[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1987年(昭和62年)東京大学-数学(理科)[2]

2023.08.29記

[2]点 (x,y) を点 (x+a,y+b) にうつす平行移動によって曲線 y=x^2 を移動して得られる曲線を C とする.C と曲線 y=\dfrac{1}{x}x\gt 0 が接するような ab を座標とする点 (a,b) の存在する範囲の概形を図示せよ.

また,この二曲線が接する点以外に共有点を持たないようなab の値を求めよ.ただし,二曲線がある点で接するとは,その点で共通の接線を持つことである.

2020.08.03記
y=\dfrac{1}{x}y=(x-a)^2+bx=t\gt 0) で接するとき,y=\dfrac{1}{x}x=t における接線が y=-\dfrac{1}{t^2}x+\dfrac{2}{t} であるから,
 (x-a)^2+b+\dfrac{1}{t^2}x-\dfrac{2}{t}=(x-t)^2
因数分解できる.よって係数比較して
a=t+\dfrac{1}{2t^2}, \, b=\dfrac{1}{t}-\dfrac{1}{4t^4}
となる.

t が 0 に近いとき,a\approx\dfrac{1}{2t}b\approx-\dfrac{1}{4t^2} により b\approx -a^2 であり(これは結構粗い),t が十分大きいとき,a\approx tb\approx\dfrac{1}{t} によりb\approx \dfrac{1}{a}となる.

相加相乗によりa\geqq \dfrac{t}{2}+\dfrac{t}{2}+\dfrac{1}{2t^2}\geqq \dfrac{3}{2} となるので,
\Bigl(\dfrac{3}{2},\,\dfrac{3}{4}\Bigr)で折り返すような図形となる.

これらの情報だけでそこそこ良い概形が描ける。

某問題集2003年版の、この近似を利用して概形を捉える解法で,求めるグラフが b=\dfrac{1}{a}b=-a^2 に挟まれている図(p.375)があるが,この図は間違いで上の枝は常に b=\dfrac{1}{a} よりも上にある.下の枝は b=\dfrac{1}{a} よりも上にある点 \Bigl(\dfrac{3}{2},\,\dfrac{3}{4}\Bigr) から単調減少で,(2^{\frac{1}{3}},\,2^{\frac{2}{3}})b=\dfrac{1}{a} と交わって b=-a^2 に近い形状となる.まぁ,流石に17年経っているので修正されていると思うが.

後半の y=\dfrac{1}{x} (x-a)^2+b=(x-t)^2-\dfrac{1}{t^2}x+\dfrac{2}{t} の交点は
 \dfrac{1}{x}=(x-t)^2-\dfrac{1}{t^2}x+\dfrac{2}{t},つまり (x-t)^2\Bigl(\dfrac{1}{xt^2}-1\Bigr)=0 となる.よって x=t,\dfrac{1}{t^2} となるのでこれが一致するからt=1であり,そのとき(a,\,b)=\Bigl(\dfrac{3}{2},\,\dfrac{3}{4}\Bigr)となる.

2020.08.24追記
t\approx 0 のとき、大雑把に b\approx -a^2 と粗く近似したが,もう少し頑張ろう.
 a^2=t^2+\dfrac{1}{t}+\dfrac{1}{4t^2}=-b+2t+t^2である.

t>0 より、a\approx \dfrac{1}{2t^2} から \dfrac{1}{t}\approx \sqrt{2a} となるので、b\approx -a^2+2\sqrt{2a}\dfrac{d^2 b}{da^2}=-\Bigl(2+\dfrac{1}{\sqrt{2a^3}}\Bigr) より上に凸)と近似できる.

グラフをきちんと書くために、加速度ベクトルの、速度ベクトルに対する向きを計算する.これが正なら反時計回り、負なら時計回りに位置ベクトルは移動する(ハンドルを切る方向).

\dfrac{d}{dt}\begin{pmatrix} a \\ b \end{pmatrix}=\dfrac{1}{t^5}\begin{pmatrix}  t^5-t^2\\ 1-t^3 \end{pmatrix}
\dfrac{d^2}{dt^2}\begin{pmatrix}  a \\ b \end{pmatrix}=\dfrac{1}{t^6}\begin{pmatrix}  3t^2\\ 2t^3-5 \end{pmatrix}
だから、
{\rm det}\Bigl(\dfrac{d}{dt}\begin{pmatrix} a \\ b \end{pmatrix},\dfrac{d^2}{dt^2}\begin{pmatrix} a \\ b \end{pmatrix}\Bigr)=\dfrac{2(t^3-1)^2}{t^9}\geqq 0
となるので,t\neq 1 のときは常に反時計回りになっている
t=1 のときは速度が0になり、そこで方向転換している).

2023.08.30記
曲線の概形はどこまで書くべきかは難しいが最低限の答案を書いておく.

[解答]
y=\dfrac{1}{x}y=(x-a)^2+bx=t\gt 0) で接するとき,y=\dfrac{1}{x}x=t における接線が y=-\dfrac{1}{t^2}x+\dfrac{2}{t} であるから,
 (x-a)^2+b+\dfrac{1}{t^2}x-\dfrac{2}{t}=(x-t)^2
因数分解できる.よって係数比較して
a=t+\dfrac{1}{2t^2}, \, b=\dfrac{1}{t}-\dfrac{1}{4t^4}
となる.

\dfrac{d}{dt}\begin{pmatrix} a \\ b \end{pmatrix}=\dfrac{t^3-1}{t^5}\begin{pmatrix}  t^2 \\ -1\end{pmatrix}
により

(a)  0\lt t\leqq 1 において a は単調減少で +\infty から \dfrac{3}{2}まで変化し,b は単調増加で -\infty から \dfrac{3}{4} まで変化する.

(b)  1\leqq  t において a は単調増加で \dfrac{3}{2} から +\infty まで変化し,b は単調減少で \dfrac{3}{4} から 0まで変化する.よって x 軸が t\to\infty で近づく漸近線となる.




後半の y=\dfrac{1}{x} (x-a)^2+b=(x-t)^2-\dfrac{1}{t^2}x+\dfrac{2}{t} の交点は
 \dfrac{1}{x}=(x-t)^2-\dfrac{1}{t^2}x+\dfrac{2}{t},つまり (x-t)^2\Bigl(\dfrac{1}{xt^2}-1\Bigr)=0 となる.よって x=t,\dfrac{1}{t^2} となるのでこれが一致するからt=1であり,そのとき(a,\,b)=\Bigl(\dfrac{3}{2},\,\dfrac{3}{4}\Bigr)となる.

パラメータ表示された曲線の凹凸は要求されていない場合,求めなくて良いと考えるのが普通であるが,求める際に注意しなければならないのは,一般に
\dfrac{d^2b}{da^2}\neq \dfrac{d^2b/dt^2}{d^2a/dt^2}
であるということである.正しくは
\dfrac{d^2b}{da^2}=\dfrac{d}{da}\left(\dfrac{db}{da}\right)=\dfrac{d}{dt}\left(\dfrac{da}{db}\right)\times\dfrac{dt}{da}=\dfrac{\dfrac{d}{dt}\left(\dfrac{da}{db}\right)}{\dfrac{da}{dt}}
となる.

本問の場合,既に述べたように

(c) \dfrac{d^2}{dt^2}\begin{pmatrix}  a \\ b \end{pmatrix}=\dfrac{1}{t^6}\begin{pmatrix}  3t^2\\ 2t^3-5 \end{pmatrix}
だから,
{\rm det}\Bigl(\dfrac{d}{dt}\begin{pmatrix} a \\ b \end{pmatrix},\dfrac{d^2}{dt^2}\begin{pmatrix} a \\ b \end{pmatrix}\Bigr)=\dfrac{2(t^3-1)^2}{t^9}\geqq 0
となるので,t\neq 1 のときは常に反時計回りになっている.よって 0\lt t\lt 1 のときは上に凸で,1\lt t のときは下に凸となる.

としても良いし,

(c') \dfrac{d^2b}{da^2}=\dfrac{\dfrac{d}{dt}\left(\dfrac{da}{db}\right)}{\dfrac{da}{dt}}\dfrac{\left(-\dfrac{1}{t^2}\right)'}{\dfrac{t^3-1}{t^3}}=\dfrac{2}{t^3-1}
となるので, 0\lt t\lt 1 のときは上に凸で,1\lt t のときは下に凸となる.

としても良い.