[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1976年(昭和51年)東京大学-数学(理科)[6]新課程

2023.08.12記

[6](新課程)\begin{pmatrix}0 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}=O\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}=Iとかく.
実数 ab に対し A=\begin{pmatrix}0 & a \\ 1 & b \end{pmatrix} とおく.
いま xI+yAxy は実数)の形に表わされる行列全体からなる集合を R とし,R から O を除いた集合を G とする.

(i) R に属する任意の2つの行列の積は R に属することを示せ.

(ii) G に属する任意の行列が逆行列をもつとき,点 (a,b) はどのような範囲にあるか.これを図示せよ.

2023.08.16記

[大人の解答]
(i) ケーリー・ハミルトンの定理によりA^2=bA+aIであるから,
x_1I+y_1A\in Rx_2I+y_2A\in Rに対して
(x_1I+y_1A)(x_2I+y_2A)=(x_1x_2+y_1y_2 a)I+(x_1y_2+x_2y_1+y_1y_2b)A\in R
となる.

(ii) A固有値\lambda_1,\lambda_2 とおくと xI+yA固有値x+y\lambda_1,x+y\lambda_2 である.

逆行列をもつことと固有値0を持たないことは同値であるから,任意の (x,y)\neq (0,0) に対して xI+yA固有値が0 とならなければ良く,その必要十分条件A の全ての固有値虚数であることである.

よって固有方程式 \lambda^2-b\lambda-a=0 の判別式が負であれば良く,求める条件は b^2+4a\lt 0 となる.


例えば \lambda_1が実数なら -\lambda_1 I+A固有値0をもち逆行列をもたないし,虚数なら任意の (x,y)\neq (0,0) に対して x+y\lambda_1虚数となり0にはならないということである.

[解答]
(i) ケーリー・ハミルトンの定理によりA^2=bA+aIであるから,
x_1I+y_1A\in Rx_2I+y_2A\in Rに対して
(x_1I+y_1A)(x_2I+y_2A)=(x_1x_2+y_1y_2 a)I+(x_1y_2+x_2y_1+y_1y_2b)A\in R
となる.

(ii) \mbox{det}(xI+yA)=x^2+bxy-ay^2 が任意の (x,y)\neq(0,0) に対して0でなければ良い.
x=r\cos\thetay=r\cos\theta とおくことにより
\cos^2\theta+b\cos\theta\sin\theta-a\sin^2\theta
=\dfrac{1}{2}\left\{ 1-a+(1+a)\cos2\theta+b\sin2\theta\right\}
が任意の \theta に対して0でなければ良く,その条件は
(1+a)^2+b^2\lt (1-a)^2 つまり 4a+b^2\lt 0 である.


(x,y)\neq(0,0) に対して px^2+qxy+ry^2p,q,rは定数)について考える問題はそれなりに登場するが,この問題と出会うのが数と式であることから,なかなか三角関数を利用することに思い至らないようで,当時の大数も河合塾の72年も数と式の範囲で解いており,少し面倒になっている.

なお,少し詳しく解説すると,
1-a+(1+a)\cos2\theta+b\sin2\theta=0
は合成公式から
\sin(2\theta+\alpha)=-\dfrac{1-a}{\sqrt{(1+a)^2+b^2}}
の形に変形できるため,\left| -\dfrac{1-a}{\sqrt{(1+a)^2+b^2}}\right| \leqq 1
ならば解をもつことから,解をもたない条件として
\left| -\dfrac{1-a}{\sqrt{(1+a)^2+b^2}}\right| \gt 1
つまり
(1+a)^2+b^2\lt (1-a)^2
が得られるという訳である.

例えば任意の (x,y)\neq(0,0) に対して px^2+qxy+ry^2\gt 0p,q,rは定数)となる条件を求めてみると
 (p-r)\cos2\theta+q\sin2\theta \gt -(p+r)
が任意の \theta に対して成立すれば良いので
-\sqrt{(p-r)^2+q^2}\gt -(p+r)
つまり
\sqrt{(p-r)^2+q^2}\lt p+r
となる.この条件は 「q^2-4pr\lt 0かつp+r\gt 0」と変形できるが実は
q^2-4pr\lt 0かつp,r\gt 0」とも変形できる.

この二次形式が正値となることは,線形代数の二次形式でも学び,多変数関数の極値問題にも応用される.