[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2024年(令和6年)東京大学-数学(理科)[3]

2024.02.28記

[3] 座標平面上を次の規則(i),(ii)に従って1秒ごとに動く点 P を考える.

(i) 最初に,\mbox{P} は点 (2, 1) にいる.

(ii) ある時刻で \mbox{P} が点(a, b) にいるとき, その 1 秒後には \mbox{P}

\bullet 確率\dfrac{1}{3}x軸に関して(a, b) と対称な点
\bullet 確率\dfrac{1}{3}y軸に関して(a, b) と対称な点
\bullet 確率\dfrac{1}{6}y=x軸に関して(a, b) と対称な点
\bullet 確率\dfrac{1}{6}y=-x軸に関して(a, b) と対称な点

にいる.以下の問いに答えよ.ただし,(1)については, 結論のみを書けばよい.

(1) \mbox{P}がとりうる点の座標をすべて求めよ.

(2) n を正の整数とする.最初から n 秒後に \mbox{P} が点 (2, 1) にいる確率と, 最初からn 秒後に \mbox{P} が点(-2,-1) にいる確率は等しいことを示せ.

(3) n を正の整数とする.最初から n 秒後に \mbox{P} が点(2, 1) にいる確率を求めよ.

本問のテーマ
折り返しの合成は回転
二面体群 D_8
マルコフ過程

2024.02.25記
通常は二面体群は正多角形で表現することが多いが,本問のような多角形で表現することも可能である.というのも,二面体群は回転と折り返しのなす群となるので正多角形でなくても,その群の要素で変換しても自分自身に移る多角形が存在することもあるからである.

[解答]
(1) (2,1)(-2,1)(-2,-1)(2,-1)(1,2)(-1,2)(-1,-2)(1,-2) の8つ

(2) 4つの変換を順番に a,b,c,d とする.
最後に a で (2,1) に移った場合,その最後を b とすると (-2,-1) に移り,
最後に b で (2,1) に移った場合,その最後を a とすると (-2,-1) に移り,
最後に c で (2,1) に移った場合,その最後を d とすると (-2,-1) に移り,
最後に d で (2,1) に移った場合,その最後を c とすると (-2,-1) に移る.

よってそれぞれの確率は等しい.

(3) \rm A(2,1)\rm B(1,2)\rm C(-1,2)\rm D(-2,1)\rm E(-2,-1)\rm F(-1,-2)\rm G(1,-2)\rm H(2,-1) とおくと,\rm A,C,E,G の次は \rm B,D,F,H のいずれかで,\rm B,D,F,H の次は \rm A,C,E,G のいずれかだから,n が奇数のときの確率は 0 となる.

偶数回の場合は,折り返し2回で回転だから,2回後に移動量は
0度回転される確率 \dfrac{10}{36}
90度回転される確率 \dfrac{8}{36}
180度回転される確率 \dfrac{10}{36}
270度回転される確率 \dfrac{8}{36}
となる.ここで(2) より 2k 回後に \rm A,E である確率は等しく合計を q_k,同様に 2k 回後に \rm C,G である確率は等しく合計を r_k とおくと
q_{k+1}=\dfrac{5}{9}q_k+\dfrac{4}{9}r_k=\dfrac{5}{9}q_k+\dfrac{4}{9}(1-q_k)=\dfrac{1}{9}q_k+\dfrac{4}{9}
から
q_{k+1}-\dfrac{1}{2}=\dfrac{1}{9}\left(q_k-\dfrac{1}{2}\right)
となり,q_0=1 から
q_k=\dfrac{1}{2\cdot 9^{k}}+\dfrac{1}{2}
となるので求める確率はこの半分となる.

以上により,求める確率は n が奇数のとき 0,偶数のとき \dfrac{1}{4\cdot 3^{n}}+\dfrac{1}{4} となる.

2024.02.28記

[大人の解答]
(3) 4つの変換を順番に a,b,c,d とする.x 軸に関する折り返しを f\dfrac{\pi}{4} 回転を r で表すと

aは f(確率\dfrac{1}{3}),
bは r^4f=fr^4(確率\dfrac{1}{3}),
cは r^2f=fr^6(確率\dfrac{1}{6}),
dは r^6f=fr^2(確率\dfrac{1}{6}),

という変換に対応する.ここで180度回転させたものを同一視すると((2)と同様にそれぞれの場所にある確率は等しいので,どちらかに居る確率は2倍になる),a と b は同じ変換,c と d は同じ変換となり,

a または bは f=r^4f=fr^4(確率\dfrac{2}{3}),
c または d は r^2f=fr^6=r^6f=fr^2(確率\dfrac{1}{3}),

という変換になる.ここで fr は積について交換可能ではなかったのだが,この同一視( r^4 の違いは無視する)によって fr を積について交換しても構わなくなった.

よって,変換を n 回行ったときのどの合成変換になるかの確率は
\dfrac{(2f+r^2f)^n}{3^n}=\dfrac{f^n(2+r^2)^n}{3^n}
で表される.f^2=1r^4=1 に注意すると

(i) n が奇数のとき
\dfrac{f^n(2+r^2)^n}{3^n}=\dfrac{f(2+r^2)^n}{3^n}
であるから,この展開結果に定数項が含まれず,定数項は 0 となる.

(ii) n が偶数のとき
\dfrac{f^n(2+r^2)^n}{3^n}
=\dfrac{(2+r^2)^n}{3^n}
であるから,この(r^4=1 として計算した)定数項は
=\dfrac{1}{2}\left(\dfrac{(2+1)^n}{3^n}+\dfrac{(2-1)^n}{3^n}\right)=\dfrac{1}{2}\left(1+\dfrac{1}{3^n}\right)
となる.これは求める確率の2倍だから
p_n=\dfrac{1}{4}\left(1+\dfrac{1}{3^n}\right)
となる.

n=2k のときは
=\dfrac{(2+r^2)^{2k}}{3^{2k}}=\dfrac{(5+4r^2)^{k}}{9^k}
となり,これが [解答] で登場する \dfrac{5}{9}\dfrac{4}{9} の正体である.

2024.04.21記
推移が線形漸化式で表現できるものはマルコフ過程で本問は8×8行列になって面倒だなと思っていたら、チート式の人がやってくれていた.

対称性が行列のクロネッカ積で表現できることを利用して問題を簡略化しているのが良き.