[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2007年(平成19年)東京大学前期-数学(理科)[1]

[1]  n k を正の整数とし, P(x) を次数が  n 以上の整式とする.整式  (1+x)^kP(x) n 次以下の項の係数がすべて整数ならば, P(x) n 次以下の項の係数は,すべて整数であることを示せ.ただし,定数項については,項それ自身を係数とみなす.


本問のテーマ
整数係数多項式環

2020.08.03記

整数係数多項式環

 \mod x^{n+1} で考えて,整数係数の n 次以下の多項式の集合を  Z_n(x) とする.
1+xの逆元がZ_n(x)にあれば良く、等比数列の和の公式を利用して,積の逆元を具体的に与えてやれば良い.

[大人の解答]

 \mod x^{n+1} で考える.n 次以下の整数係数多項式環 Z_n(x) の元 1+x の積の逆元は  Q(x)=\displaystyle \sum_{k=0}^{n} (-x)^k であるから,(1+x)^k の積の逆元は \{Q(x)\}^k となる.よって
 (1+x)^kP(x)\in Z_n(x)\Longrightarrow \{Q(x)\}^k \{(1+x)^k P(x)\}=[ \{Q(x)\}^k(1+x)^k] P(x)=P(x)\in Z_n(x) となる.

これをアレンジすると次のようになる.

[解答]

n 次以下の項の係数がすべて整数であるような整式の集合を P_n とする.このとき,整式の計算規則(筆算)から
f(x),g(x)\in P_n ならば f(x)g(x)\in P_n が成立する.

 Q(x)=\displaystyle \sum_{k=0}^{n} (-x)^k \in P_nとおくと, Q(x)(1+x)=1-(-x)^{n+1}\in P_n であるから,
(1+x)^kP(x)\in P_n \Longrightarrow \{Q(x)\}^k(1+x)^k P(x)=(1-(-x)^{n+1})^kP(x)=P(x) +( x^{n+1} より高次の項)\in P_n
が成立する.よって P(x)\in P_n が成立する.つまり  P(x) n 次以下の項の係数は,すべて整数である.