[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1923年(大正12年)東京帝國大學理學部物理科-數學[4]

[4] 二ツノ相離レタル球ノ中心\mbox{A}\mbox{B} ノ距離ヲc ,其ノ半径ヲ夫々 ab トシ,中心線\mbox{AB} 上二球ノ間ニ一點\mbox{P} ヲ取リ\mbox{P} ニ於ケル光源ニヨツテ照ラサルル二球ノ表面ノ面積ノ和ヲ最大ナラシメントス\mbox{P} ノ位置ヲ索メヨ.

本問のテーマ
球帽(球冠)や球帯の面積

球帽(球冠)や球帯の面積は,その厚さに比例する.つまり半径 r の球を厚さ x でスライスした部分の,もともと表面だった部分の面積は 4\pi r^2\times\dfrac{x}{2r}=2\pi rx となる.

2022.08.15記

[解答]
c\gt a+b である.a\geqq b として一般性を失わない.

{\rm A}(0,0,0){\rm B}(c,0,0) とし,{\rm P}(x,0,0)a\leqq x\leqq c-b
とおくと,照らされる面積の和は
2\pi a^2\cdot\dfrac{x-a}{x}+2\pi b^2\cdot\dfrac{(c-x)-b}{c-x}
だから,
f(x)=a^2\cdot\dfrac{x-a}{x}+2\pi b^2\cdot\dfrac{(c-x)-b}{c-x}
=a^2-\dfrac{a^3}{x}+b^2-\dfrac{b^3}{c-x}
とおくと,
f'(x)=\dfrac{a^3}{x^2}-\dfrac{b^3}{(c-x)^2}
=\dfrac{a^3(c-x)^2-b^3x^2}{x^2(c-x)^2}
=\dfrac{(a^{3/2}(c-x)+b^{3/2}x)(a^{3/2}(c-x)-b^{3/2}x)}{x^2(c-x)^2}
であるから,a\lt x\lt c-bでは
f'(x)=0 なる x が存在するならば,
g(x):=a^{3/2}(c-x)-b^{3/2}x=a^{3/2}c-(a^{3/2}+b^{3/2})x
(傾きが負の1次関数)とおくと g(x)=0 をみたす.

g(a)=a^{3/2}c-\{ a^{3/2}+b^{3/2}\} a\gt a^{3/2}(a+b)-\{ a^{3/2}+b^{3/2}\} a
=a^{3/2}b-b^{3/2}a
=ab(\sqrt{a}-\sqrt{b})\geqq 0(∵a\geqq b
であるから,xa から少し大きい付近では f(x) は単調増加である.

ここで,g(x)=0 となる x
x=\dfrac{a^{3/2}c}{a^{3/2}+b^{3/2}}
であり,これは g(a)\gt 0 から a\lt x をみたす.

\dfrac{a^{3/2}c}{a^{3/2}+b^{3/2}}\lt c-b を解くと \dfrac{a^{3/2}+b^{3/2}}{\sqrt{b}} \lt c となるので,

(i) \dfrac{a^{3/2}+b^{3/2}}{\sqrt{b}} \lt c のとき:
f(x)x=\dfrac{a^{3/2}c}{a^{3/2}+b^{3/2}} の前後で符号を正から負に変え,
よって極大かつ最大となる.

(i) \dfrac{a^{3/2}+b^{3/2}}{\sqrt{b}} \geqq c のとき:
f(x)a\leqq x\leqq c-b で単調増加となり,
x=c-b で最大となる.

■ この結果を検討する際,x=\dfrac{a^{3/2}c}{a^{3/2}+b^{3/2}} の次元が長さの次元となっており,全体のスケールを定数倍(a\mapsto kab\mapsto kbc\mapsto kc)すると結果も同じ定数倍(x\mapsto kx)されることが確認できる.

\dfrac{a^{3/2}c}{a^{3/2}+b^{3/2}}\lt a を解くと c\lt \dfrac{a^{3/2}+b^{3/2}}{\sqrt{a}} となる.

ab の大小関係を定めない場合の結論は


(1) \max\left\{\dfrac{a^{3/2}+b^{3/2}}{\sqrt{a}},\dfrac{a^{3/2}+b^{3/2}}{\sqrt{b}}\right\} \lt c のとき:
\rm ABa^{3/2}:b^{3/2} で内分するときに極大かつ最大

(2) それ以外のとき:
a\gt b ならば \rm B で最大,
a\lt b ならば \rm A で最大

となる.ちなみに a=b のとき
\max\left\{\dfrac{a^{3/2}+b^{3/2}}{\sqrt{a}},\dfrac{a^{3/2}+b^{3/2}}{\sqrt{b}}\right\}=2a=a+b \lt c
をみたすので,a=b のときは必ず(1)となり,\rm AB の中点で極大かつ最大となる.

■ 球がある程度離れていれば,その距離によらず同じ内分比となるところが面白い.