[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2019年(平成31年)九州大学理系数学[5]

a,b複素数cを純虚数でない複素数とし、i虚数単位とする。複素数平面において、点zが虚軸全体を動くとき、
w=\dfrac{az+b}{cz+1}
で定まる点wの軌跡をCとする。次の3条件が満たされているとする。

(ア)z=iのときにw=iとなり)z=-iのときにw=-iとなる。

(イ)Cは単位円の周に含まれる。

(ウ)点-1Cに属さない。

このときa,b,cの値を求めよ。さらにCを求め、複素数平面上に図示せよ。

解説:メビウス変換。

中の人が、ツイッターで予備校の解法を批判していたので見てみたところ、問題文の書き方が「単位円の周に含まれる」「点-1Cに属さない」と書いている以上、「単位円のどの部分を動き、どの部分が除外されるかきちんと議論して欲しい」という欲求があることは予想できると思う。

ただ、中の人の、「変な計算テクニックや結果の暗記」の部分が何を指しているか謎。1/6公式とかでしょうか。理解して結果を暗記することは悪いことだと思わないけど。不定積分だって多くのものは結果を暗記しているし。

Cのどの部分を動き得るかについては、以下の記述で十分。スペースもほとんど不要。答案用紙のスペースに入る方法を教えて欲しいとツイッターで書いていた予備校講師がいたが大丈夫か?予備校講師は逆像法(逆手流)に毒され過ぎていないか?

w=\dfrac{z+1}{-z+1}による虚軸の像を求めるので、z=yi(yは実数)を代入するとw=\dfrac{1+yi}{1-yi}=\dfrac{(1-y^2)+2yi}{1+y^2}となる。y=\tan\dfrac{\theta}{2}とおくと、\thetaの変域は-\pi\lt\theta\lt\piとなり、w=\cos\theta+i\sin\thetaとなるので、wの軌跡Cは単位円から\theta=\pi(,-\pi)に対応する-1を除いたすべての点である。

2019.2.28追記
メビウス変換は無限遠点を含めると全単射だから、虚軸上の無限遠点の像w=-1Cから除いたものが求める軌跡になることは明らかです(誰にとってかは知らない)。

大人の解法:
メビウス変換は、pwz+qz+rw+s=0の形になっており、点(Ri,-1+\epsilon),(i,i),(-i,-i)(R\to\infty\epsilon\to 0を通るので、形式的に
det \begin{pmatrix} wz & z & w & 1 \\-Ri-\epsilon & Ri & -1+\epsilon & 1 \\ -1 & i & i & 1 \\ -1 & -i & -i & 1 \end{pmatrix}=0から
 det \begin{pmatrix} wz & z & w & 1 \\-1-\dfrac{\epsilon}{Ri} &1 & \dfrac{-1+\epsilon}{Ri} & \dfrac{1}{Ri} \\ -1 & i & i & 1 \\ -1 & -i & -i & 1 \end{pmatrix}=0と求められ、
R\to\inftydet \begin{pmatrix} wz & z & w & 1 \\-1 &1 & 0 &0 \\ -1 & i & i & 1 \\ -1 & -i & -i & 1 \end{pmatrix}
=det \begin{pmatrix} wz+z-w+1 & 0 & 0 & 0 \\-1 & 1 & 0 &0 \\ 0 & 1 & 1 & 0 \\ -1 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}=0となる。

よって、wz+z-w+1=0を整理してw=\dfrac{z+1}{-z+1}となる。軌跡の限界は、無限遠点を含めるとi,-i,-1の3点を通る円、つまり単位円全体であるが、高校生的には無限遠点の像-1を除いたものとなる。

もちろん、(z_1,w_1)=(i,i),(z_2,w_2)=(-i,-i),(z_3,w_3)=(\infty,-1)を通るので公式から
w=\dfrac{w_1(w_3-w_2)(z_3-z_1)(z-z_2)-w_2(w_3-w_1)(z_3-z_2)(z-z_1)}{(w_3-w_2)(z_3-z_1)(z-z_2)-(w_3-w_1)(z_3-z_2)(z-z_1)}
=\dfrac{w_1(w_3-w_2)(z-z_2)-w_2(w_3-w_1)(z-z_1)}{(w_3-w_2)(z-z_2)-(w_3-w_1)(z-z_1)}=\dfrac{-2iz-2i}{2iz-2i}=\dfrac{z+1}{-z+1}
と求まるが、こんな公式はまぁ覚えていない。

2019.03.01追記
駿台の解答が訂正された。軌跡の限界を簡単に議論しようとすると、数学を教える人であればy=\tan\dfrac{\theta}{2}とおくのが自然。\dfrac{1-t^2}{1+t^2},\dfrac{2t}{1+t^2}の形をみてt=\tan\dfrac{\theta}{2}を思いつかないと、高校の数学を教えるのはちょっと困るよね。これから単位円上にはx,y座標の両方が有理数の点が無数にあることがわかり、これから3辺の長さの比が互いに素な整数からなる直角3角形の形状が無数にあることもわかる。この表示だと全種類を知ることができる。

なお、3辺が整数比の直角3角形の形状が無数にある(原始ピタゴラス数が無数にある)こと自体は、
n^2+(2n+1)=(n+1)^2
において、2n+1=m^2なるm,nの組が無数にあり、(m,n,n+1)の3辺比の互いに相似にならない直角3角形が作られることからもわかる。互いに相似にならないことは、最大辺と2番目に大きな辺の長さの差が1なので、相似となる場合は一致しなければならないことから証明できる。

m=3,5,7,...とするとピタゴラス(3,4,5),(5,12,13),(7,24,25),(9,40,41),(11,60,61)...と次々に作り出すことができる。
もちろん、(8,15,7)(20,21,29)などのピタゴラス数は、この作り方では登場しない。

この作り方は、全てのピタゴラス数を生成できないということからあまり知られていないような気がする。普通教えるときは全部生成できる方法を教えるから。でも、全部生成できる(m^2-n^2,2mn,m^2+n^2)を教える前に、ちょっと話してもいいんじゃなイカと思う。