[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2009年(平成21年)東京大学後期-総合科目II[2]B

[2] 時間によって移動する点の動きなど,連続的に変化する現象を調べるときには,現象を表す関数の値を数列によって近似して,離散的なモデルを考えることができる.これらを対照して考察することや,連続的な現象を離散的なモデルの極限としてとらえることは,しばしば有効である.

B
図 2-1 のように,ひもの一方の端点を水平面に垂直な壁に固定し,もう一方の端点を壁とひものなす角が直角になるように手で持つ.このとき,手で持つ位置と壁の距離がどれくらいになるかを,次のように考察してみよう.

図2-2のように,質量が m[\mbox{kg}] のおもりを,いくつか等間隔にひもでつなぎ,その一方の端を壁に固定して,他方の端を手で支える.ただし,それぞれのひもはまっすぐで,壁に固定されているひもは壁に垂直であるとする.となり合うおもりの間隔は \ell [\mbox{m}]として,おもりの大きさとひもの太さ,およびひもの重さは無視することにする.壁の側から順番に,ひもを S_1,S_2,… とし,それらのひもの張力の大きさを,それぞれ t_1,t_2,…[\mbox{N}] とする.また,ひも S_i が水平方向となす角度を \theta_i とする.ここで,t_1=T とおく.重力加速度を  g[\mbox{m}/\mbox{s}^2] とする.

図2-1 (略)

図2-2 (略)


図2-3は,ひも S_iS_{i+1} でつながれているおもりにかかる力がつり合ってい ることを表す.ここで \vec{a}_i,\vec{a}_{i+1} は,それぞれひも S_iS_{i+1} の張力としておもりにかかる力のベクトル,\vec{b} はおもりにかかる重力のベクトルを表す.

図2-3 (略)

(B-1) ベクトル \vec{a}_i\vec{a}_{i+1}\vec{b} の大きさは,それぞれ t_it_{i+1}mg であることをふまえて,これらのベクトルの成分表示を t_it_{i+1}\theta_i\theta_{i+1}mg を用いて与えよ.

おもりにかかる力のつり合いの条件より,ベクトル \vec{a}_i\vec{a}_{i+1}\vec{b} の和は零ベクトルである.

(B-2) \tan\theta_i\tan\theta_{i+1} の関係を mgT を用いて表せ.

(B-3) \cos\theta_imgTi を用いて表せ.

(B-4) x=\dfrac{e^t-e^{-t}}{2} とおく置換積分法により,定積分 \displaystyle\int_0^a\dfrac{1}{\sqrt{x^2+1}}dx の値を求めよ.

おもりの質量の和 M[\mbox{kg}] と,ひもの長さの和 L[\mbox{m}] を固定する.おもりの個数を n 個とすると,
m=\dfrac{M}{n}\ell=\dfrac{L}{n} となる.このとき,ひもを手で支える位置と壁の距離を X_n[\mbox{m}] とおく.図2-1 のように,質量が M[\mbox{kg}]で長さが L[\mbox{m}] のひもの一方の端点を壁に固定して,もう一方の端点を手で持ち,壁とひものなす角が直角になるようにする.このとき,手で持つ位置と壁の距離は,極限値 \alpha=\displaystyle\lim_{n\to\infty}X_n で表されると考えられる.

(B-5) 上の極限値 \alphaM,L,T, g を用いて表せ.

2021.02.11記

ひもの形状が懸垂線(カテナリー)になるのは有名.

[解答]

(B-1) \vec{a}_i=(-t_i\cos\theta_i,-t_i\sin\theta_i)\vec{a}_{i+1}=(t_{i+1}\cos\theta_{i+1},t_{i+1}\sin\theta_{i+1})\vec{b}=(0,-mg)

(B-2) つりあいの式から
t_{i+1}\cos\theta_{i+1}-t_{i}\cos\theta_{i}=0
t_{i+1}\sin\theta_{i+1}-t_{i}\sin\theta_{i}-mg=0
であるから,
t_{i}\cos\theta_{i}=t_{1}\cos\theta_{1}=T\cos 0=T
t_{i}\sin\theta_{i}=t_{1}\sin\theta_{0}+(i-1)mg=(i-1)mg
が成立する.よって \tan\theta_{i}=(i-1)\dfrac{mg}{T} となり,\tan\theta_{i+1}-\tan\theta_{i}=\dfrac{mg}{T}

(B-3) (B-2) より\tan\theta_{i}=(i-1)\dfrac{mg}{T} だから
\cos\theta_i=\dfrac{1}{\sqrt{1+(i-1)^2\dfrac{m^2g^2}{T^2}}}

(B-4) a=\dfrac{e^u-e^{-u}}{2} なる u\gt 0 を用いて
\displaystyle\int_0^a\dfrac{1}{\sqrt{x^2+1}}dx =\displaystyle\int_0^u dt =u である.
(e^u)^2-2a(e^u)-1=0 の正の解を用いて u=\log(a+\sqrt{a^2+1}) だから
\displaystyle\int_0^a\dfrac{1}{\sqrt{x^2+1}}dx =\log(a+\sqrt{a^2+1})

(B-5) X_n=\ell \displaystyle\sum_{i=1}^n \cos\theta_i
=\dfrac{L}{n} \displaystyle\sum_{i=1}^n \dfrac{1}{\sqrt{1+\Bigl(\dfrac{i-1}{n}\Bigr)^2\dfrac{M^2g^2}{T^2}}}
の極限を考えて,
\alpha =L \cdot \dfrac{T}{Mg}\displaystyle\int_0^{Mg/T} \dfrac{1}{\sqrt{1+x^2}} dx
=\dfrac{TL}{Mg}\log\Bigl(\dfrac{Mg}{T}+\sqrt{\dfrac{M^2g^2+T^2}{T^2}}\Bigr)
=\dfrac{TL}{Mg}\{\log(Mg+\sqrt{M^2g^2+T^2})-\log T\}