[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1993年(平成5年)東京大学前期-数学(理科)[4]

2024.01.07記

[4] n2 以上の自然数とし f(x)=x^n+px+qpqは実数)の形の n 次関数について積分 I=\dfrac{1}{2}\displaystyle\int_{-1}^{1} f(x)^2\,dx を考える.I を最小にするような (p,q) が唯一組存在することを示し,そのような (p,q)I の最小値を求めよ.

本問のテーマ
Legendre 多項式
回帰直線

2024.01.09記
何も考えずに解くのが一番早いだろう.[解答]のあとに Legendre 多項式や連続2次元データの回帰直線を利用して答を出す方法について述べる.

[解答]
I=p\displaystyle\int_{-1}^{1} x^{n+1}\, dx+q\displaystyle\int_{-1}^{1} x^{n}\, dx+\dfrac{p^2}{3}+q^2+\dfrac{1}{2n+1}
である.

(i) n が奇数のとき
I=\dfrac{2p}{n+2}+\dfrac{p^2}{3}+q^2+\dfrac{1}{2n+1}
=\dfrac{1}{3}\left(p+\dfrac{3}{n+2}\right)^2+q^2+\dfrac{(n-1)^2}{(2n+1)(n+2)^2}
p=\dfrac{-3}{n+2}q=0 のとき最小値 \dfrac{(n-1)^2}{(2n+1)(n+2)^2} をとる.

(ii) n が奇数のとき
I=\dfrac{2q}{n+2}+\dfrac{p^2}{3}+q^2+\dfrac{1}{2n+1}
=\dfrac{p^2}{3}+\left(q+\dfrac{1}{n+1}\right)^2+\dfrac{n^2}{(2n+1)(n+1)^2}
p=0q=-\dfrac{1}{n+1} のとき最小値 \dfrac{n^2}{(2n+1)(n+1)^2} をとる.

本問の類題が
1971年(昭和46年)東京大学-数学(理科)[3] - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
にあるが,本問はこれに加えて積分の最小値も求める必要がある.

連続2次元データの回帰直線については
連続2次元データの回帰直線 - 球面倶楽部 零八式 mark II
参照のこと.この結果を見ると,I=\dfrac{1}{2}\displaystyle\int_{-1}^{1} f(x)^2\,dx\Delta=2) の最小値は \dfrac{V[X]V[Y]-\mbox{Cov}[X,Y]^2}{V[X]} となることがわかる.

なお,回帰直線の式において,
p=\dfrac{\mbox{Cov}[X,Y]}{V[X]}q=E[Y]-pE[X]
という条件は,Legendre 多項式において g(x)\approx px+q=pP_1(x)+qP_0(x) としたときに
\displaystyle\int_{-1}^{1} g(x)P_1(x)\,dx=\dfrac{2}{3}p\displaystyle\int_{-1}^{1} g(x)P_0(x)\,dx=2q
が成り立つことと対応している.というのも,積分区間[-1,1] なので
E[X]=\dfrac{1}{1-(-1)}\displaystyle\int_{-1}^1 x dx=0
E[X^2]=\dfrac{1}{1-(-1)}\displaystyle\int_{-1}^1 x^2 dx=\dfrac{1}{3}
V[X]=E[X^2]-(E[X])^2=\dfrac{1}{3}
が成立するので
p=\dfrac{\mbox{Cov}[X,Y]}{V[X]}=3\mbox{Cov}[X,Y]=3\cdot\dfrac{1}{1-(-1)}\displaystyle\int_{-1}^{1} g(x)P_1(x)\,dx
q=E[Y]-pE[X]=E[Y]-p\cdot 0=E[Y]=\dfrac{1}{1-(-1)}\displaystyle\int_{-1}^{1} g(x)P_0(x)\,dx
となり,確かに一致している.

このように 積分区間[-1,1] の場合は Legendre 多項式で考えれば良いが,そうでない場合は回帰直線の方が良いだろう.
実際,積分の最小値は回帰直線の場合は公式として登場している.

なお,本問では「I を最小にするような (p,q) が唯一組存在することを示し」とあるので,Legendre 多項式や回帰直線による解答は本当は解答ではないことに注意しておく.

[大人の 解答 ]
(Legendre 多項式を利用した答)

g(x)=-x^n を Legendre 多項式で展開したときの P_1(x)=x の係数が pP_0(x)=1 の係数が q である.

(i) n が奇数のとき
\displaystyle\int_{-1}^{1} x^{n+1}\,dx=\dfrac{2}{3}p\displaystyle\int_{-1}^{1} x^n\,dx=2q
より p=-\dfrac{3}{n+2}q=0 である.

(ii) n が偶数のとき
\displaystyle\int_{-1}^{1} x^{n+1}\,dx=\dfrac{2}{3}p\displaystyle\int_{-1}^{1} x^n\,dx=2q
より p=0q=-\dfrac{1}{n+1} である.

積分はこの結果を使って真面目にやる(省略)

[大人の 解答 ]
(連続2次元データの回帰直線を利用した答)

連続2次元データ (x,y)y=f(x)=-x^n)に対して,YX への回帰直線が y=px+q である.

よって
p=\dfrac{\mbox{Cov}[X,Y]}{V[X]}q=E[Y]-pE[X]I=\dfrac{V[X]V[Y]-(\mbox{Cov}[X,Y])^2}{V[X]}
が成立する.
E[X]=\dfrac{1}{1-(-1)}\displaystyle\int_{-1}^1 x dx=0
E[X^2]=\dfrac{1}{1-(-1)}\displaystyle\int_{-1}^1 x^2 dx=\dfrac{1}{3}
V[X]=E[X^2]-(E[X])^2=\dfrac{1}{3}
である.

(i) n が奇数のとき
E[Y]=\dfrac{1}{1-(-1)}\displaystyle\int_{-1}^1 (-x^{n}) dx=0
E[XY]=\dfrac{1}{1-(-1)}\displaystyle\int_{-1}^1 (-x^{n+1}) dx=\dfrac{-1}{n+2}
E[Y^2]=\dfrac{1}{1-(-1)}\displaystyle\int_{-1}^1 x^{2n} dx=\dfrac{1}{2n+1}
V[Y]=E[Y^2]-(E[Y])^2=\dfrac{1}{2n+1}
\mbox{Cov}[X,Y]=E[XY]-E[X]E[Y]=\dfrac{-1}{n+2}
であるから,
p=\dfrac{\mbox{Cov}[X,Y]}{V[Y]}=\dfrac{-3}{n+2}q=E[Y]=0
となり,
I=\dfrac{V[X]V[Y]-(\mbox{Cov}[X,Y])^2}{V[X]}=\dfrac{\dfrac{1}{3}\cdot\dfrac{1}{2n+1}-\dfrac{1}{(n+2)^2}}{\dfrac{1}{3}}=\dfrac{1}{2n+1}-\dfrac{3}{(n+2)^2}=\dfrac{(n-1)^2}{(2n+1)(n+2)^2}
となる

(ii) n が偶数のとき
E[Y]=\dfrac{1}{1-(-1)}\displaystyle\int_{-1}^1 (-x^{n}) dx=\dfrac{-1}{n+1}
E[XY]=\dfrac{1}{1-(-1)}\displaystyle\int_{-1}^1 (-x^{n+1}) dx=0
E[Y^2]=\dfrac{1}{1-(-1)}\displaystyle\int_{-1}^1 x^{2n} dx=\dfrac{1}{2n+1}
V[Y]=E[Y^2]-(E[Y])^2=\dfrac{1}{2n+1}-\dfrac{1}{(n+1)^2}=\dfrac{n^2}{(2n+1)(n+1)^2}
\mbox{Cov}[X,Y]=E[XY]-E[X]E[Y]=0
であるから,
p=\dfrac{\mbox{Cov}[X,Y]}{V[X]}=0q=E[Y]=\dfrac{-1}{n+1}
となり,
I=\dfrac{V[X]V[Y]-(\mbox{Cov}[X,Y])^2}{V[X]}=V[Y]=\dfrac{n^2}{(2n+1)(n+1)^2}
となる.