そしてそれは一番最初の[解答]で b,c連立方程式を解く代わりに,l だけの式にしたものである.

l^2=4+b^2=9+(b-c)^2=12+c^2
から
2bc=5+c^22bc=b^2-3 を解く

の代わりに

l^2=4+b^2=9+(b-c)^2=12+c^2
から
b=\sqrt{l^2-4}c=\sqrt{l^2-9}
l^2=9+(b-c)^2
に代入して解く

とすれば[大人の解答]の

(l^2-1)^2=4(l^2-4)(l^2-9)
が導かれる.

となっている.ただ,「語りかける」の場合,l を求めた後の十分性が
l^2=4+b^2=9+(b-c)^2=12+c^2
b,c の存在を言うだけなのでシンプルで優れている.[大人の解法]は l を求めるまでの式変形が楽である点で優れている.

これを一般的にしてみよう.以下は[大人の解答]に倣って導くが,「語りかける東大数学」のp.9[3] や p.11[4] に倣っても同じ方程式が導かれる.
(ちなみに,高低差と呼んでいる部分は,
三角柱の切り口に正三角形があること - 球面倶楽部 零八式 mark II
f(x)=0 という式に対応している)

3辺を x,y,zx\leqq z)とする.

射影された3角形の3頂点を
(0,0)(x\cos\alpha,x\sin\alpha)(z\cos\beta,z\sin\beta)
とおくと,余弦定理により
\cos(\beta-\alpha)=\dfrac{x^2+z^2-y^2}{2xz}
である.

この3点を y 軸方向に k\geqq 1 倍拡大すると正三角形になったとするとき,K=k^2-1\geqq 0 として
x^2+x^2K\sin^2\alpha=z^2+z^2K\sin^2\beta:=L^2K\geqq 0より L^2\geqq z^2であり,L\gt 0 が正三角形の1辺の長さ),
xz\cos\alpha\cos\beta+xz(K+1)\sin\alpha\sin\beta=\dfrac{L^2}{2}
なる L が存在する.ここで
\cos(\beta-\alpha)=\dfrac{x^2+z^2-y^2}{2xz}
により
K\sin\alpha\sin\beta=\dfrac{L^2-(x^2+z^2-y^2)}{2xz}
が成立する.
K\sin^2\alpha=\dfrac{L^2-x^2}{x^2}K\sin^2\beta=\dfrac{L^2-z^2}{z^2}
であるから
\dfrac{\{L^2-(x^2+z^2-y^2)\}^2}{4x^2z^2}=\dfrac{L^2-x^2}{x^2}\cdot\dfrac{L^2-z^2}{z^2}
となり,
\{L^2-(x^2+z^2-y^2)\}^2=4(L^2-x^2)(L^2-z^2)
が成立する.整理して
3L^4-2(x^2+y^2+z^2)L^2+4x^2z^2-(x^2+z^2-y^2)=0
となる.ここでヘロンの公式から,3辺がx,y,zである三角形の面積を S とすると
16S^2=4x^2z^2-(x^2+z^2-y^2)
であるから,
3L^4-2(x^2+y^2+z^2)L^2+16S^2=0
が成立する.ここで L^2\geqq z^2 に注意すると
L^2=\dfrac{x^2+y^2+z^2+\sqrt{(x^2+y^2+z^2)^2-48S^2}}{3}
=\dfrac{x^2+y^2+z^2+\sqrt{(x^2+y^2+z^2)^2-3\{2(x^2y^2+y^2z^2+z^2x^2)-x^4-y^4-z^4\}}}{3}
=\dfrac{(x^2+y^2+z^2)+\sqrt{2\{(x^2-y^2)^2+(y^2-z^2)^2+(z^2-x^2)^2\}}}{3}
が成立する.

空間にある正三角形を一つの平面上に正射影したとき,三辺の長さがそれぞれ  x,y,z であるような三角形がえられたとき,もとの正三角形の一辺の長さは
\sqrt{\dfrac{(x^2+y^2+z^2)+\sqrt{2\{(x^2-y^2)^2+(y^2-z^2)^2+(z^2-x^2)^2\}}}{3}}
である.


まぁまぁ深い話をした.