[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2024年(令和6年)東京大学-数学(理科)[2]

2024.02.28記

[2] 次の関数 f(x) を考える.
f(x)=\displaystyle\int_0^1\dfrac{|t-x|}{1+t^2}dt0\leqq x\leqq 1

(1) 0\lt \alpha\lt \dfrac{\pi}{4} を満たす実数 \alpha で,f'(\tan\alpha)=0 となるものを求めよ.

(2) (1)で求めた \alpha に対し,\tan\alpha の値を求めよ.

(3) 関数 f(x)区間 0\leqq x\leqq 1 における最大値と最小値を求めよ.必要ならば,0.69\lt\log 2\lt 0.7 であることを用いてよい.

本問のテーマ
はみ出し削り論法(変分法

2024.02.25記

[解答]
(1) p(t)=\displaystyle\int_0^t\dfrac{1}{1+t^2}\,dtq(t)=\displaystyle\int_0^t\dfrac{1}{t+t^2}\,dt=\dfrac{1}{2}\log (1+t^2)
とおくと
f(x)=x(2p(x)-p(1))-2q(x)+q(1)
であるから
f'(x)=2p(x)-p(1)=2p(x)-\dfrac{\pi}{4}
となり,p(\tan\alpha)=\alpha から
f'(\tan\alpha)=2\alpha-\dfrac{\pi}{4}
となり,\alpha=\dfrac{\pi}{8} となる.

(2) A=\tan\alpha とおくと
1=\tan 2\alpha=\dfrac{2A}{1-A^2}
A\gt 0 から A=\sqrt{2}-1 となる.

(3) (1)と増減表(略)により最小値は f(\tan\alpha) であり,最大値は f(0)=q(1)=\dfrac{1}{2}\log 2f(1)=p(1)-2q(1)=\dfrac{\pi}{4}-\dfrac{1}{2}\log 2 の大きい方となるが,f(1)-f(0)=\dfrac{\pi}{4}-\log 2\geqq \dfrac{3}{4}-0.7\gt 0 により最大値は f(1)=\dfrac{\pi}{4}-\dfrac{1}{2}\log 2 となる.

以上により,最大値は f(1)=\dfrac{\pi}{4}-\dfrac{1}{2}\log 2,最小値は f(\tan\alpha)=\tan\alpha (2\alpha-\dfrac{\pi}{4})-2q(\tan\alpha)+\dfrac{1}{2}\log 2=-2q(\sqrt{2}-1)+\dfrac{1}{2}\log 2=-\log (4-2\sqrt{2})+\dfrac{1}{2}\log 2=\log \dfrac{\sqrt{2}}{4-2\sqrt{2}}=\log \dfrac{\sqrt{2}+1}{2} となる.

なお,\tan\dfrac{\pi}{8} は直角2等辺三角形の角の2等分線を利用して \dfrac{1}{\sqrt{2}+1} と計算しても良い.



2024.02.29記
大学で習う逆正接関数 \mbox{Arctan} を用いると見易くなる.

[大人の解答]
(1) f(x)=\displaystyle\int_0^x\dfrac{t-x}{1+t^2}\,dt+\displaystyle\int_x^1\dfrac{x-t}{1+t^2}\,dt
=\log (1+x^2)-2x\mbox{Arctan}\, x-\dfrac{1}{2}\log 2-x\mbox{Arctan}\, 1
=\log (1+x^2)-2x\mbox{Arctan}\, x-\dfrac{1}{2}\log 2-x\dfrac{\pi}{4}
だから,
f'(x)=\dfrac{2x}{1+x^2}-2\mbox{Arctan}\, x-\dfrac{2x}{1+x^2}-\dfrac{\pi}{4}=-2\mbox{Arctan}\, x-\dfrac{\pi}{4}
となり,
f'(\tan\alpha)=2\alpha-\dfrac{\pi}{4}
から \alpha=\dfrac{\pi}{8} となる.

(2) A=\tan\alpha とおくと
1=\tan 2\alpha=\dfrac{2A}{1-A^2}
A\gt 0 から A=\sqrt{2}-1 となる.

(3) f'(x)=-2\mbox{Arctan}\, x-\dfrac{\pi}{4} は単調減少だから(1)により最小値は f(\tan\alpha) であり,最大値は
f(0)=\dfrac{1}{2}\log 2f(1)=\dfrac{\pi}{4}-\dfrac{1}{2}\log 2 の大きい方となるが,f(1)-f(0)=\dfrac{\pi}{4}-\log 2\geqq \dfrac{3}{4}-0.7\gt 0 により最大値は f(1)=\dfrac{\pi}{4}-\dfrac{1}{2}\log 2 となる.

以上により,最大値は f(1)=\dfrac{\pi}{4}-\dfrac{1}{2}\log 2,最小値は f(\tan\alpha)=\tan\alpha (2\alpha-\dfrac{\pi}{4})-2q(\tan\alpha)+\dfrac{1}{2}\log 2=-2q(\sqrt{2}-1)+\dfrac{1}{2}\log 2=-\log (4-2\sqrt{2})+\dfrac{1}{2}\log 2=\log \dfrac{\sqrt{2}}{4-2\sqrt{2}}=\log \dfrac{\sqrt{2}+1}{2} となる.

こうであれば,始めから u=\tan t と置換すれば良い.すると良くある「はみだし削り論法」の枠組みになる.

はみ出し削り論法(変分法

t=\tan\theta と置換すると f(x)=\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{4}} |\tan\theta-x|\, d\theta となる.この積分の最大・最小は「はみ出し削り論法」の典型的は設定であり,区間の真ん中となる \theta=\dfrac{1}{2}\cdot \dfrac{\pi}{4}=\dfrac{\pi}{8} なる点を通るとき,つまり
x=\tan\left(\dfrac{1}{2}\cdot \dfrac{\pi}{4}\right)=\tan \dfrac{\pi}{8} で最小となり,x=0,1 のいずれかで最大となる.

このタイプのはみ出し削り論法では,逆関数を用いると簡単になる.

[うまい解答]
t=\tan\theta と置換すると f(x)=\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{4}} |\tan\theta-x|\, d\theta となる.ここで \tan(\cdot)逆関数 s(\cdot) を用いると
f(x)=\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{4}} |\tan\theta-x|\, d\theta
=\displaystyle\int_0^{x} s(u)\, du+\displaystyle\int_x^{1} \left(\dfrac{\pi}{4}-s(u)\right) \, du
が成立する.この第1項は単調増加,第2項は単調減少であるから,
f'(x)=\dfrac{d}{dx}\left\{\displaystyle\int_0^{y} s(u)\, du+\displaystyle\int_y^{1} \left(\dfrac{\pi}{4}-s(u)\right) \, du\right\}=0
なる x は唯一存在し,
2s(x)-\dfrac{\pi}{4}=0
つまり s(x)=\dfrac{\pi}{8} をみたす.このとき x=\tan\dfrac{\pi}{8} となるので \alpha=\dfrac{\pi}{8} となる.

以下略

\displaystyle\int \mbox{Arctan}\,x\,dx=x\, \mbox{Arctan}\,x\,-\dfrac{1}{2}\log(1+x^2)+C
が成立するので,積分は結局真面目にやらないといけない.

2024.10.07追記
やや一般論的に書いておくと,
f(x)=\displaystyle\int_0^1\dfrac{|t-x|}{1+t^2}dt
だから \dfrac{dt}{1+t^2}=du となる関数 u=A(t)=\int\dfrac{dt}{1+t^2} を用意すると
f(x)=\displaystyle\int_{A(0)}^{A(1)} |A^{-1}(u)-x|\, du
と簡単なはみ出し削り論法となり,x=A^{-1}\left(\dfrac{A(0)+A(1)}{2}\right) で最小となることがわかる.
ここで A(t)=\mbox{Arctan}\, tt=\tan u という関係になっているので[うまい解答]では t=\tan\theta という置換を行っている.

これと同様に
f(x)=\displaystyle\int_0^1 g(t)\,|t-x|\,dt
という感じの問題では g(t) の原始関数を G(t) とおくと
u=G(t) の置換により(du=g(t)\,dt
f(x)=\displaystyle\int_{G(0)}^{G(1)} |G^{-1}(u)-x|\,du
となるので,x=G^{-1}\left(\dfrac{G(0)+G(1)}{2}\right) で最小,という流れになる.