[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1991年(平成3年)東京大学前期-数学(理科)[6]

2024.01.04記

[6] f(x)x\gt 0 で定義された連続な関数で,0\lt x_1\lt x_2 ならば,つねに f(x_1)\gt f(x_2)\gt 0 であるものとし,S(x)=\displaystyle\int_{x}^{2x} f(t)\,dtとおく.このとき,S(1)=1 であり,さらに任意の a\gt 0 に対して,原点と点 (a,f(a)),原点と点 (2a,f(2a)) を結ぶ 2 直線と曲線 y=f(x) とで囲まれる部分の面積は 3S(a) に等しいものとする.

(1) S(x)f(x)-2f(2x) をそれぞれ x の関数として表せ.

(2) x\gt 0 に対して,a(x)=\displaystyle\lim_{n\to\infty}2^nf(2^nx) とおく.
積分 \displaystyle\int_{x}^{2x} a(t)\,dt の値を求めよ.

(3) 関数 f(x) を決定せよ.

2024.01.06記

[解答]
f(x) の原始関数の1つを F(x) とおくと S(x)=F(2x)-F(x) であるから,
S'(x)=2f(2x)-f(x)
である.

任意の a\gt 0 に対して
\dfrac{af(a)}{2}+S(a)-af(2a)=3S(a)
つまり 4S(a)=af(a)-2af(2a)=-aS'(a) が成立する.よって任意の x\gt 0 に対して
\dfrac{S'(x)}{S(x)}=-\dfrac{4}{x}
が成立するので,両辺を積分することにより
\log S(x) = -4\log x+CC積分定数
(∵x\gt 0,S(x)\gt 0)となり S(1)=1 から
S(x)=\dfrac{1}{x^4}
となる.また f(x)-2f(2x)=-S'(x)=\dfrac{4}{x^5} である.

(2) f(x)-2f(2x)=\dfrac{4}{x^5} により
f(2^{n-1}x)-2f(2^n x)=\dfrac{4}{2^{5n-5}x^5} であるから,
2^{n-1}f(2^{n-1}x)-2^{n}f(2^n x)=\dfrac{4}{2^{4n-4}x^5} であるから,
この式で k=1,2,\ldots,n としたものを加えると
f(x)-2^nf(2^n x)=\dfrac{4}{x^5}(1+2^{-4}+\cdots+2^{-4n+4})=\dfrac{4}{x^5}\cdot\dfrac{1-2^{-4n}}{1-2^{-4}}=\dfrac{64(1-2^{-4n})}{15x^5}
となる.よって n\to\infty
f(x)-a(x)=\dfrac{64}{15x^5}
が成立する.

よって
\displaystyle\int_{x}^{2x} a(t)\,dt=\displaystyle\int_{x}^{2x} f(t)\,dt-\displaystyle\int_{x}^{2x} \dfrac{64}{15t^5}\,dt=S(x)-\dfrac{1}{x^4}=0
となる.

(3) 任意の x\gt 0 について f(x)\gt 0 であるから,2^nf(2^n x)\gt 0 が成立するので a(x)\geqq 0 が成立するが,(2) より任意の x\gt 0 について x\leqq t\leqq 2xa(t) は恒等的に0となる.すなわち,a(x)x\gt 0 で恒等的に 0 である.

よって f(x)-a(x)=\dfrac{64}{15x^5} から
f(x)=\dfrac{64}{15x^5}
となる.

[別解]
(この[別解]よりも,次の[別解2]の方が良い)

(2)(3) g(x)-2g(2x)=\dfrac{4}{x^5} をみたす関数として
g(x)=\dfrac{K}{x^5}の形の中で探すと
g(x)-2g(2x)=\dfrac{15K}{16x^5}=\dfrac{4}{x^5}
から K=\dfrac{64}{15} となり,g(x)=\dfrac{64}{15x^5} となる.

このとき,任意の x\gt 0 について
f(x)-2f(2x)=\dfrac{4}{x^5}g(x)-2g(2x)=\dfrac{4}{x^5}
であるから,h(x)=f(x)-g(x)とおくと h(x)=2h(2x) が任意の x\gt 0 について成立する.

ここでH(x)=xh(x) とおくと
H(x)=H(2x)
が任意の x\gt 0 について成立する.
つまり任意の x\gt 0 について,任意の自然数 n に対して
H(x)=H(2^{-1}x)=H(2^{-2}x)=\cdots=H(2^{-n}x)
が成立し,f(x) が連続なので g(x) が連続であるならば
n\to\infty とおくことにより t=2^{-n}x\to +0 であるから
H(x)=\displaystyle\lim_{t\to +0} H(t)
が成立する.ここで H(x)x\gt 0 で定義されて値が有限確定であるから,
\displaystyle\lim_{t\to +0} H(t)
も有限確定であり,この値は x によらないので H(x) は定数関数となる.この値を C とおくと
h(x)=\dfrac{C}{x}
となり,
f(x)=g(x)+\dfrac{C}{x}=\dfrac{64}{15x^5}+\dfrac{C}{x}
と表されることになる.

ここで
S(1)=\displaystyle\int_1^2 f(t)dt=\dfrac{16}{15}\left[\dfrac{1}{t^4}+C\log x\right]_1^2=1+C\log 2=1
により C=0 であるから,f(x)=\dfrac{64}{15x^5} となる.

このとき,a(x)=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{64\cdot 2^n}{15\cdot 2^{5n} x^5}=0 だから
\displaystyle\int_{x}^{2x} a(t)\,dt\displaystyle\int_{x}^{2x} 0\,dt=0
となる.

この解答で\dfrac{C}{x} というオマケが登場したのは,純粋に
f(x)-2f(2x)=\dfrac{4}{x^5}
という条件のみを連続関数を探そうと思ったからである.つまり
f(x)-2f(2x)=0
の一般解 \dfrac{C}{x} と特殊解 \dfrac{64}{15x^5} の和で解が表せるという性質を使ったのである.

[別解2]
(2) S(x)=F(2x)-F(x)=\dfrac{1}{x^4} である.
G(2x)-G(x)=\dfrac{1}{x^4}
をみたす関数の1つとして
G(x)=\dfrac{K}{x^4}の形の中で探すと
G(2x)-G(x)=-\dfrac{15K}{16x^4}=\dfrac{1}{x^4}
から K=-\dfrac{16}{15} となり,G(x)=-\dfrac{16}{15x^4} となる.

このとき,L(x)=F(x)-G(x)とおくと L(2x)=L(x) が任意の x\gt 0 について成立する.
[別解]の議論を用いると
L(x) は定数関数となり,この値をL とおくと
F(x)=-\dfrac{16}{15x^4}+L
となる.これを微分して
f(x)=\dfrac{64}{15x^5}
となる.

(以下略)

[別解2] では f(x)=\dfrac{64}{15x^5} が直接求まっているが,[別解] では f(x)=\dfrac{64}{15x^5}+\dfrac{C}{x}S(1)=1 から C の値を求めている.この違いはどこにあるだろうか?

実は,f(x)-2f(2x)=\dfrac{4}{x^5} という式を求めるために既に S(1)=F(2)-F(1)=1 を用いているが,この F(x) に関する条件が f(x) にどのように伝播されるか不明であるため,[別解]ではその条件を活かすことができず,よって一般解を求め,改めて F(x) に関する条件として C の値を決めているのである.それと比べて,F(x)-F(2x)=-\dfrac{1}{x^4} という式には既に S(1)=F(2)-F(1)=1 が含まれているため,[別解2]では改めて S(1)=F(2)-F(1)=1 という条件を用いる必要がなく,よって F(x) がきちんと求まっているのである.