[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1889年(明治22年)東京農林學校豫備科-數學

2020.11.01記


明治22年7月

【算數學】(二時間)

[1] 豪農アリ貧民を救助スルニ壹圓札六十九枚ト米一升入リノ袋百十五袋トヲ以テ殘リ無ク平等ニ分ケ與ヘタリト云フ貧民幾名ナルヤ

[2] 或ル商人へ肥料買イ入レヲ依頼シ代金手數料合セテ百三十六圓三十五錢ヲ拂ヘリ手數料ハ百圓ニ付キ一圓ノ割合ナリト云フ肥料ノ價幾圓ナルヤ

[3] 一籠二十五入リノ梨子九十六籠ノ代金十七圓二十八錢ナリ今其梨子を籠ヨリ三個ツヽ減シテ四十五籠ヲ売ルハ此代金幾何

但シ空籠一個ノ代金梨子二個ニ等シ

[4] 甲乙丙の農夫アリ一田ヲ耕スニ甲ハ四日乙ハ五日丙ハ六日ニテ終ル今甲乙丙三人相共ニ若干日働キテ金百八十五圓ヲ得タリ之ヲ幾圓ツヽ配分スレバ至當ナルヤ
(文献によっては「金百八十五圓」が「金八十五圓」となっていた)

[5] 山畑ニ一合ノ蕎麥ヲ蒔キ若干升ヲ收穫セリ之ヲ又其次年ニ蒔キ收穫(シ)同シ割合ニテ増殖シ第三年ニ至リ収穫量七千三百一石三斗八升四合アリト云フ初年ノ收穫幾何ナルヤ

【代數】(二時間)

[1] \left\{ \dfrac{\left(\dfrac{(a-x)(a-b)}{x-a}+c\right)(a-x)}{a(b+c-a)}+\dfrac{a-x}{a}\right\}\times \dfrac{a^2+ax}{2(a^2-x^2)}
及ヒ
\Bigl(\dfrac{a^2b}{c^2}\Bigr)^m\times\Bigl(\dfrac{b^2c}{a^2}\Bigr)^m\times\Bigl(\dfrac{c^2a}{b^2}\Bigr)^m
ヲ最モ簡単ニスベシ

[2] 雇人アリ一ケ年ノ給料トシテ金百三十五圓ト衣裳ヲ與フル約束ナリシカ事故アリ七ケ月ヲ経テ解雇シ前ニ約セシ衣裳ト金七十五圓ヲ與ヘタリト云フ衣裳ノ價幾圓ニ相當スルヤ

[3] 米商アリ東西倉ニ米若干俵ヲ藏ム西倉ヨリ十俵出シテ東倉ニ入レシナラハ西倉ノ俵數ハ東倉(ノ)二倍トナル若シ東倉ヨリ三十俵ヲ出シテ西倉ニ入レルナレバ西倉ノ俵數ハ東倉ノ六倍トナルト云フ兩倉ノ俵數各幾何ナルヤ

[4] 若干人ニ等分スヘキ金百廿圓アリ更ニ六人ヲ増加セルニ同ク一人ノ所得一圓ヲ減セリト云フ最初ノ人員幾何ナルヤ

[5] ax^n+bx^{n/2}=c ヲ解キ x の價ヲ求ム可シ

【幾何】(二時間)

[1] 一直線上ノ直立線ハ並行ナルヿヲ証スベシ

[2] 二個ノ三角形アリ諸邊及諸角ガ相等クトリテ全ク相重リ得ヘキ四件ノ塲合ヲ列記スベシ

[3] 並行方形ヲ一角點ヨリ三線ヲ引キ三等分スル法如何且其法ノ正確ナルヲ証スベシ

[4] 三角形アリ其第一邊ノ平方ガ他ノ兩邊ノ平方ノ和ニ等シキハ其第一邊ニ對スル角ハ直角ナリト此証如何

[5] 二個ノ三角形アリ二邊ノ比及ヒ其挾角相等シキトキハ相似ナリト此証ヲ問フ

2020.11.01記
もとの文献の状態が悪いので,一部推測で文章を補っている.
【代數】
[5] は ax^m+bx^{n/2}=c となっているが,それだと解けないので修正した.
別文献では修正問題と同じであった(2020.11.07記).

[解答]
【算數學】
[1] 69 と 115 の最大公約数は23で、これは素数なので23名

[2] 136.35÷1.01=135 なので135圓

[3] 17.28\times\dfrac{24}{27}\times\dfrac{45}{96}=7.2 より七圓二十錢


[4] 甲乙丙の労働力は \dfrac{1}{4}:\dfrac{1}{5}:\dfrac{1}{6}=15:12:10 であるから,85圓をこの比で分配することになる.よって甲は三十四圓四十六錢,乙は二十七圓五十七錢,丙は二十二圓九十七錢(錢未満を四捨五入したら合計がピッタリになった)

[4] 甲乙丙の労働力は \dfrac{1}{4}:\dfrac{1}{5}:\dfrac{1}{6}=15:12:10 であるから,185圓をこの比で分配することになる.よって甲は七十五圓,乙は六十圓,丙は五十圓(2020.11.07記)

[5] 1合が x 合になったとすると x^3=7301384 となったので、x=194 となる.

素因数97をみつけるのは大変だ。とりあえず8で割った後、90^3\lt 912973 \lt 100^3 と、3乗して1の位が3になるのは、1の位が7の場合だけと考えると、答が自然数ならば 97^3=912973 しかないことがわかる.

【代數】
[1] 1 及ヒ (abc)^m

[2] 金60圓が五ヶ月分なので、衣裳は九圓に相當する

[3] 東に x 俵,西に y 俵あるとすると、
 2(x+10)=y-10,6(x-30)=y+30 となる.よって x=60,y=150 となる.

[4] n 人に a 圓とすると
na=(n+6)(a-1)=120
となる.最初の等号から6a=n+6 となるので a(a-1)=20 となり, a=5n=24
よって最初は24人

[5] x=\sqrt[n/2]{\dfrac{-b\pm\sqrt{b^2+4ac}}{2a}}

[5] は,他の問題のレベルからして不思議。(虚数解とかどうするのだろうか?)

【幾何】
[1] 同位角が90度で等しいので平行,でいいかな。

[2] 「第一均同定則(二邊挾角相等)」,「第二均同定則(三邊相等)」、「第三均同定則ノ一(一邊兩端角相等)」は現在と同じで、これに加えて「第三均同定則ノ二(二角及ビ其ノ一ツノ角ノ對邊相等)」というのを加えた4つが正解のようだ.この定理の呼び方は多々羅恕平著「平面幾何学」による(2020.11.07記)

[3] 平行四辺形の頂點に隣り合う2邊を,頂點から2對1に内分する點を通る2直線によって面積は3等分される.そうなる証明は面積を計算してみれば,
平行四辺形の半分×\dfrac{2}{3}で平行四辺形の\dfrac{1}{3}になっていることからわかる.

[4] 多々羅恕平著「平面幾何学」の第百十七款(ピタゴラス氏の定義の反)である.つまりピタゴラスの定理の逆を証明すれば良い.また,真野肇(譯)「維爾孫 (ウヰルソン) 氏著述平面幾何学前巻」には「第九定理(p.84)」とあり,当時の参考書にも「ウヰルソン平面幾何第九定理」とある(2020.11.07記).

[5] 邊の比だけ拡大すると,二邊夾角相等となるので合同になる、じゃいけないですかね。ならば2つつなげて二等辺三角形を利用して、3つの角が等しいことを示せばいいかな。

結局は、\rm \triangle ABC\rm \triangle PQR\rm  A,P を重ねて
\rm AB:AC=AQ:AR から \rm BC,QR は平行となるので、残りの2角も等しい、という方針で良いようだ(2020.11.07記)。

2020.11.07記
2つめの文献と比較して問題文を妥当なものに修正した

多々羅恕平著「平面幾何学」(明治21年6月版)の序文には
「本書ハ余ガ東京農林學校同豫備校等ニ於テ多年學生ヲシテ筆寫セシメタル講義録ニ過キス今其筆寫ノ勞ヲ省キ時間ノ徒費ヲ避ケン爲メ多少ノ訂正ヲ加ヘテ上梓シタルモノナリ」
とある.つまり,農林學校で教えている平面幾何學のテキストが多々羅恕平著「平面幾何学」である訳だから,農林學校の幾何の問題とは相性が良い.

この本の第百廿九款が【幾何】[5] であり,そこでの證明を紹介しておく(\triangle\alpha\beta\gamma\triangle\rm PQRに変更してある).

【幾何】[5]

「既定」\rm AC:CB=\alpha\gamma:\gamma\beta 及ビ \angle\rm C=\angle\gamma

「定説」\triangle\rm ABC\triangle\alpha\beta\gamma

「補成」(\triangle\rm ABCノ)同位置邊 \rm AC 上ニ於テ \alpha\gamma ニ等シク \rm CD ヲ截取シ而シテ \rm AB=DE ヲ引ク

「證」\triangle\rm DEC\rm\triangle ABC ニシテ次ノ比ヲ爲ス
\rm DC:CE=AC:CB
且ツ既定ニ因リ \alpha\gamma:\gamma\beta=AC:CB
乃第三ニ \rm DC:CE=\alpha\gamma:\gamma\beta
爰ニ補成ニ因リ \rm DC=\alpha\gamma ナルガ故ニ其後項モ亦相等シ
\rm CE=\gamma\beta
乃第四十四款(第一均同定則)ニ因リ \triangle DEC\equiv\triangle \alpha\beta\gamma
因テ亦 \triangle \alpha\beta\gamma\equiv\triangle ABC

第一均同定則とは二邊挾角相等の均同(合同)のこと

2022.05.22記
代數學[1]の \left\{ \dfrac{\left(\dfrac{(a-x)(a-b)}{x-a}+c\right)(a-x)}{a(b+c-a)}+\dfrac{a-x}{a}\right\}\times \dfrac{a^2+ax}{2(a^2-x^2)}

\left\{ \dfrac{\left(\dfrac{(a-x)(a-b)}{x-a}+c\right)(a-x)}{a(b+c-a)}+\dfrac{a-x}{a}\right\}\times \dfrac{a^2+ax}{a(a^2-x^2)}
となっている本もある(この場合の答は\dfrac{2}{a} )

幾何学 [2] 「第三均同定則ノ二(二角及ビ其ノ一ツノ角ノ對邊相等)」ではなく、「二邊及ヒ其大ナル邊ニ對する角相等」を解としているものもある.

2022.05.28記
幾何学 [2] 「一邊並其反對角及ヒ其兩傍角ノ一各相等シキトキ」を解としているものもある.