[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2001年(平成13年)東京大学前期-数学(理科)[3]

2024.02.12記

[3] 実数 t\gt 1 に対し,xy 平面上の点 \mbox{O}(0,0)\mbox{P}(1,1)\mbox{Q}\left(t,\dfrac{1}{t}\right) を頂点とする三角形の面積を a(t) とし,線分 \mbox{OP}\mbox{OQ} と双曲線 xy=1 とで囲まれた部分の面積を b(t) とする.このとき c(t)=\dfrac{b(t)}{a(t)} とおくと,関数 c(t)t\gt 1 においてつねに減少することを示せ.

2024.02.12記
まずは普通に解く.

[解答]
a(t)=\dfrac{1}{2}\Bigl|t-\dfrac{1}{t}\Bigr|=\dfrac{1}{2}\Bigl(t-\dfrac{1}{t}\Bigr)
(∵t\gt 1)である.また \rm P,Q から x 軸へ下した垂線の足を \rm R,S とおくと \rm OR\times RP=OS\times SQ により \rm \triangle OPR=\triangle ORS であるから
b(t)=\triangle{\rm OPR}+\displaystyle\int_1^t \dfrac{dx}{x} -\triangle{\rm ORS}=\log t
が成立する.よって
c(t)=\dfrac{2t\log t}{t^2-1}
となる.
c'(t)=2\cdot\dfrac{t^2-1-(t^2+1)\log t}{(t^2-1)^2}
=\dfrac{2(t^2+1)}{(t^2-1)^2}\cdot
\left\{1-\dfrac{2}{t^2+1}-\log t\right\}
であり,
d(t)=1-\dfrac{2}{t^2+1}-\log t
とおくと
d'(t)=\dfrac{4t}{(t^2+1)^2}-\dfrac{1}{t}=-\dfrac{(t^2-1)^2}{t(t^2+1)^2}\lt 0
であり,d(1)=0 から t\gt 1d(t)\lt 0 が成立する.

よって, t\gt 1c'(t)\lt 0 となり,c(t)t\gt 1 においてつねに減少する.

c'(t)\log t が単独になるように括ることによって,その微分が有理関数になることに着目して d(t) の形を作った.\log t=s と置換しても良いだろう.その際,凸関数の性質を使うと速い.

凸関数と平均変化率

f(x)区間 I=[a,b] で下に(狭義に)凸のとき,c\in I に対して
g(x)=\dfrac{f(x)-f(c)}{x-c}(平均変化率)
を考えると,g(x)I で単調増加である.

まず,f(x)微分可能な場合,f(x)\geqq f'(c)(x-c)(等号は x=c のみ) により
g'(x)=\dfrac{f'(x)(x-c)-f(x)}{(x-c)^2}\geqq 0(等号は x=c のみ)となり,g(x)I で単調増加となる.

微分せずに示すと次のようになる.

f(x) は下に凸だから,x_1,x_3\in Ix_1\lt x_3),0\lt \lambda\lt 1 に対し
f( (1-\lambda)x_1+\lambda x_3)\lt (1-\lambda)f(x_1)+\lambda f(x_3)
が成立する.ここで
x_2=(1-\lambda)x_1+\lambda x_3
つまり
\lambda=\dfrac{x_2-x_1}{x_3-x_1}
とすると,x_1\lt x_2\lt x_3 であり,
f(x_2)\lt \dfrac{x_3-x_2}{x_3-x_1}f(x_1)+\dfrac{x_2-x_1}{x_3-x_1} f(x_3)
つまり
(x_3-x_1)f(x_2)\lt (x_3-x_2)f(x_1)+(x_2-x_1)f(x_3)
が成立する.これを変形すると
\dfrac{f(x_2)-f(x_1)}{x_2-x_1}\lt \dfrac{f(x_3)-f(x_1)}{x_3-x_1}
及び
\dfrac{f(x_3)-f(x_1)}{x_3-x_1}\lt \dfrac{f(x_3)-f(x_2)}{x_3-x_2}
が得られ,x_1,x_2,x_3\in Ix_1\lt x_2\lt x_3)ならば
\dfrac{f(x_2)-f(x_1)}{x_2-x_1}\lt \dfrac{f(x_3)-f(x_1)}{x_3-x_1}\lt \dfrac{f(x_3)-f(x_2)}{x_3-x_2}
が成立する.

ここで x_1=c とおくと c\lt x_2\lt x_3)ならば
\dfrac{f(x_2)-f(c)}{x_2-c}\lt \dfrac{f(x_3)-f(c)}{x_3-c}
となり, x_2=c とおくと x_1\lt c\lt x_3)ならば
\dfrac{f(x_1)-f(c)}{x_1-c}\lt \dfrac{f(x_3)-f(c)}{x_3-c}
となり, x_3=c とおくと x_1\lt x_2\lt c)ならば
\dfrac{f(x_1)-f(c)}{x_1-c}\lt \dfrac{f(x_2)-f(c)}{x_2-c}
が導かれるので,c との大小関係によらず x\lt y ならば
\dfrac{f(x)-f(c)}{x-c}\lt \dfrac{f(y)-f(c)}{y-c}
が導かれた.

[うまい解答]
(途中から)
t=e^s とおくと s\gt 0 であり,
a(t)=\dfrac{1}{2}\Bigl(t-\dfrac{1}{t}\Bigr)=\dfrac{e^s-e^{-s}}{2}=:A(s)
b(t)=\log t=s
が成立する.よって
\dfrac{1}{c(t)}=\dfrac{A(s)}{s}
が成立するが,A(s)
A''(s)=A(s)\gt 0s\gt 0
より s\gt 0 で下に凸であるから,(0,0)(s,A(s)) の平均変化率 \dfrac{A(s)}{s} は単調に増加する.

s が増加すると t も増加するので
\dfrac{1}{c(t)}=\dfrac{A(s)}{s}
t\gt 1 で単調増加となり,よって c(t)t\gt 1 で単調減少となる.

A(s)=\sinh s です.

薄まっていく食塩水

加えていく食塩水の濃度をどんどん薄くすると,全体の食塩水の濃度もどんどん薄くなっていくことがわかるだろう.これを式で書くと

\{a_n\},\{b_n\} が正の値をとる数列で,\dfrac{b_n}{a_n} が単調減少のとき,\dfrac{\displaystyle\sum_{k=1}^n b_k}{\displaystyle\sum_{k=1}^n a_k} も単調減少であることを示せ
となる.これは \dfrac{b_1}{a_1}\gt \dfrac{b_2}{a_2} ならば \dfrac{b_1}{a_1}\gt \dfrac{b_1+b_2}{a_1+a_2}\gt\dfrac{b_2}{a_2} を繰り返し使えばわかり,この結果の類題として
a_k,b_kk=1,\ldots,n)が正のとき,\dfrac{b_k}{a_k}k=1,\ldots,n)の最小値を m,最大値をM とするとき m\lt \dfrac{\displaystyle\sum_{k=1}^n b_k}{\displaystyle\sum_{k=1}^n a_k}\lt M を示せ(様々な濃度の食塩水を混ぜたときの濃度は一番薄い濃度と一番濃い濃度の間にある)
という問題を解いたことがある人も多いだろう.この離散不等式を連続にすると
f(x),g(x)x\geqq \alpha で連続、正の値をとる関数であり, r(x)=\dfrac{f(x)}{g(x)} が単調減少(増加)とすると、
 T(x)=\dfrac{\displaystyle\int_{α}^{x} f(x) dx}{\displaystyle\int_{α}^{x} g(x) dx} x\gt \alpha で単調減少(増加)となる.
となる.

\displaystyle F(x)=\int_{\alpha}^{x} f(t) dt\displaystyle G(x)=\int_{\alpha}^{x} g(t) dt とすると,f(x),g(x) は正であるから F(x),G(x) は単調増加であり,F(\alpha)=G(\alpha)=0 であるから,
x\gt \alphaF(x)\gt0G(x)\gt 0 となる.

(i)  r(x) が単調減少の場合

x\gt \alpha
 \displaystyle F(x)=\int_{\alpha}^x f(t)dt \displaystyle =\int_{\alpha}^x r(t) g(t)dt \displaystyle \gt r(x) \int_{\alpha}^x g(t)dt =r(x)G(x)=\dfrac{f(x)}{g(x)}G(x)
だから,f(x)G(x)-F(x)g(x)\lt 0 が成立し,よって
T'(x)=\dfrac{f(x)G(x)-F(x)g(x)}{G(x)^2}\lt 0
となり,T(x) は単調減少となる.

(ii)  r(x) が単調増加の場合

x\gt \alpha
 \displaystyle F(x)=\int_{\alpha}^x f(t)dt \displaystyle =\int_{\alpha}^x r(t) g(t)dt \displaystyle \lt r(x) \int_{\alpha}^x g(t)dt =r(x)G(x)=\dfrac{f(x)}{g(x)}G(x)
だから,f(x)G(x)-F(x)g(x)\gt 0 が成立し,よって
T'(x)=\dfrac{f(x)G(x)-F(x)g(x)}{G(x)^2}\gt 0
となり,T(x) は単調増加となる.

[うまい解答]
(途中から)
a(t)=\dfrac{1}{2}\Bigl(t-\dfrac{1}{t}\Bigr)
b(t)=\log t
が成立する.a'(t)=\dfrac{1}{2}\Bigl(1+\dfrac{1}{t^2}\Bigr)b'(t)=\dfrac{1}{t}t\gt 1 で正であり,a(1)=b(1)=0 だから, t\gt 1a(t)b(t) は正となる.

ここで \dfrac{a'(t)}{b'(t)}=\dfrac{1}{2}\left(t+\dfrac{1}{t}\right) はその微分 \dfrac{1}{2}\left(1-\dfrac{1}{t^2}\right)t\gt 1 で正であることから t\gt 1 で単調増加となるので,
\dfrac{\displaystyle\int_1^t a'(x)dx}{\displaystyle\int_1^t b'(x)dx}=\dfrac{a(t)}{b(t)}=\dfrac{1}{c(t)}
t\gt 1 で単調増加となる.

よって c(t)t\gt 1 で単調減少となる.

割算は傾きで考える

\vec{x}(t)=\begin{pmatrix} a(t) \\ b(t) \end{pmatrix}a(t)\neq 0) とおくと,

c(t)=\dfrac{b(t)}{a(t)} が減少
\Longleftrightarrow\vec{x}(t)が原点から見て右に動く
\Longleftrightarrow{\rm det}(\vec{x}(t),\, \vec{x}'(t))\lt 0

となる.実際,行列式を計算すると
 a(t)b'(t)-a'(t)b(t)\lt 0\Longleftrightarrow c'(t)\lt 0
となり,確かに正しい.

このようにパラメータ表示された曲線の傾きの変化は位置ベクトルと速度ベクトルからなる行列の行列式の符号で考えることができる.

しかしこのままだと,普通に商の微分を使ったのと同じになるので少し工夫する.

凸関数と平均変化率のところで述べた話は
「上に凸ならば割線の傾きが減少する」
と言いかえることができる.

つまり,a(1)=b(1)=0 に着目して
\vec{X}(t)=\begin{pmatrix} a(t)-a(1) \\ b(t)-b(1) \end{pmatrix}a(t)-a(1)\neq 0) とおくと,

a(t) が単調増加かつ \vec{x}’(t) が時計回りに動くならば \vec{x}(t)y=f(x) の形に表したときに上に凸となることから割線に傾きが減少する

ことがわかる.そして \vec{x}’(t) が時計回りに動く条件は
{\rm det}(\vec{x}’(t),\, \vec{x}’'(t))\lt 0
であるから,
t\gt 1a'(t)\gt 0 かつ {\rm det}(\vec{x}’(t),\, \vec{x}’'(t))\lt 0
ならば割線の傾き
\dfrac{b(t)-b(1)}{a(t)-a(1)}=\dfrac{b(t)}{a(t)}=c(t)
は単調減少する.

[大人の解答]
\vec{x}(t)=\begin{pmatrix} a(t) \\ b(t) \end{pmatrix} とおくと,
t\gt 1a'(t)\gt 0 かつ {\rm det}(\vec{x}’(t),\, \vec{x}’'(t))\lt 0
ならば \vec{x}(1)=(0,0)^{\top}\vec{x}(t) を結ぶ割線の傾きc(t) は減少する.

a'(t)= \dfrac{1}{2}(1+t^{-2}) \gt 0 であり,
{\rm det}(\vec{x}’(t),\, \vec{x}’'(t))={\rm det}\begin{pmatrix} \dfrac{1}{2}(1+t^{-2}) & -t^{-3} \\ t^{-1} & -t^{-2} \end{pmatrix}=\dfrac{1-t^2}{2t^4}\lt 0
により題意は示された.

曲線の曲り具合を {\rm det}(\vec{x}’(t),\, \vec{x}’'(t))\lt 0 で考える問題は例えば
1987年(昭和62年)東京大学-数学(理科)[2] - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
参照.