[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1987年(昭和62年)東京大学-数学(理科)[1]

2023.08.29記

[1] 行列 A=\begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix} の表す xy 平面の一次変換が,直線 y=2x+1 を直線 y=-3x-1 へうつすとする.点 \mbox{P}(1,2) がうつる点を \mbox{Q} とし,原点を \mbox{O} とするとき,二直線 \mbox{OP}\mbox{OQ} のなす角の大きさを求めよ.

本問のテーマ
回転拡大を表す1次変換
ヘッセ(Hesse)の標準形

2020.09.28記(2023.08.30補足)

ヘッセ(Hesse)の標準形

n 次元空間の n-1 次元超平面の方程式を,単位法線ベクトル \vec{n} と非負実数 d を用いて
\vec{n}\cdot\vec{x}-d=0\vec{n}\cdot\vec{x}=d
の形で表したもの.この形状から,点 \vec{a} とこの超平面との距離は d となる.

n 次元空間の n-1 次元超曲面にもヘッセの標準形を考えることができる.それは超曲面の法線ベクトルが単位ベクトルとなるようにパラメータ表示されたものとなり一般に複雑な形状となるが,原点中心半径 r の円のヘッセの標準形は \sqrt{x^2+y^2}-r=0 とやや単純に書ける。

[解答](2023.08.30)
A は回転拡大の1次変換を表す.\dfrac{-2}{\sqrt{5}}x+\dfrac{1}{\sqrt{5}}y=\dfrac{1}{\sqrt{5}} の単位法線ベクトル \dfrac{1}{\sqrt{5}}(-2,1)\dfrac{-3}{\sqrt{10}}x-\dfrac{1}{\sqrt{10}}y=\dfrac{1}{\sqrt{10}} の単位法線ベクトル \dfrac{1}{\sqrt{10}}(-3,-1) に変換される.前者から後者への回転角は
\dfrac{-3-i}{\sqrt{10}}÷\dfrac{-2+i}{\sqrt{5}}=\dfrac{-3-i}{\sqrt{10}}\times \dfrac{-2-i}{\sqrt{5}}=\dfrac{5+5i}{5\sqrt{2}}=\dfrac{1+i}{\sqrt{2}}=\cos\dfrac{\pi}{4}+i\sin\dfrac{\pi}{4}
により \dfrac{\pi}{4} であり,直線への原点からの距離が \dfrac{1}{\sqrt{5}} から \dfrac{1}{\sqrt{10}}\dfrac{1}{\sqrt{2}}倍) に変化するので,A の表す1次変換は\dfrac{\pi}{4}回転と,\dfrac{1}{\sqrt{2}} 倍拡大の合成変換である.よって \rm OP\rm OQ のなす角は \dfrac{\pi}{4} である.

実際は回転角だけ求めれば良いので次のようになる.[解答] では真面目にヘッセの標準形を用いたが,2直線はともに原点を通らないので,それぞれを
\vec{a}\cdot\vec{x}-b=0\vec{a}\cdot\vec{x}=b)(b\gt 0
の形で表現すれば,原点がそれぞれ直線の負領域にあることになり法線ベクトルの向きを合わせるための回転角が1次変換の回転角となる.さらに本問の場合,1次変換の回転角ではなくではなく,その絶対値を求めれば良いだけなのでもっと簡単になる.

[別解](2020.09.28)
A は回転拡大の1次変換を表すので,-2x+y=1 の法線ベクトル (-2,1)-3x-y=1 の法線ベクトル (-3,-1) と同じ向きに変換される.よって1次変換の回転角の絶対値はこの2つのベクトルのなす角\dfrac{\pi}{4} に等しい.よって \rm OP\rm OQ のなす角も \dfrac{\pi}{4} である.

この方針で1次変換の回転角のみを求めるのであれば,ベクトルのなす角ではなく,[解答]と同じように (-2,1)(-3,-1) と同じ向きにするために必要な回転角を求めなければならない(そのためには複素数を用いるのが楽).