[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2002年(平成14年)東京大学後期-数学[3]

2020.08.11記

2024.02.13記
[3] 区間 [0,1] において関数 f(x)
f(x)=\left\{\begin{array}{ll} 2x & \displaystyle \left( x\leqq\dfrac{1}{2} \right) \\ -2x+2 & \displaystyle \left( x\gt \dfrac{1}{2} \right)\end{array}\right.
とおく.0\leqq a_1 \leqq 1 を満たす実数 a_1 を初期値として数列 \{a_n\}
a_n=f(a_{n-1})n=2,3,…
で定める.このとき次の問に答えよ.

(1) f(b)=b を満たす,0\leqq b\leqq 1 なる実数 b をすべて求めよ.

(2) a_4 が(1)で求めた b の値の1つに等しくなるような初期値 a_1 をすべて求めよ.

(3) 条件「ある n\geqq 1 に対して,a_n が(1)で求めた b の値の1つに等しくなる」をみたす初期値 a_1 はどのような実数として表されるか.

(4) 初期値 a_1 が(3)の条件を満たさないとき,a_n\geqq\dfrac{3}{4} となるような n\geqq 1 が存在することを示せ.

(5) 数列 \{a_n\} が収束するために初期値 a_1 が満たすべき必要十分条件を求めよ.

本問のテーマ
テント写像(パイこね変換)


2020.08.11記
テント写像(パイこね変換)については
パイこね変換 - 球面倶楽部 零八式 mark II
を参照のこと.

関連した入試問題については
1998年(平成10年)東京大学前期-数学(文科)[3] - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
2000年(平成12年)東京大学前期-数学(理科)[3] - [別館]球面倶楽部零八式markIISR
も参照のこと.

[解答]
(1) 写像 f不動点を求める.これは単純な計算によってb=0,\dfrac{2}{3} となる.

(2)(3) 写像 f^{n-1}f不動点にうつる点を求める.つまり f(x)=(f^{i}の不動点にうつる点)帰納的に解くことになるが,
f(x)=y の解が x=\dfrac{y}{2},1-\dfrac{y}{2}
となることを利用すると, y0 の中点,及び,その値を1から引いたものとなる.

よって,ff不動点にうつる点は f(a_2)=0,\dfrac{2}{3}0 との中点から a_2=0,\dfrac{1}{3},その値を 1 から引いた a_2=1,\dfrac{2}{3} となり,a_2=\dfrac{k}{3}k=0,1,2,3)となる.

f^2f不動点にうつる点はf(a_3)=\dfrac{k}{3}k=0,1,2,3)と0 との中点からa_3=\dfrac{k}{6}k=0,1,2,3),その値を 1 から引いた a_3=\dfrac{k}{6}k=6,5,4,3)となり,結局,a_3=\dfrac{k}{6}k=0,1,2,...,6)となる.

同様に f^3f不動点にうつる点はf(a_4)=\dfrac{k}{6}k=0,1,2,...,6)と0 との中点からa_4=\dfrac{k}{12}k=0,1,2,...,6),その値を 1 から引いた a_4=\dfrac{k}{12}k=12,11,...,7)となり,結局,a_4=\dfrac{k}{12}k=0,1,2,...,12)となる.

帰納的に考えると,n\geqq 2 のとき,f^{n-1}f不動点にうつる点は a_n=\dfrac{k}{3\times 2^{n-2}}k=0,1,2,...,3\times 2^{n-2})となる.

折れ線を真っ直ぐにして,縦方向に縮めてもよい.

[うまい解答]
(1) 折れ線を真っ直ぐにすると,y=2xy=xy=2-xの交点の x 座標を求めれば良く,b=0,\dfrac{2}{3}となる.

(2)(3) n\geqq 2 のとき,f^{n-1} から得られる折れ線を真っ直ぐにすると,y=2^{n-1}xと,
x軸に平行な3\times 2^{n-2}+1 本の直線 y=2nn=0,1,...,2^{n-2}),y=2m-1\pm\dfrac{1}{3}m=1,2,...,2^{n-2}
との交点の x 座標を求めれば良いが,これら x軸に平行な3\times 2^{n-2}+1 本の直線は \dfrac{2}{3} ごとに等間隔に並んでいるので,
 y=\dfrac{2}{3}kk=0,1,\ldots,3\times 2^{n-2}+1
と表すことができる.

z=\dfrac{y}{2^{n-1}}とおくと,z=x z=\dfrac{1}{3\times 2^{n-2}}kk=0,1,\ldots,3\times 2^{n-2}+1)との交点のx 座標を求めれば良く,それは
 x=\dfrac{1}{3\times 2^{n-2}}kk=0,1,\ldots,3\times 2^{n-2}+1
となり,これが a_n である.

(4)はパイこね変換のエルゴード的はふるまいに関する出題になっており,
カントール集合 - 球面倶楽部 零八式 mark II
とも関連がある.

カントール集合は
C_1=\Bigl[0,\dfrac{1}{3}\Bigr]\cup\Bigl[\dfrac{2}{3},1\Bigr] C_{n+1}=\Bigl\{\dfrac{1}{3}C_n\cup \Bigl(1-\dfrac{1}{3}C_n\Bigr)\Bigr\}\cap C_n
帰納的に定義される区間C_{\infty}である.

本問は
D_1=\Bigl[0,\dfrac{3}{8}\Bigr]\cup\Bigl[\dfrac{5}{8},1\Bigr] D_{n+1}=\Bigl\{\dfrac{1}{2}D_n\cup \Bigl(1-\dfrac{1}{2}D_n\Bigr)\Bigr\}\cap D_n
帰納的に定義される区間D_{\infty}である.

ここで閉区間 [a,b] について k[a,b]=[ka,kb]k-[a,b]=[k-b,k-a] と定義する.

テント写像によるパイこね変換を考えるには、やはり二進法がわかりやすい.
でも説明は難しい.あまり良くできていない.

[解答]
(4) 0,1 は(3)の条件をみたすので,0\lt x\lt 1 で考える.

x\in (0,1) を二進小数で表現したときに、x=0.d_1 d_2 d_3 d_4\cdots であったとする.
このとき,x\geqq \dfrac{3}{4}\Longleftrightarrow d_1=d_2=1 である.

 \bar{d}_k=1-d_k とおく(0と1の入れ換え)と,
(i) d_1=0 ならば f(x)=0.d_2 d_3 d_4\cdots(1桁ずらす)
(ii) d_1=1 ならば f(x)=0.\bar{d}_2\bar{d}_3\bar{d}_4\cdots(1桁ずらして0と1を入れ換える)
が成立する.但し,0と1の入れ換えのとき,有限小数の場合,末尾に0が無限個続くと考えて,
1.0000000000\cdots=0.1111111111\cdots=1.0000000000\cdots
となるので,末尾の1は実質影響を受けないことがわかる.

ここで(i)(ii)より, d_1d_2=10 ならば,f(f(x))=0.d_3 d_4\cdots と2桁ずらすだけになっていることがわかるので,

a_1\in(0,1) の二進小数表示の小数点第s+1位(s\geqq 0)に初めて1が登場するとする.

そして初めて1が登場した後,
(a) 11または00が登場しない,つまり無限小数として1と0が繰り返し登場する
(b) 11または00が登場するまでに1010t組続くとし,
(b-1) 11\cdots と続く場合,(b-2) 0\cdots と続く場合
が考えらえる.

(b-1) の場合,a_{s+2t+1}=0.11\cdots\geqq\dfrac{3}{4} となる.

(b-2) の場合,a_{s+2t-2}=0.100\cdots となるので,a_{s+2t-1}=0.11\cdots\geqq\dfrac{3}{4}となる.

よって(b)の場合はa_n\geqq\dfrac{3}{4}となるようなn\geqq 1が存在する.

(a) の場合,2^{s}x=0.1010\cdots だから 3\times 2^s =10_{(2)}=2_{(10)}, つまり,x=\dfrac{1}{3\times 2^{s-1}} となり,(3)の条件をみたす数だから,(3)の条件をみたさないならば,かならず(b)の場合となり,題意は証明された.

(5) a_1 が(3) の条件をみたすときはいずれa_n=0または\dfrac{2}{3} となり,数列は収束する.
そうでない場合,a_n\geqq \dfrac{3}{4} となり,a_{n+1}\leqq\dfrac{1}{2}となる.
もちろん,a_{n+1} は(3)の条件をみたさないので(みたしているならa_1もみたすことになり矛盾)、
いずれ\dfrac{3}{4}以上となり,その次に\dfrac{1}{2}以下となる.

このように \dfrac{3}{4}以上となっては\dfrac{1}{2}以下となることを繰り返すので,(3)の条件をみたさないときは収束しない.

以上から,求める必要十分条件は(3)の条件をみたすことである.