[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1977年(昭和52年)東京大学-数学(理科)[1]

[1] k を実数の定数とするとき,x の関数 f(x)=|x^3-3kx|-1\leqq x\leqq 1 の範囲でとる最大値を M(k) で表す.k が実数全体を動くとき,M(k) が最小となる k の値および M(k) の最小値を求めよ.

本問のテーマ
チェビシェフ多項式

2023.08.17記

[解答]
f(x)=|x|\cdot \Bigl||x|^2-3\Bigr| は偶関数だから,0\leqq x\leqq 1 における f(x) の最大値について考えれば良く,
それは端点と極値の大小を比べれば良い(f(0)=0 は明らかに最大値とはならないので除外して良い).

(i) k\leqq 0 のとき f(x) は 単調増加だから M(k)=f(1)=1-3k

(ii) k\gt 0 のとき f(1)=1-3kf(\sqrt{k})=2k\sqrt{k}0\lt k\lt 1)の大きい方が M(k)となる.
よって
0\lt k\leqq\dfrac{1}{4} のとき M(k)=1-3k(単調減少),
\dfrac{1}{4}\lt k\leqq 1 のとき M(k)=2k\sqrt{k}(単調増加)
となる.よって M(k)k=\dfrac{1}{4} のときに最小値 \dfrac{1}{4} をとる.

チェビシェフ多項式

任意の \theta に対して
T_n(\cos\theta)=\cos n\theta
をみたす多項式をチェビシェフ多項式という.T_n(x) は最高次の係数が 2^{n-1} である n 次式となる.例えば T_2(x)=2x^2-1T_3(x)=4x^3-3x である.

チェビシェフ多項式にはいくつかの有名な性質があるが,本問で問われている

[チェビシェフの定理]
f(x)=x^n+a_1x^{n-1}+\cdots+a_n(モニック多項式
とするとき,|f(x)|-1\leqq x\leqq 1 における最大値は \dfrac{1}{2^{n-1}} 以上となる
(等号成立は f(x)=\dfrac{1}{2^{n-1}}T_n(x)のとき)

というものがある.チェビシェフの定理の証明の n=3 の場合について述べる.
T_3(\cos\theta)=\cos3\theta
に注意すると,T_3(x)-1\leqq x\leqq 1-11 の間をジグザグする.

x -1 \cdots x_1 \cdots x_2 \cdots 1
T_3(x) -1 \nearrow 1 \searrow -1 \nearrow 1

x_1,x_2の値は求まるが必要ない)

ではチェビシェフの定理の証明の n=3 の場合を証明しよう.

|f(x)|-1\leqq x\leqq 1 における最大値 MM\leqq \dfrac{1}{4} と仮定する.

このとき-1\leqq x\leqq 1 なる任意の x に対して -\dfrac{1}{4}\leqq f(x)\leqq \dfrac{1}{4} が成立する.

ここで F(x)=4f(x)-T_3(x) とおくと,F(x)2 次以下の多項式となるが,
F(-1)=4f(-1)-T_3(-1)=4f(-1)+1\geqq -4\cdot\dfrac{1}{4}+1=0
F(x_1)=4f(x_1)-T_3(x_1)=4f(x_1)-1\leqq 4\cdot\dfrac{1}{4}-1=0
F(x_2)=4f(x_2)-T_3(x_2)=4f(x_2)+1\geqq -4\cdot\dfrac{1}{4}+1=0
F(1)=4f(1)-T_3(1)=4f(1)-1\leqq 4\cdot\dfrac{1}{4}-1=0
であるから,中間値の定理より,F(x)=0 なる x-1\lt x\lt x_1x_1\lt x\lt x_2x_2\lt x\lt 1 の範囲に少なくとも1つずつ存在する.しかし F(x) は2次以下であるから,このようなことは F(x) が恒等的に 0 となる場合しか起こらない.

以上から,|f(x)|-1\leqq x\leqq 1 における最大値 MM\leqq \dfrac{1}{4} であることと f(x)=\dfrac{1}{4}T_3(x) であることは同値となり,よって題意は示された.

1990年(平成2年)東京大学前期-数学(理科)[2] - [別館]球面倶楽部零八式markIISR

も参照のこと.