[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1988年(昭和63年)東京大学-数学(理科)[2]

[2] 空間内に平面 \alpha がある.一辺の長さ1の正四面体 V\alpha 上への正射影の面積を S とし,V がいろいろと位置を変えるときの S の最大値と最小値を求めよ.

ただし,空間の点 \mbox{P} を通って \alpha に垂直な直線が \alpha と交わる点を \mbox{P}\alpha 上への正射影といい,空間図形 V の各点の \alpha 上への正射影全体のつくる \alpha 上の図形を V\alpha 上への正射影という.

2019.02.22記

大京大ダブル合格が可能だった2年のうちの後の年。京大はA日程、東大はB日程だった。

この問題の解答で、カヴァリエリの原理を使って解く方法が有名だけど、この解法を一番最初にみたのは、河合塾の解答速報だった。なお、当時はインターネットが一般には普及していなかったので、数週間後に紙で印刷された冊子で紹介されていた。あれには感動した。
(2023.08.29記 数週間後に紙で印刷されたA5版の青い冊子が配られたのは正しいが、カヴァリエリの原理を使った解法はそれより前に河合塾に行ったときに張り出されていた解答だったという記憶が発掘された。現在もそうなのかも知れないが、河合塾にしろ駿台にしろ関東と関西ではやや独立した存在だったので、東大の解答速報を出す関東の先生は関西の解答を見ていないことは十分にありうる気がしてきた)

[うまい解答]
一辺の長さが1の正4面体の体積Vは、一辺の長さが\dfrac{1}{\sqrt{2}}の立方体の体積の\dfrac{1}{3}であり、正4面体の \alpha に垂直な方向の幅をhとすると、V=\dfrac{1}{3}Shであるから、S=\dfrac{1}{2\sqrt{2}h}となる。ここでhの最大値は1、最小値は\dfrac{1}{\sqrt{2}}であるから、\dfrac{1}{2\sqrt{2}}\leq S\leq \dfrac{1}{2}である。

2020.02.28記
トリッキーでない解法を示しておく。少し直感的であるのは否めない。

[解答]
正四面体を真上から見ることにより,ある面を別の面に正射影すると面積が1/3になることがわかる。よって正四面体の各面の単位法線ベクトルを外向きに選ぶと、その任意の2つのベクトルの内積-\dfrac{1}{3}となる。
その2個を\vec{p},\vec{q}として良い。このとき
|\vec{p}-\vec{q}|^2=|\vec{p}|^2-2\vec{p}\cdot\vec{q}+|\vec{q}|^2=1+2\cdot\dfrac{1}{3}+1=\dfrac{8}{3}
であるから、2つの単位法線ベクトルの差の長さは\dfrac{2\sqrt{6}}{3}である。

正四面体の4頂点をA,B,C,Dとし、三角形ABCのなす面の単位法線ベクトルを四面体の外向きに選んだものを\vec{d}のように残りの頂点名の小文字を利用して表現する。

平面 \alpha へA,B,C,Dを正射影した点をA',B',C',D'のように表すと、
2S=\triangle A'B'C'+\triangle B'C'D'+ \triangle C'D'A' + \triangle D'A'B'となる。
\alphaの単位法線ベクトルを\vec{n}とし、四面体をなす正三角形の面積をTとすると、
\triangle A'B'C'=|\vec{n}\cdot\vec{d}|Tなどから、
2S=(|\vec{n}\cdot\vec{a}|+ |\vec{n}\cdot\vec{b}|+|\vec{n}\cdot\vec{c}|+|\vec{n}\cdot\vec{d}|)T
となる。ここで\vec{a}+\vec{b}+\vec{c}+\vec{d}=\vec{0}に注意しておく。

(i) 4つの法線ベクトルのうち\alphaに対して\vec{n}と同じ側のものが1個または3個のとき

必要に応じて\vec{n}を逆向きにとれば良いので、1個であるとして良く、それを\vec{d}として良い。このとき
S=|\vec{n}\cdot\vec{d}|T
となり、正射影した図形は三角形である。

この場合の最大値は、\vec{n}\vec{d}が平行なときでT=\dfrac{\sqrt{3}}{4}である。

最小値は\vec{n}\vec{d}のなす角が最大となるとき、つまり\vec{d}以外の3つのうち2つが\alphaと平行になるときであり、
\vec{d}\vec{n}向きの長さが単位法線ベクトルの差の長さの半分\dfrac{\sqrt{6}}{3}となるときであるから、
\vec{n}\cdot\vec{d}=\dfrac{\sqrt{6}}{3}のときでありS=\dfrac{\sqrt{6}}{3}T=\dfrac{\sqrt{2}}{4}である。

(ii) 4つの法線ベクトルのうち\alphaに対して\vec{n}と同じ側のものが2個のとき

その2個を\vec{a},\vec{b}として良い。このとき\vec{a}+\vec{b}=\vec{m}とすると、
S=|\vec{n}\cdot\vec{m}|T
となり、正射影した図形は一般に四角形であり、\vec{m}の長さは
|\vec{m}|^2=|\vec{a}|^2+2\vec{a}\cdot\vec{b}+|\vec{b}|^2=1-2\cdot\dfrac{1}{3}+1=\dfrac{4}{3}
により\dfrac{2}{\sqrt{3}}である。

この場合の最大値は\vec{n}\vec{m}が平行なときで\dfrac{2}{\sqrt{3}}T=1である。
最小値を考えるために\vec{n}\vec{m}のなす角を大きくすると、\vec{c},\vec{d}のどちらがが\alphaと平行になるが、このとき4点の凸包は三角形となり、(i)に含まれるため、最小値を与える図形は四角形の中にはない。

以上から\dfrac{1}{2\sqrt{2}}\leq S\leq \dfrac{1}{2}である。

2020.03.22記

うれしたのし東大数学

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で、本問のカバリエリの原理による解法は、学生と東大の H 川先生との話を、当時 SEG の小島さんが大数に書いたものを初出のような書き方をしている。H 川先生とのやりとりの話は当時聞いたので事実だと思うが、カバリエリの原理の解法は 1988年3月に出版された河合塾の解答速報の冊子の方が速い。でも河合塾の解答速報(A5版の青い本)は受験生にあげたので、現物が手元にないのが悔やまれる。30年以上前なので記憶違いをしている可能性も否定できないからだ。
(2023.08.29記 数週間後に紙で印刷されたA5版の青い冊子が配られたのは正しいが、カヴァリエリの原理を使った解法はそれより前に河合塾に行ったときに張り出されていた解答だったという記憶が発掘された。現在もそうなのかも知れないが、河合塾にしろ駿台にしろ関東と関西ではやや独立した存在だったので、東大の解答速報を出す関東の先生は関西の解答を見ていないことは十分にありうる気がしてきた)

2020.09.23記
河合出版の東大72年買ってみてみたけど、本文の解答は普通のやつで、別解とか書いてなかった。河合塾の解答速報でカバリエリの原理の解法があったのだから載せとけばいいのに。

2020.12.14記
東京出版の東大・入試数学50年の軌跡だと、安田亨さんの説をとって小島さんが大数に書いたものを初出と考えているようだ。ただ、私は小島さんがその話をする前からカバリエリの原理の解法を知っていたので、小島さんが学生とその解法を思いついて感動したこと、商業誌では初出というのは、おそらくその通りだと思うが、彼ら以外誰も思いつかなかった、というのは、そうではなくて、世の中には鋭い人が沢山いるのだなぁ、という話。

2022.06.06記
懐しい解答をみつけた。以下の「同志」は原文ママ。出典の細かい状況は忘れた。

[解答]
正四面体の正射影が三角形か四角形かによって場合に分ける。

1)三角形の場合。一つの頂点の正射影が正四国体の正射影の中にある。この頂点から正四面体のこの頂点を含まない正三角形の面への垂線を考える。この垂線の正射影の長さと、この正三角形の面の正射影の面積は、一方が増加すれば他方が減少するという関係にある。角の正接を考えれば垂線の長さは一定であるから、 正射影の面積が最大になるのは垂線の正射影が1点になるときで、正三角形となり、面積は\dfrac{\sqrt{3}}{4}。最小になるのは垂線の端点の正射影三角形の頂点に一致するとき、つまり正四面体の一つの稜の正射影が1点になるときである。正四面体のねじれの位置にある2稜の中点同志を結ぶ線分の長さは \dfrac{\sqrt{2}}{2} で、正射影が1点になる稜とこの線分およびねじれの位置にある稜は垂直なので、最小値は \dfrac{\sqrt{2}}{4}

2) 四角形の場合。この場合ねじれの位置にある2稜の正射影が交わっている。一方の稜をこれら2稜の中点同志を結ぶ線分にそって平行移動したものを考え、その端点とこれと垂直に交わる稜の端点できまる正方形を考える。平行な線分の正射影は平行であるから、正四面体の正射影と、この正方形の正射影の面積は等しい。この湯合もこの正方形とこれに垂直な2稜の中点同志を結ぶ線分に着目すればよい。この線分の正射影が1点のとき、面積最大で、正射影は正方形となり、面積 \dfrac{1}{2}。この線分が射影される面に平行のとき、この場合ねじれの位置にある2稜の正射影は交わっているので、正四面体の正射影は四角形の極限として三角形になる、つまり正射影が四角形なる場合には面積の最小値は存在しない。以上まとめて、

最大値 \dfrac{1}{2},最小値 \dfrac{\sqrt{2}}{4}

2023.08.29記
河合塾の解答速報のカヴァリエリの原理を使った解法について,数週間後に紙で印刷されたA5版の青い冊子が配られたのは正しいが、カヴァリエリの原理を使った解法はそれより前に河合塾に行ったときに張り出されていた解答だったという記憶が発掘された。現在もそうなのかも知れないが、河合塾にしろ駿台にしろ関東と関西ではやや独立した存在だったので、東大の解答速報を出す関東の先生は関西の解答を見ていないことは十分にありうる気がしてきた.