[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2012年(平成24年)東京大学前期-数学(理科)[5]

本問のテーマ
格子平行四辺形(2022.03.14)
ピックの公式(2022.04.23)

2022.03.14記

格子平行四辺形


格子平行四辺形の面積に関する問題.ピックの公式の証明の1つにつながる.

\mbox{det}(BA)=(\mbox{det}B)(\mbox{det}A) を使えば良いが、どのみち成分が整数となることを確かめなければならないので、真面目に成分計算をしておく.

[解答]

(1) 平行四辺形の面積は |\mbox{det}A|=|ad-bc|=1 であるから,
条件(D)は行列の成分が全て整数であり,その行列式の絶対値が1となることである.

B^{-1}=\begin{pmatrix} 1 & -1 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} であるから,
BA=\begin{pmatrix} a+c & b+d \\ c & d \end{pmatrix}
B^{-1}A=\begin{pmatrix} a-c & b-d \\ c & d \end{pmatrix} の成分は全て整数である.

|\mbox{det}(BA)|=|(a+c)d-(b+d)c|=|ad-bc|=1
|\mbox{det}(B^{-1}A)|=|(a-c)d-(b-d)c|=|ad-bc|
により,BAB^{-1}A も条件(D)をみたす.

(2) c=0 のとき,|ad-bc|=1 から |ad|=1 だから (a,d)=(\pm1,\pm1)(複号任意)となる.

このとき
BA=\begin{pmatrix} a & b+d \\ 0 & d \end{pmatrix}
B^{-1}A=\begin{pmatrix} a & b-d \\ 0 & d \end{pmatrix}
d=1または-1

(i) bd\geq 0 のとき b-|b|d=0 であるから
(B^{-1})^{|b|}A=\begin{pmatrix} a & b-|b|d \\ 0 & d \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} a & 0 \\ 0 & d \end{pmatrix}
となり (a,d)=(\pm1,\pm1)(複号任意)であるから題意は成立する.

(ii) bd\leq 0 のとき b+|b|d=0 であるから
B^{|b|}A=\begin{pmatrix} a & b+|b|d \\ 0 & d \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} a & 0 \\ 0 & d \end{pmatrix}
となり (a,d)=(\pm1,\pm1)(複号任意)であるから題意は成立する.

(3) (i) ac が同符号のとき
c が正なら0\lt c\lt ac が負なら0\gt c\gt a だから,
|a-c|\lt |a|
が成立するので,
B^{-1}A=\begin{pmatrix} x & y \\ z & w \end{pmatrix} について
|x|+|z|=|a-c|+|c|\lt |a|+|c| が成立する.

(ii) ac が異符号のとき
c が正なら0\lt c\lt -ac が負なら0\gt c\gt -a だから,
|a+c|\lt |a|
が成立するので,
BA=\begin{pmatrix} x & y \\ z & w \end{pmatrix} について
|x|+|z|=|a+c|+|c|\lt |a|+|c| が成立する.

本問の背景ついて述べる.

本問では問われていないが行列の1行目と2行目を入れ替える操作を行なっても条件(D)をみたすという性質は変わらないことがわかる.このとき,(3)において|x|\lt|z| となった場合,行列の1行目と2行目を入れ替えれば(3)の条件をみたすことがわかる.

つまり,(3) を適用した後,

(i) |x|\gt |z|\gt 0 ならもう一度 (3) を適用

(ii) |z|\gt |x|\gt 0 なら1行目と2行目を入れ替えても条件(D)をみたすので
\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x & y \\ z & w \end{pmatrix} について (3) を適用

をくり返すと,|x|+|z|自然数の範囲で単調減少となるので、いずれ x=0 または z=0 のどちらかが成立する.

そして

(a) z=0 なら(2) から4個の行列に帰着でき,

(b) z=0 なら1行目と2行目を入れ替えても条件(D)をみたすので
\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x & y \\ z & w \end{pmatrix} について(2) から4個の行列に帰着できる.

つまり,AB_1=BB_2=B^{-1}B_3=B\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}B_4=B^{-1}\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} の4つの行列のいずれかを左から乗ずることを有限回くり返すと,(2) の4つの行列に移ることがわかる.

この行列が(2) の4つの行列に移ることを図形的に考えてみよう.

{\rm O}(0,0){\rm A}(a,b){\rm B}(a+c,b+d){\rm C}(c,d) でできる格子平行四辺形について考える

{\rm D}(a+2c,b+2d){\rm E}(a-c,b-d)とおく.

BA=B_1A が表す格子平行四辺形は \rm OBDC であるが,ここで,格子平行四辺形 \rm OABC を,\triangle{\rm OAB}\triangle{\rm OBC} に分割し,\triangle{\rm OAB}(c,d) だけ平行移動した \triangle{\rm CBD}\triangle{\rm OBC} をつなげると格子平行四辺形 \rm OBDC になることに注意すると,面積が変わらないことがわかる.

B^{-1}A=B_2A が表す格子平行四辺形は \rm OEAC であるが,ここで,格子平行四辺形 \rm OABC を,\triangle{\rm ABC}\triangle{\rm OAC} に分割し,\triangle{\rm ABC}(-c,-d) だけ平行移動した \triangle{\rm OAE}\triangle{\rm OAC} をつなげると格子平行四辺形 \rm OEAC になることに注意すると,面積が変わらないことがわかる.

これら切り貼りにおいて,切り貼り前の格子平行四辺形の周または内部の格子点は新しい格子点の周または内部の格子点に1対1に対応することがわかる.但し頂点の格子点は4つで1つと考え,頂点以外の周の格子点は向いあっている2つで1つと考えることにする.

この対応において「格子平行四辺形の面積が切り貼りにおいて不変である」以外に,「格子平行四辺形の周または内部に含まれる格子点の数は切り貼りにおいて不変である」ことがわかる.

(しつこいようだが、平行四辺形の頂点は4つで1つ,頂点以外の周は2個で1つと数える数え方において不変であるということ.良く考えれば,この数え方とピックの公式の類似性に気付く.但し頂点の数え方は四角形特有である)

(2) は,\rm Cy 軸上にあるとき,この切り貼りをくり返すと原点を1つの頂点とする辺が軸に平行な単位格子正方形(4つのうちのいずれか)になるという問題で,2つの切り貼りをより正方形に近づくようにくり返すとうまくいくことを示す問題になっている.

(格子平行四辺形の面積が1でないときは,原点を1つの頂点とする辺が軸に平行な面積の等しい格子長方形になる)

(3) は、このままだとわかりにくいが,切り貼りの方法として {\rm F}(2a+c,2b+d){\rm G}(-a+c,-b+d) を用いた B_3A が表す格子平行四辺形 \rm OAFBB_4A が表す格子平行四辺形 \rm OBCG を考えると,

これら4つの切り貼りのうちどれかによって平行四辺形の1つの頂点を x 軸または y 軸により近づけることができることを表しているので,やがて (2) の状況になるということである.

よってこれの4つの切り貼りのどれかを選んで行うことを繰り返すことにより,

格子平行四辺形の面積を変えずに,かつ周または内部に含まれる格子点の数も(上記の数え方によって)不変のまま原点を1つの頂点とする辺が軸に平行な面積の等しい格子長方形に変形することができる

ことが示された.ここで格子長方形は単位格子正方形をつなげてできたものであるから,

「格子平行四辺形の周または内部にある格子点が4頂点のみ」

「切り貼りで得られた原点を1つの頂点とする辺が軸に平行な面積の等しい格子長方形の周または内部にある格子点が4頂点のみ」
が同値となり,よってそれは
「その格子長方形は(2)の4つの行列に対応するの正方形のいずれか」
であることと同値になる.

ここで,格子長方形の面積が1となることと,それが単位格子正方形であることは同値であるから,

「格子平行四辺形の周または内部にある格子点が4頂点のみ」

「格子平行四辺形の面積が1」
は同値となる.

格子平行四辺形の対角線で分けることにより,

「格子三角形の周または内部にある格子点が3頂点のみ」

「格子三角形の面積が\dfrac{1}{2}
は同値となる.このような「周または内部にある格子点が3頂点のみ」の格子三角形を基本三角形と呼ぶ.つまり,基本三角形の面積は \dfrac{1}{2} である.

格子多角形を基本三角形に分割するとき,分割した三角形の数の半分がその格子多角形の面積になる.格子多角形がいくつの基本三角形に分割できるかは,周上にある格子点と内部にある格子点の数から,オイラー多面体の公式(の平面版)によって決まり,それがピックの公式になっていることがわかる.

2022.04.23記

ピックの公式

ピックの公式の証明方法はいくつか知られているが,基本三角形の性質
「格子三角形の面積が\dfrac{1}{2}
であることと
「格子三角形が基本三角形(周または内部に3頂点以外の格子点を含まない)」
であることは同値あることを利用する方法について述べる.

格子多角形の周(頂点または辺上)にある格子点の数を B,内部にある格子点の数を I とする.この格子多角形の周または内部を基本三角形に分割したときに K 個の基本三角形に分割できたとするとき,格子多角形の周(B本の(グラフ理論での)辺)以外は2つの基本三角形の境界として辺の数が2重にカウントされているので
2E=3K+B
が成立する.F=KV=B+I であるから,オイラー多面体の定理により
V-E+F=(B+I)-\dfrac{3K+B}{2}+K=1
つまり
K=B+2I-2
が成立する.ここで基本三角形の面積は \dfrac{1}{2} であるから,格子多角形の面積を S とすると
S=\dfrac{K}{2}=\dfrac{B}{2}+I-1
となる.これがピックの公式である.

ピックの公式の「-1」はオイラー多面体の定理の平面版の「1」の部分から来ており,それはもともと3次元版の V-E+F=2 の 「2」の部分に由来する.そしてこの 「2」はデカルトの定理に由来し,そしてそれは多面体が球と同相あるから全曲率が 4\pi であること,つまりガウス・ボネの定理に由来する.

なお,ピックの公式の直感的な証明として,水を使った証明があるが,これは良く知られている面積の加法性と格子点の見込む角度の加法性を対応させた証明を具体的に見える形にしたもので、この視点からすると,n 角形の内角の和が n\pi -2\pi となるこの「 2」の部分から K=B+2I-2 の「 -2」が得られることになるので,実は、n 角形の内角の和が n\pi -2\pi となること,つまり多角形のまわりを1周したら1回転することは、ガウス・ボネの定理に由来していることになる.

ピックの公式関連の話題として
1998年(平成10年)東京大学前期-数学(理科)[2] - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
のテーマであるエルハート多項式についても読まれたし