[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1983年(昭和58年)東京大学-数学(理科)[1]

2023.08.23記

[1] 行列A=\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}が表す xy 平面の1次変換 f が,次の条件(1),(2)をみたすとする.

(1) f は,任意の三角形をそれと相似な三角形にうつす.

(2) f は,点(1,\sqrt{3})を点(-2,2\sqrt{3}) にうつす.

このような行列 A をすべて求めよ.

本問のテーマ
平面上の相似変換

A\mapsto P^{-1}AP も相似変換と言ったりするのでややこしい.

2020.11.24記

[解答]
全ての三角形をそれと相似な三角形にうつす1次変換は回転拡大または折り返し拡大となる.

\rm O(0,0),A(1,0),B(0,1),M(1/2,1/2)とする.そして fによる像をそれぞれ{\rm O},{\rm A}',{\rm B}',{\rm M}' とする.

このとき,\angle\rm AOB=90^{\circ} の直角二等辺三角形 {\rm OA}'\rm{B}' の像において \angle{\rm A}'\rm{OB}'\neq 90^{\circ} とすると,\angle{\rm A}'\rm{OB}'=45^{\circ} となり,\angle{\rm A}'\rm{OM}'=\angle{\rm A}'\rm{OB}'-\angle{\rm B}'\rm{OM}'\lt 45^{\circ} となとなる.このとき直角二等辺三角形 \rm OAM の像が直角二等辺三角形にならないので矛盾する.

よって\angle{\rm A}'\rm{OB}'=90^{\circ}\mbox{OA}'=\mbox{OB}' が成立することが必要で,このときA=\begin{pmatrix} r\cos\theta & \mp r\sin\theta \\ r\sin\theta & \pm r\cos\theta \end{pmatrix} なる r\neq 0\theta が存在する.

このとき,A の表す1次変換は回転拡大または折り返し拡大となるから十分である.

以上から全ての三角形をそれと相似な三角形にうつす1次変換は回転拡大または折り返し拡大となる.

本問において,(1,\sqrt{3})(-2,2\sqrt{3}) にうつすことから
A=\begin{pmatrix} 1 & -\sqrt{3} \\ \sqrt{3} & 1 \end{pmatrix}A=\begin{pmatrix} -2 & 0 \\ 0 & 2 \end{pmatrix}
となる.

本問の場合は与えられた条件が特殊なため,次のように解くことができる.

[別解]

\rm O(0,0),P(1,\sqrt{3}),Q(2,0) とすると,これは正三角形であり,この像 {\rm O}(0,0),{\rm P}'(-2,2\sqrt{3}),{\rm Q}'(x,y) について,これも正三角形だから,(x,y)=(2,2\sqrt{3}),(-4,0) となることが必要で,このとき
A=\begin{pmatrix} 1 & -\sqrt{3} \\ \sqrt{3} & 1 \end{pmatrix}A=\begin{pmatrix} -2 & 0 \\ 0 & 2 \end{pmatrix}
となり,回転拡大または折り返し拡大となり十分.

2023.08.23記
[別解] を参考にすれば,少し計算が必要だが,全ての三角形をそれと相似な三角形にうつす1次変換は回転拡大または折り返し拡大となることを機械的に示すことができる.

少なくとも正三角形は正三角形に移るので
(1,0)\left(\cos\dfrac{\pi}{3},\sin\dfrac{\pi}{3}\right)の像は
(r\cos\theta,r\sin\theta)\left(r\cos\left(\theta\pm\dfrac{\pi}{3}\right),r\sin\left(\theta\pm\dfrac{\pi}{3}\right)\right)(複号同順)
のように書ける必要がある.こ のとき
A=\begin{pmatrix} r\cos\theta & r\cos\left(\theta\pm\dfrac{\pi}{3}\right) \\ r\sin\theta & r\sin\left(\theta\pm\dfrac{\pi}{3}\right) \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & \cos\dfrac{\pi}{3} \\ 0 & \sin\dfrac{\pi}{3} \end{pmatrix}^{-1}=\begin{pmatrix} r\cos\theta & \mp r\sin\theta \\ r\sin\theta & \pm r\cos\theta \end{pmatrix}
となるが,これは回転拡大または折り返し拡大となるので十分である.

[解答] は逆行列の計算が不要に代わりに論理的に説明する必要であるが,こちらは具体例1つで回転拡大または折り返し拡大となることが示せる代わりに逆行列の計算が必要となる.

2023.08.24記
正規直交基底に拘らなければ


\overrightarrow{a}=(1,0)\overrightarrow{a}=\left(\cos\dfrac{\pi}{3},\sin\dfrac{\pi}{3}\right)
とおくと
|\overrightarrow{a}|=1|\overrightarrow{b}|=1\overrightarrow{a}\cdot \overrightarrow{b}=\dfrac{1}{2}
であり,正三角形が正三角形に移ることから
|f(\overrightarrow{a})|=r|f(\overrightarrow{b})|=rf(\overrightarrow{a})\cdot f(\overrightarrow{b})=\dfrac{r^2}{2}
をみたす実数 ar \gt 0) が存在する.

このとき,平面上の任意のベクトル
\overrightarrow{x}=\alpha\overrightarrow{a}+\beta\overrightarrow{b}
の像
f(\overrightarrow{x})=\alpha f(\overrightarrow{a})+\beta f(\overrightarrow{b})
に対し,
|\overrightarrow{x}|^2=(\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2)から
|f(\overrightarrow{x})|^2=r^2(\alpha^2+\alpha\beta+\beta^2)=r^2|\overrightarrow{x}|^2
つまり
|f(\overrightarrow{x})|=r|\overrightarrow{x}|
が成立するので,f は回転拡大か折り返し拡大である.

とすることができる.