[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1891年(明治24年)帝國大學理科大學簡易科-數學[代數學]

2022.05.22記
九月実施

[1] 3x=a+b+c ナル(x-a)^3+(x-b)^3+(x-c)^3-3(x-a)(x-b)(x-c) ノ値ヲ索ム

[2] \dfrac{x^n\pm a^n}{x\pm a} ノ割リ切レル塲合と割リ切レヌ塲合ヲ吟味スヘシ

[3] a^3(b-c)(c-d)(d-b)-b^3(c-d)(d-a)(a-c)+c^3(d-a)(a-b)(b-d)-d^3(a-b)(b-c)(c-a) ノ因數ヲ索ムベシ

[4] x^4-11x^2+497x^4-40x^3+75x^2-40x+7 トノ最小公倍數ヲ索ムベシ

[5] ax^3+bx+ca'x^3+b'x+c' トガ x+f ナル形チノ通因數ヲ有スル為メニ必要ナル要件ヲ見出スベシ
注) 現在の感覚とは異なり2つの「3次式」(aa'\neq 0 )として答えるのが良いだろう

[6] \dfrac{bx-cy}{b-c}=\dfrac{cx-az}{c-a} ナル ハ此等ノ式ハ各 \dfrac{ay-bx}{a-b} ニ等シク且 a(y-z)+b(z-x)+c(x-y)=0 ナルヿを證セ
注) 出題ミスでc\neq 0 という条件が必要である.

[7] \dfrac{x^2-3x}{x^2-1}+2+\dfrac{1}{x-1}=0 ヲ解キテ以テ整式ナラサル方程式ヲ解ク方法ヲ説明セヨ
注) 整式ナラサル方程式とは,例題から有理式だと考えるのが妥当である.

2022.05.24記
当時の出題は脇が甘い.細かいことよりは大筋が理解できれいれば大丈夫だと思われる.

[解答]
[1] 与式は (x-a)+(x-b)+(x-c)=3x-(a+b+c) を因数にもつので値は 0

[2] a=0 のときは割り切れる

a\neq 0 のとき:
\dfrac{x^n+a^n}{x+a}
f(x)=x^n+a^n に対して f(-a)=((-1)^n+1)a^n に注意すると,
任意の正の奇数 n について割り切れる

\dfrac{x^n+a^n}{x-a}
f(x)=x^n+a^n に対して f(a)=2a^n に注意すると,
任意の自然数 n について割り切れない

\dfrac{x^n-a^n}{x-a}
f(x)=x^n-a^n に対して f(a)=0 に注意すると,
任意の自然数 n について割り切れる

\dfrac{x^n-a^n}{x+a}
f(x)=x^n-a^n に対して f(-a)=((-1)^n-1)a^n に注意すると,
任意の正の偶数 n について割り切れる

[3] どの2文字を等しくしても値が0になるので差積で割り切れ,次数と係数を比較して
-(a-b)(a-c)(a-d)(b-c)(b-d)(c-d)

[4] 7x^4-40x^3+75x^2-40x+7因数分解は難しい.当時の書籍の中には
7x^4-40x^3+75x^2-40x+7
因数分解できないので最小公倍数は2式の積になる、と間違ったものもあった.

しかし, x^4-11x^2+49=(x^2+7)^2-25x^2=(x^2+5x+7)(x^2-5x+7)因数分解できるのだから,このどちらかを因数にもつのでは?と考えるのが自然. もちろん,ユークリッドの互除法を用いて
=\mbox{gcd}\left(7x^4-40x^3+75x^2-40x+7,x^4-11x^2+49\right)
=\mbox{gcd}\left(x^4-11x^2+49,-40x^3+152x^2-40x-336\right)
=\mbox{gcd}\left(x^4-11x^2+49,5x^3-19x^2+5x+42\right)
=\mbox{gcd}\left(5x^3-19x^2+5x+42,\dfrac{61}{25}(x^2-5x+7)\right)=x^2-5x+7
と求めても良い.

[4] (x^2+5x+7)(x^2-5x+7)(7x^2-5x+1)

[5] 問題文は「2つの3次式」と書いていないので、a,a'0 かどうかなどで場合分けをしなければならないが,当時はそこまで深く考えておらず、aa'\neq 0 として問題なかったような気がするので当時の解答としては、

[5] a'(ax^3+bx+c)-a(a'x^3+b'x+c')=(a'b-ab')x+(a'c-ac')x+f の形の共通因数となるには 共通解が x=-\dfrac{ac'-a'c}{ab'-a'b}となれば良いので因数定理から
a\left(\dfrac{ac'-a'c}{ab'-a'b}\right)^3+b\left(\dfrac{ac'-a'c}{ab'-a'b}\right)+c=0
となる.
で十分だったように思われる.でないと他の問題に比べて解答が長くなりすぎる.

[5] aa'\neq 0 のとき,互除法により
a'(ax^3+bx+c)-a(a'x^3+b'x+c')=(a'b-ab')x+(a'c-ac')
x+f の形の共通因数となるには a'b-ab'\neq 0 が必要で,このとき
共通解が x=-\dfrac{ac'-a'c}{ab'-a'b}となるので因数定理から
a(ac'-a'c)^3+b(ab'-a'b)^2(ac'-a'c)-c(ab'-a'b)^3=0…(☆)
となる.

a'b-ab'=0 のとき,2つの3次式は
ax^3+bx+c\dfrac{a'}{a}\left(ax^3+bx+\dfrac{ac'}{a'}\right)
となるので,共通因数をもつには \dfrac{ac'}{a'}=c
つまり ac'-a'c=0 となるので(☆)はこのときも含む
(このとき2つの3次式は互いに定数倍).

よって,aa'\neq 0 のときの必要十分条件は(☆)となるが,(☆)は a=0 とすると 0=0 となるので左辺は a を因数にもつので,展開して a で約すると

a^3(c')^3-c^3(a')^3-a^2c(b')^3+b^3(a')^2c'-3aa'cc'(ac'-a'c)-2aa'bb'(bc'-b'c)+bb'(a^2b'c'-bc(a')^2)…(★)

となる(終結式から条件が6次式となるので、7次式の結果は余計なものがあることがわかる).

a\neq 0,a'=0 のとき ax^3+bx+cb'x+c' が1次式の共通因数をもつには
b'\neq 0 が必要で,このとき
a(c')^3+b(c')(b')^2-c(b')^3=0
となるが,これは式(★)で a'=0 とおいたものを a^2\neq0で割ったものだから(★)はこのときも含む

a'\neq 0,a=0 のとき、対称性から
a'(c)^3+b'(c)(b)^2-c'(b)^3=0
となるが,式(★)で a=0 とおいたものを (a')^2\neq0で割ったものだから(★)はこのときも含む

a=a'=0 のとき bx+cb'x+c' が1次式の共通因数をもつには
bb'\neq 0 かつ bc'-b'c=0 となる

以上から,一方が3次式の場合は
a^3(c')^3-c^3(a')^3-a^2c(b')^3+b^3(a')^2c'-3aa'cc'(ac'-a'c)-2aa'bb'(bc'-b'c)+bb'(a^2b'c'-bc(a')^2)…(★)

両方1次式a=a'=0 のとき bb'\neq 0 かつ bc'-b'c=0

となる.

なお,終結式から
aa'\neq 0 のとき
\mbox{det}\begin{pmatrix} a & 0 & b & c & 0 & 0 \\ 0 & a & 0 & b & c & 0 \\ 0 & 0 & a & 0 & b & c \\ a' & 0 & b' & c' & 0 & 0 \\ 0 & a' & 0 & b' & c' & 0 \\ 0 & 0 & a' & 0 & b' & c \end{pmatrix}=0

a\neq 0, a'=0 のとき
\mbox{det}\begin{pmatrix} a & 0 & b & c \\ b' & c' & 0 & 0 \\ 0 & b' & c' & 0 \\ 0 & 0 & b' & c \end{pmatrix}=0

a=a'=0 のとき
\mbox{det}\begin{pmatrix} b & c \\ b' & c' \end{pmatrix}=0

が求める条件である.
(a=0,a'\neq 0 のときは,対称性から省略)

[6] 問題文から a,b,c は異なる数であることは当然だが,c\neq 0 でなければならない.というのもc=0 とするとz=z のとき z=\dfrac{bx-ay}{b-a} に等しいことを示せという意味不明の問題になるからでである.

なお,a=0 のときは、\dfrac{bz-cy}{b-c}=x のとき x=x を示せと自明になるが,これは間違っていないので大丈夫である.

さて,\vec{e}=(1,1,1)^{\top}\vec{a}=(a,b,c)^{\top}\vec{x}=(x,y,z)^{\top} とおく.
3次元ベクトルから3次元ベクトルへの写像
\vec{X}\mapsto \vec{a}\times\vec{X}
は3次元空間を原点を通る2次元平面にうつす.

\vec{a}\times\vec{e}=(b-c,c-a,a-b)^{\top}\vec{a}\times\vec{x}=(bz-cy,cx-az,ay-bx)^{\top}

であるから,\dfrac{bz-cy}{b-c}=\dfrac{cx-az}{c-a}=k とおくと
\vec{a}\times(\vec{x}-k\vec{e})=(0,0,\ast)^{\top}
の形をしている.

原点を通る平面上の点で(0,0,\ast)^{\top} となるのは,その平面が z 軸を含まない限り \ast=0 の場合に限るが,c=0 のときに限り,その平面が z 軸を含んでしまうので \ast=0 が成立しなくなるという訳である.

[6] \dfrac{bz-cy}{b-c}=\dfrac{cx-az}{c-a} により
\dfrac{a(bz-cy)}{a(b-c)}=\dfrac{b(cx-az)}{b(c-a)}
が成立するので,加比の理から,この比は c\neq 0 のとき
\dfrac{a(bz-cy)+b(cx-az)}{a(b-c)+b(c-a)}=\dfrac{bcx-acy}{bc-ca}=\dfrac{bx-ay}{b-a}
に等しい.

また,\dfrac{bz-cy}{b-c}=\dfrac{cx-az}{c-a} により
(c-a)(bz-cy)-(b-c)(cx-az)=c(bz-(c-a)y-(b-c)x-az)
=c\{b(z-x)+c(x-y)+a(y-z)\}=0
となるが,c\neq 0 により
b(z-x)+c(x-y)+a(y-z)=0
が成立する.

[7] 両辺に x^2-1 を掛けると
x^2-3x+2(x^2-1)+(x+1)=3x^2-2x-1=(3x+1)(x-1)=0
となり,x=-\dfrac{1}{3},1 となる.

一般に,有理式を通分すると分子は整式となるので,整式が0に等しいという方程式に帰着することができる.