[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1923年(大正12年)東京帝國大學工學部-數學[3]

[3] 下ノ曲線ヲ追跡セヨ.
(ax-by)^2=y(ax^2+y^3) 但シa\gt b\gt 0

本問のテーマ
Newton 多角形

2022.08.18記
この曲線の \dfrac{dx}{dy}=0 となる点を計算することにかなりの時間を割いたものの,結局うまくいかなかった.曲線の追跡においてどこまで曲線の形状を特定すべきかというのは難しい所であるが,

では,特異点、無限分枝、存在区域などは調べていたが細かい増減や単調性については調べられておらず,調べられる範囲内で最善を尽す方向だったように思われる.

[解答]
曲線 f(x,y)=(ax-by)^2-y(ax^2+y^3)=0…① は
y^4+ax^2y-a^2x^2+2abxy-b^2y^2=0…①{}'
と書くことができる.

(a) ニュートン多角形の考察:
ニュートン多角形N(0,4)(2,1)(2,0)(1,1)(0,2) の凸包である四角形となる.

 

(i) y^4ax^2y を結ぶ直線の左下に N があることから,x,y が大きいときの漸近的振舞は y^4+ax^2y=0 から ax^2+y^3=0 であることがわかる.

(ii) ax^2y-a^2x^2 を結ぶ縦の直線の左に N があることから,ax^2y-ax^2=0 から 導かれるy=a という漸近線をもつことがわかる.このとき y=a+Y とおくと{\rm ①}'
(a+Y)^4+ax^2(a+Y)-a^2x^2+2abx(a+Y)-b^2(a+Y)^2
=(a+Y)^4+ax^2Y+2abx(a+Y)-b^2(a+Y)^2=0
となるので,これを展開して得られる新しいニュートン多角形の x の高次の部分は
ax^2Y+2a^2bx=0 から導かれる xY+2ab=0,つまりy=a-\dfrac{2ab}{x} となるので漸近線に近い場所では y=a-\dfrac{2ab}{x} のように振舞う .

(この部分は,|x| が大きく Y が0に近いときは x を含まない項は無視できて (a+Y)^4+ax^2(a+Y)-a^2x^2+2abx(a+Y)-b^2(a+Y)^2=0ax^2(a+Y)-a^2x^2+2abx\cdot a=ax^2Y+2a^2bx=0 と近似することによっても得られる)

(iii) -a^2x^22abxy-b^2y^2 を結ぶ直線の右上に N があることから,原点付近では
-ax^2+2abxy-b^2y^2=-(ax-by)^2=0,つまり直線 ax-by=0 が二重にあるように見えることがわかり,2本の枝が原点に ax-by=0 に接するように近づくことを表しており,よって原点は尖点である.ここで①で4次の項を無視すると ax^2y-(ax-by)^2=0 となることから,原点付近では
x=\dfrac{by}{a\pm\sqrt{ay}}y\geqq0
という2本の枝をもつ.

(iv) -b^2y^2-b^2y^2 を結ぶ縦の直線の右に N があることから,y 切片は y^4-b^2y より y=\pm b,0 となる.

(b) 特異点について調べる.

曲線 f(x,y)=(ax-by)^2-y(ax^2+y^3)=0…① 上の特異点
①だけでなく
\dfrac{\partial f}{\partial x}=2a(ax-by-xy)=0…②,
\dfrac{\partial f}{\partial y}=-2b(ax-by)-ax^2-4y^3=0…③
をみたす点である.

(i) y=0 をみたす特異点について考える.
①②③は (ax)^2=02a(ax)=0-2b(ax)-ax^2=0 となるので,y=0 をみたす特異点は原点のみである.

(ii) y\neq 0 をみたす特異点について考える.
②から ax-by=xy…④ となるので,①③は,y\neq 0を用いると,
x^2y-(ax^2+y^3)=0…⑤,-2bxy-ax^2-4y^3=0…⑥ となり,y^3 を消去すると -x(2by-3ax+4xy)=0…⑦ が成立する.ここで x=0 とすると ④から y=0 となり y\neq 0 に反するので x\neq 0 であるから⑦は 2by-3ax+4xy=0…⑧ となる.これと④より 2(ax-xy)-3ax+4xy=0 となるが,x\neq 0 より 4x=2y+a…⑨ である.

また,④から x(a-y)=by となり,⑤から x^2(y-a)=y^3 となるので
-bxy=y^3となり,bx=-y^2 となるので,2by+ab=-4y^2 が成立する.

④⑨より (2y+a)(a-y)=4by,つまり a^2+ay-2y^2=4by となるので
y=\dfrac{2a^2+ab}{2(3b-a)}となり,⑨より
x=\dfrac{y}{2}+\dfrac{a}{4}=\dfrac{4ab +a^2}{4(3b-a)}
となる.このとき
ax-by-xy=a\dfrac{4ab +a^2}{4(3b-a)}-b\dfrac{2a^2+ab}{2(3b-a)}-\dfrac{4ab +a^2}{4(3b-a)}\cdot \dfrac{2a^2+ab}{2(3b-a)}
=\dfrac{\{2a(4ab +a^2)-4b(2a^2+ab)\}(3b-a)-(4ab +a^2)(2a^2+ab)}{8(3b-a)^2}
=\dfrac{(2a^3-4ab^2)(3b-a)-(4ab +a^2)(2a^2+ab)}{8(3b-a)^2}
=\dfrac{2a(a^2-2b^2)(3b-a)-a^2(4b +a)(2a+b)}{8(3b-a)^2}
=\dfrac{-3a^3b-4a^4-12ab^3}{8(3b-a)^2}
は負の値で0にはならないので,(ii) y\neq 0 をみたす特異点は存在しない.

以上から,この曲線上の特異点は原点のみであり,よって原点以外では滑らかな曲線となる.

(c) 特異点での曲線の様子
ニュートン多角形の考察で既に調べたように,原点は尖点であり,
x=\dfrac{by}{a\pm \sqrt{a}\sqrt{y}}y\geqq 0
y=\dfrac{a}{b}x に接するように原点に近づく.

(d) 関数の存在区域
①は a(a-y)x^2=y(y^3+2abx-b^2y) と変形できるので,
(a-y)y(y^3+2abx-b^2y)\lt 0
をみたす範囲に関数は存在しない.

また,①は
a(a-y)x^2-2abyx+b^2y^2-y^4=0
と変形できるので,これを x についての2次方程式とみて判別式が正となる条件から
=ay^3(b^2+ay-y^2)\geqq 0
が得られ,
\dfrac{a-\sqrt{a^2+4b^2}}{2}\lt y\lt 0\dfrac{a-\sqrt{a^2+4b^2}}{2}\leqq y
をみたす範囲に関数は存在しない.

以上 (a)-(d) をまとめると次図のようになる(横軸が y,縦軸が x となるように図示してある).ここで網掛け部分には関数が存在しないことを表している.


さて,\dfrac{dy}{dx}=0 となるためには,①および②=0連立方程式を解けば良い.

=0より y\neq a であり,x=\dfrac{by}{a-y} であるから,これを①に代入して整理すると,
\dfrac{b^2y^4-y^3\{ab^2+y(a-y)^2\}}{(a-y)^2}=\dfrac{y^3(y^2-ay-b^2)}{a-y}
から y=0 または y^2-ay-b^2=0 だから
y=0,\dfrac{a\pm \sqrt{a^2+4b^2}}{2}
となることが必要である.y=0 のとき①からx=0となるが,特異点である原点の考察は既にしてある.

y=\dfrac{a\pm \sqrt{a^2+4b^2}}{2} のとき,複号同順で x=-\dfrac{(a\pm \sqrt{a^2+4b^2})}{4b} となり,③\neq 0となるので,この2点では滑らかであり接線は x 軸に平行となる.

さて①は
a(a-y)x^2-2abyx+b^2y^2-y^4=0
と変形できるので
x=\dfrac{aby\pm\sqrt{a^2b^2y^2-a(a-y)(b^2y^2-y^4)}}{a(a-y)}
=\dfrac{aby\pm\sqrt{ay^3(b^2+ay-y^2)}}{a(a-y)}
が成立する.よって
x=f(y)=\dfrac{aby+\sqrt{ay^3(b^2+ay-y^2)}}{a(a-y)}
x=g(y)=\dfrac{aby-\sqrt{ay^3(b^2+ay-y^2)}}{a(a-y)}
のグラフを合わせたものとなる.これらグラフの定義域は既に根号内が非負となる条件を調べたことを利用すると
y\leqq \dfrac{a-\sqrt{a^2+4b^2}}{2}0\leqq y\leqq \dfrac{a-\sqrt{a^2+4b^2}}{2}(但し y\neq a
であることがわかる.ここで条件y^2-ay-b^2=0\dfrac{dy}{dx}=0 で登場する条件であるから,y=\dfrac{a\pm\sqrt{a^2+4b^2}}{2} においては,2つの曲線が x 軸に平行な接線をもつように滑らかに繋がっていることがわかる.

なお,①でy=a とおくと x=\dfrac{b^2-a}{2b} となるので,(y,x)=\left(a,\dfrac{b^2-a}{2b}\right) は曲線上にあるが,\displaystyle\lim_{y\to a}\sqrt{ay^3(b^2+ay-y^2)}=a^2b であることに注意すると,
\displaystyle\lim_{y\to a-0}f(y)=+\infty\displaystyle\lim_{y\to a+0}f(y)=-\infty
であるから,この点は x=f(y) 上にはなく,x=g(y)y=a における極限値である.よって x=g(y)y=a で連続であり,この点は特異点ではないのでこの点で滑らかである.

以上から,求める曲線の形は次のようになる(横軸が y,縦軸が x となるように図示してある).



(わかりにくいが,既に考察したように y=\dfrac{a-\sqrt{a^2+4b^2}}{2}x=-\dfrac{(a-\sqrt{a^2+4b^2})}{4b} において x=f(y)x=g(y) は滑らかに繋がっている)

なお,①,つまり①{}'である
y^4+ax^2y-a^2x^2+2abxy-b^2y^2=0
y についての4次方程式と考えれば, f(y)=0 から y=-b,0g(y)=0 から y=0,b であることに注意すると,x が正で非常に小さいときは4つの実数解をもつことがわかる.このことと原点以外に特異点がないことから,① の原点から伸びる2つの枝と (y,x)=(b,0)(y,x)=(-b,0) から伸びる枝の合計4本の枝は x0 から増加するに従って単調でなければならない(でないと4次方程式が5個目の解をもってしまう).このことから x=g(y) の2本の枝は,関数の連続性から微分可能な形で繋がることになるので,ある \alpha0\lt \alpha\lt b)が存在して

y 0 \cdots \alpha \cdots b
x=g(y) 0 \nearrow 極大 \searrow 0

のような増減となることがわかり,0\leqq x\leqq g(\alpha) の範囲で x=f(y) の2本の枝も単調に変化することがわかる.

(注:x\lt 0g(\alpha)\lt xの範囲で y の4次方程式が2つの実数解と2つの虚数解をもつことを示せば,この区間における f(y),g(y) の単調性も示すことができるが,判別式を計算したりするのが大変そうなので挫折した)

a,b\gt 0 は約分の際に使っているが,a\gt b は使ってない.この条件は強いて言えば,漸近線 y=ay 切片 (y,x)=(b,0) の位置関係を表している.

2022.08.22記
曲線の追跡で良く用いられる手法として y=mx との交点によるパラメータ表示を用いるものがある.

(ax-by)^2=y(ax^2+y^3) 上で x=0 となるのは b^2y^2=y^4 より y=-b,0,b である.

x\neq 0 のとき,
(ax-by)^2=y(ax^2+y^3)y=mx より,
(ax-bmx)^2=y(ax^2+m^3x^3)
となり,x\neq 0 から
m^4x^2+max-(a-bm)^2=0
となる.m=0 とすると a=0 となって題意に反するので m\neq 0 だから
(x,y)=\left(\dfrac{-ma+\sqrt{m^2a^2+4m^4(a-bm)^2}}{2m^4},\dfrac{-ma+\sqrt{m^2a^2+4m^4(a-bm)^2}}{2m^3}\right)
\left(\dfrac{-ma-\sqrt{m^2a^2+4m^4(a-bm)^2}}{2m^4},\dfrac{-ma-\sqrt{m^2a^2+4m^4(a-bm)^2}}{2m^3}\right)
とパラメータ表示することができる.よって \dfrac{dx}{dm}\dfrac{dy}{dm} を考えて曲線を追跡することもできるが,やはり面倒である.なお,そのまま微分するよりも,m の符号で場合分けする方が少し楽になる.というのも
\sqrt{m^2a^2+4m^4(a-bm)^2}=|m|\sqrt{a^2+4m^2(a-bm)^2}={\rm sign}\,(m)\cdot m\sqrt{a^2+4m^2(a-bm)^2}
だから m で約分することができ,以降の処理において {\rm sign}\,(m)の値を確定させた方が易しいからである.