[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2003年(平成15年)東京大学前期-数学(理科)[6]

2020.04.12記

[6] 円周率が3.05より大きいことを証明せよ.

2020.04.12記
円周率というからには、まぁ円の周長を評価して解きたい気がする。

もちろん2点を結ぶ曲線長で最短のものは線分であることを利用する。

それが難しい場合は、円の面積を評価したり、\pi の値が 3.05 より大きいことを証明すれば良いだろう。基本的な考え方は

mathtrain.jp

1. 内接正八角形の周長で評価
余弦定理で一辺の長さを求めているが、本質的な評価は、弦の長さと弧の長さの比較  \sin\dfrac{\pi}{8} < \dfrac{\pi}{8} である。あたりまえだが。)

2. 原点中心半径5の円周上の有理点を結ぶ折れ線で評価(3,4,5の直角3角形を利用)

3. 内接正24角形の面積で評価
(本質的な評価は、三角形の面積と扇形の面積の比較  \sin\dfrac{\pi}{12} < \dfrac{\pi}{12} である。

1.の方針と同等なものとしては、内接正16角形の面積で評価することも可能である。もちろん、内接12角形の面積ではうまくいかない。)

4.上に凸な \dfrac{1}{1+x^2}積分を2個の台形の面積で評価
\tan^{-1}を利用。)

5. \cos x \gt 1- \dfrac{x^2}{2}x\neq 0
1934年(昭和9年)東京帝國大學理學部-數學[2] - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
x=\dfrac{\pi}{6} を代入
(この不等式は、\sin\dfrac{x}{2} < \dfrac{x}{2} と同等なので、本質的な評価は、  \sin\dfrac{\pi}{12} < \dfrac{\pi}{12} と、3. と全く同等である。だから、x=\dfrac{\pi}{4} を代入しても、1. と同等になり、うまく解ける。)

を読めばいいだろう。特に、2番目の正多角形でない折れ線は、ピタゴラスの定理\sqrt{2},\,\sqrt{10} の評価だけで示せるので是非見ておきたい。

なお、

[解答]
 (t^2-1)(t^2+2)^2=t^6+3t^4-4\gt -4 から |t|\lt 1 のとき  \dfrac{1}{\sqrt{1-t^2}} \gt \dfrac{1}{2} t^2 + 1 が成立するので,
 \displaystyle\int_0^{1/2}\dfrac{1}{\sqrt{1-t^2}}dt > \int_0^{1/2} \left(\dfrac{1}{2}t^2+ 1\right)dt=\dfrac{1}{48}+\dfrac{1}{2}
が成立する。

t=\sin\theta と置換すると
 \displaystyle\int_0^{\pi/6}\theta \,d\theta =\dfrac{\pi}{6} > \dfrac{1}{48}+\dfrac{1}{2}
であるから、
 \pi > \dfrac{1}{8}+3=3.125\gt 3.05
が成立する。

この方法は、\dfrac{1}{\sqrt{1-t^2}}=1+\dfrac{1}{2} t^2+\dfrac{3}{8}t^4+\dfrac{15}{48}t^6+\cdots というマクローリン展開を利用した評価である。

なお、

[解答]
 |x|\lt 1 のとき、(1+x^2)(1-x^2)=1-x^4\lt 1
から、\dfrac{1}{1+x^2} \gt 1-x^2 が得られるので、これを 0 から \dfrac{1}{\sqrt{3}} まで積分して  \dfrac{\pi}{6} \gt \dfrac{8}{9\sqrt{3}} が得られる。よって \pi \gt \dfrac{16\sqrt{3}}{9}>\dfrac{16\times 1.73}{9}=3.07555\cdots\gt 3.05 が得られる。
としても良い。

\arctan を用いる場合は、先ほどの \arcsinを用いる場合に比べて \dfrac{\pi}{6} の値が無理数となって評価が少し面倒になってしまうというデメリットがあるが、マクローリン展開に基づく不等式が簡単に示せるメリットがある。

なお、マクローリン展開を用いる場合、なるべく0近辺の積分区間をとる方が羃級数で評価したときの近似が良くなる。\arctan を利用するときに、有理数で評価するために、\dfrac{\pi}{4} の値を使ってみると 0 から 1 まで積分するので、
 \dfrac{\pi}{4} \gt 1-\dfrac{1}{3} から \pi\gt \dfrac{8}{3}=2.666\cdots と評価がゆるすぎることになる。
級数で展開しているのに、1 まで積分してしまうと、1^n は減衰しないので羃級数の収束が悪くなるので、最初の数項だと評価がゆるゆるになってしまうのである。

ちなみに、無理数を避けてあくまでも 1 まで積分したい場合は
 \dfrac{1}{1+x^2}\gt 1-x^2+x^4(1-x^2)+\cdots +x^{20}(1-x^{2})
を利用すれば良い(交代級数を下から評価するので、2項ずつ増やさないといけないので大変)が、この積分結果で得られる有理数(分母が 3^2\cdot 5\cdot 7\cdot 11\cdot 13\cdot 17\cdot 19\cdot 23=17612595)が 3.05 よりも大きいことを示すなら、\sqrt{3}\gt 1.73 を使う方が楽である。この分母の巨大さから考えても、羃級数で評価したときに、1 に近い値を代入することが不利であることがわかるだろう。

なお、この \dfrac{\pi}{4}=1-\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{5}-\dfrac{1}{7}+\cdots は、グレゴリー級数ライプニッツ級数と呼ばれる。収束は遅く、手計算の時代には、マチンの公式  4\arctan\dfrac{1}{5}-\arctan\dfrac{1}{239}=\dfrac{\pi}{4} が用いられてきた。マチンの公式の周辺に関しては

ja.wikipedia.org


いずれにせよ、\sin x < x の不等式で十分解ける問題なので、わざわざ \arcsin x > x + \dfrac{1}{6}x^3\arctan x> x-\dfrac{1}{3}x^3 を持ち出すのはやや大袈裟といわざるを得ない(のでここで述べた別解は大したことない)。

2020.12.12記
ツイッター


という面白い方法があった。

\pi-3.05=\pi-\dfrac{61}{20}
=\displaystyle\int_0^1 \left(\dfrac{4}{1+x^2}+x^4-3x^3+3x^2+x-4\right)dx
=\displaystyle\int_0^1 \dfrac{x(1-x)^2(x^3+x(1-x)+1)}{1+x^2}\,dx\gt 0

上記の、

4.上に凸な \dfrac{1}{1+x^2}積分を2個の台形の面積で評価
\tan^{-1}を利用。)

に近い方法で、\dfrac{1}{1+x^2} を 折れ線で評価するのではなく、
4次関数で評価している。言われてみれば当然の評価なのだが、思いつくのはすごい。

(a) \pi\dfrac{4}{1+x^2} の 0 から 1 までの積分を評価する.

(b) \dfrac{4}{1+x^2}x=1 における接線はy=-2x+4 であり、これは何と y=\dfrac{4}{1+x^2} 上の (0,4)も通る。
この台形で面積を近似すると \pi\gt 3 が得られる.

(c) あと、\dfrac{1}{20} を使って評価したいので、ベータ関数で評価する。x=0 を通り、x=1 で二次以上の接触をする関数として x^{1+m}(1-x)^{2+n} の形で探したい。
m=0,n=1 として B(2,4)=\dfrac{1}{20} だから、\dfrac{4}{1+x^2}\geqq -2x+4+x(1-x)^3 が成り立てば \pi > 3.05 が成立するはず。

実際、
\dfrac{4}{1+x^2}-\{-2x+4+x(1-x)^3\}=\dfrac{x(1-x)^2\{x^3+x(1-x)+1\}}{1+x^2}\geqq 0
(等号は x=0,1のみ)
と成立している.

と考えたのではないかと思う。

世の中広い。でも、y=\dfrac{4}{1+x^2}(1,1) における接線が (0,4) を通ることがうまく効いているので、出題者はこの解法を使って 3.05 という値を決めたのではないかと思えるほどだ。

2021.04.17記
最近良くみる、半径17の四分円と一辺12の正方形で示すやつ、皆自分が見つけたように動画とかで配信しているのが草。2点間の距離の最小値が線分に限ることは明らかとして良いけど、円弧より折れ線が短いことは自明ではないのではないかな。

{\rm O}(0,0){\rm A}(17,0){\rm B}(12,12){\rm C}(17/\sqrt{2},17/\sqrt{2})
として,{\rm O} 中心半径17の円の部分である弧 \rm AC について 弧\rm AC\gt 線分AC は明らかだけど
弧\rm AC\gt 線分AB は明らかではない。
\rm A から y=x に下した垂線の足より \rm C の方が \rm B よりも遠くにあるから、もしくは角 \rm ABC は鈍角だから \rm AC\gt AB ぐらいは言及すべきだろう.

なお、\rm B は円の内部にあるから,という説明は完全に誤りである.

また、\rm D(0,17) として,四角形\rm OABD は四分円 \rm OAD に含まれる凸図形だから
弧\rm AD\gt 折れ線 ABD というのも不十分.

凸図形 A が凸図形 B に含まれるとき、Aの周長よりもBの周長が長い

ということを示すのは本問よりも難しいからだ(多角形同士なら簡単ではあるが).

\rm AC\gt AB さえ示せていれば、

弧{\rm AC}=\dfrac{17}{4}\pi\gt 線分{\rm AC}=13
から \pi\gt \dfrac{52}{17}=3+\dfrac{1}{17}>3+\dfrac{1}{20}=3.05 となる.

なお,\dfrac{52}{17} をわざわざ割算しなくても良い.そのための 0.05=\dfrac{1}{20} である.

2023.12.05記
ベータ関数的な話の拡張についての記事。

2003年の東大の入試問題

「円周率は3.05より大きいことを示せ」

は超有名問題だけど、以下の積分を計算すると、
より良い近似値が得られる。

皆さんご存知でしょうけど。
初めて知った時は驚いた。
\displaystyle\int_0^1 \dfrac{x^4(1-x)^4}{1+x^2}\,dx


integers.hatenablog.com