[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1999年(平成11年)東京大学前期-数学(理科)[6]

2020.07.23記

[6] \displaystyle \int_{0}^{\pi}\, e^x {\sin}^2x \,dx>8 であることを示せ.ただし,\pi=3.14\cdots は円周率, e=2.71\cdots自然対数の底である.

2020.07.23記
ちょっと格好つけて
 I=\displaystyle \int_{0}^{\pi}\, e^x {\sin}^2x \, dx =\displaystyle \int_{0}^{\pi/2}\, (e^x+e^{\pi -x}) {\sin}^2x \, dx \gt \displaystyle \int_{0}^{\pi/2}\, 2e^{\pi/2} {\sin}^2x \, dx =\dfrac{\pi}{2}e^{\pi/2}
と評価すると,評価が粗すぎて失敗する.

素直に積分する.

[解答]
 I=\displaystyle \int_{0}^{\pi}\, e^x \dfrac{1-\cos 2x}{2} \, dx =\displaystyle\dfrac{e^\pi -1}{2}-\dfrac{1}{2}\int_{0}^{\pi}\, e^x \cos 2x \, dx
となり, \cos\alpha=\dfrac{1}{\sqrt{5}} \sin\alpha=\dfrac{2}{\sqrt{5}}なる\alphaを用いて
 I=\dfrac{e^\pi -1}{2}-\dfrac{1}{2}\Bigl[ \dfrac{1}{\sqrt{5}} e^x \cos (2x-\alpha)\Bigr]_{0}^{\pi} =\dfrac{e^\pi -1}{2}-\dfrac{e^\pi -1}{2}\cdot \dfrac{1}{5}=\dfrac{2(e^\pi -1)}{5}
となる.よって,e^\pi > 21 を示せば良い.

ここで,下に凸な y=e^xx=0 における接線の式から, x\gt 0 e^x \gt x+1 となるので,
e^{\pi-3} \gt 1+(\pi -3) > 1.14
が成立する.

よって
e^\pi \gt  e^3 \times 1.14  \gt  2.7^3\times \dfrac{10}{9} \gt \dfrac{3^7}{100}=\dfrac{3\times 729}{100} \gt 21
となり,題意は示された.

1.14 を 10/9 で評価している解答は見掛けなかった。まぁ、1.1でも十分だから。でも 3^6=81\times 9=729は暗算でできるので、1.1よりも 10/9 の方が少し計算が楽で、しかも厳しい評価になっている。

ここで, e^x \gt x+1 の不等式が、良い近似式としても通用する範囲は、やはり二次の項 x^2 が小さい範囲なので、 e^\pi > 1+\pi は緩々の不等式となる。そこでxが0に近い数になるようにe^{\pi-3}を考えている。

また,x=3における接線の式で評価してe^x \gt e^3(x-3)+e^3\piを代入して  e^\pi > e^3(\pi -3)+e^3 としても良いが,指数関数の平行移動が拡大になるという関数方程式 f(x+t)=f(t)\times f(x) を考えると,今回の場合は,全く同じことを行なっていることがわかる。

さらに、 e^x で、 x=3,\pi の間での平均値の定理を使っても同じ不等式がでる.

なお,e^\pi=23.14...であるから,1割ぐらいの誤差は許容されるので、粗すぎず、細かすぎない絶妙な値になっている。