[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1981年(昭和55年)東京大学-数学(理科)[6]

2023.08.22記

[6] abcd を実数の定数として,関数 f(x)=ax^3+bx^2+cx+d を考える.

(1) 関数 f(x)3 条件

(イ) f(-1)=0

(ロ) f(1)=0

(ハ) |x|\leqq 1 のとき f(x)\geqq 1-|x|

をみたすのは,定数 abcd がどのような条件をみたすときか.

(2) 条件(イ),(ロ),(ハ)をみたす関数 f(x) のうちで,積分 \displaystyle\int_{-1}^{1} { \{ f'(x)-x \} }^2 \,dx の値を最小にするものを求めよ.

本問のテーマ

2020.11.25記

関数のノルムとルジャンドル多項式

関数の距離を定義する方法は沢山あるが,内積\langle f, g\rangle=\displaystyle\int_{-1}^1 f(x) g(x) dx で定義し,ノルムを
||f||=\sqrt{\langle f, f\rangle}=\displaystyle\int_{-1}^1 \{f(x)\}^2 dx で定義すると,f,g の距離は
||f-g||=\displaystyle\int_{-1}^1 \{f(x)-g(x)\}^2 dx
によって与えられる.この関数空間の直交基底としてルジャンドル多項式が知られている.
(他にも  \{\cos \dfrac{nx}{\pi},\sin\dfrac{nx}{\pi} \} という基底を考えるとフーリエ級数展開が得られる).

ルジャンドル多項式が一般的にどういう風に定義されるかについては
ルジャンドル多項式 - Wikipedia
でも参照していただくとして,具体的な表現は
P_0(x)=1P_1(x)=xP_2(x)=\dfrac{3}{2}x^2-\dfrac{1}{2}P_3(x)=\dfrac{5}{2}x^3-\dfrac{3}{2}x,...
となっている.この基底は直交基底(正規ではない)であり
\langle P_i(x),P_j(x)\rangle=\dfrac{2}{2i+1}\delta_{ij}
が成立する.

本問2は,先ほどのように内積が与えられたとき,その内積から導かれる距離のもとで f'(x)P_1(x)=x に最小二乗基準で一番近いように選ぶという問題になっている(もちろん別の内積や別の基準を与えたときは最短となる関数は,一般的には違うものとなる).

[大人の解答]
(1) (イ)(ロ)から f(x)=(ax-d)(x^2-1) となる.

よって(ハ)は
|x|\leqq 1 のとき (ax-d)(x^2-1)\geqq 1-|x| となる.
これは |x|=1 のとき成立するので,
|x|\lt 1 のとき d-ax\geqq \dfrac{1}{|x|+1} を示せば良く,d-ax\geqq \dfrac{1}{|x|+1}-1\leqq x\leqq 0 の弧,0\leqq x\leqq 1 の弧はそれぞれは下に凸であるから,この不等式が x=-1,0,1 において成立することが必要十分条件である.

よって d+a\geqq\dfrac{1}{2},d\geqq 1,d-a\geqq\dfrac{1}{2} となる.

以上から b=-dc=-ad+a\geqq\dfrac{1}{2},d\geqq 1,d-a\geqq\dfrac{1}{2}

(2) ルジャンドル多項式 \{P_i(x)\} を用いて
f’(x)=2aP_2(x)-2dP_1(x) であるから,これと P_1(x)=x との距離が最短となるのは
a=0, d=1 のときである.

よって f'(x)=-x となる.これと f(1)=0 から f(x)=-x^2+1 である.

(2) 積分を真面目に計算すると \dfrac{2}{15}\{12a^2+5(2d+1)^2\} となる.(1)から d\geqq 1 であり,d=1のときに a=0 となり得るので f(x)=-x^2+1 のとき最小となる,のようになる.

なお,(ハ)の条件は次のように捉えることもできる.


(1) (イ)(ロ)から f(x)=(ax-d)(x^2-1) となる.

(ハ)f'(-1)\geqq1,f(0)\geqq 0,f'(1)\leqq -1 が必要である.

もし-1\lt x\lt 0 で不等式をみたさない場合,
3次以下の方程式 f(x)=x+1 の3解は -1\leqq x\lt 0 に重複をこめて3つあるので,y=f(x)y=x+1-1\leqq x\lt 0 以外で交わらないので x\gt 0f(x)\gt x+1 でなければならないが,これは f(1)=0に矛盾する.
よって -1\lt x\lt 0 で不等式をみたす.0\lt x\lt 1 で不等式をみたさない場合も同様に矛盾する.

よってこれは十分条件でもある.

結局,答の f(x)(\pm1,0),(0,1)の3点を通る放物線になるが,まぁ、そうなんだろうなぁと思うものの、この意味はまだよくわからない.
つまり (1) の条件と(2)を組み合わせて何をしたことになっているのかは、私にはわからない.

鉄緑の解説には最小二乗法と書いてあり,まぁ二乗を最小化する何かを求めているのだから最小二乗法ではあるのだが,最小二乗法によって何を求めようとしているのかが大切な訳で,(1) の f(x) に関する条件と (2) の f'(x)x の距離を考えることとの意味を知りたいのだ。