[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1992年(平成4年)東京大学前期-数学(理科)[6]

2024.01.07記

[6] \mbox{A}\mbox{B} の二人がじゃんけんをして,グーで勝てば 3 歩,チョキで勝てば 5 歩,パーで勝てば 6 歩進む遊びをしている.1 回のじゃんけんで \mbox{A} の進む歩数から \mbox{B} の進む歩数を引いた値の期待値を E とする.

(1) \mbox{B} がグー,チョキ,パーを出す確率がすべて等しいとする.\mbox{A} がどのような確率でグー,チョキ,パーを出すとき,E の値は最大となるか.

(2) \mbox{B} がグー,チョキ,パーを出す確率の比が a:b:c であるとする.\mbox{A} がどのような確率でグー,チョキ,パーを出すならば,任意の abc に対し,E\geqq 0 となるか.

2024.01.07記

[解答]
1 回のじゃんけんで \mbox{A} の進む歩数から \mbox{B} の進む歩数を引いた値は

\mbox{A} がグーで勝てば 3,負ければ -6
\mbox{A} がチョキで勝てば 5,負ければ -3
\mbox{A} がパーで勝てば 6,負ければ -5

であり,引き分けの場合は 0 である.

(1) \mbox{A} がグー,チョキ,パーを出す確率を p:q:rp+q+r=1)とすると
E=p\cdot\dfrac{3+0-6}{3}+q\cdot\dfrac{5+0-3}{3}+r\cdot\dfrac{6+0-5}{3}=\dfrac{-3p+2q+r}{3}
が成立する.欲張り者の不等式より
E\leqq \dfrac{-3\cdot 0+2\cdot 1+r\cdot 0}{3}=\dfrac{2}{3}
で等号成立はp=r=0,q=1 のとき.
よって求める答は確率1でチョキを出す.

(2) A=\dfrac{a}{a+b+c}B=\dfrac{b}{a+b+c}C=\dfrac{c}{a+b+c} とおくと
A+B+C=1であり,
E=p\cdot\dfrac{3B+0A-6C}{3}+q\cdot\dfrac{5C+0B-3A}{3}+r\cdot\dfrac{6A+0C-5B}{3}
=\dfrac{(-3q+6r)A+(-5r+3p)B+(-6p+5q)C}{3}
が成立する.これが任意の正または0の実数A,B,CA+B+C=1)について成立するためには,
(A,B,C)=(1,0,0),(0,1,0),(0,0,1) で成立する必要があり,このとき
-3q+6r\geqq 0-5r+3p\geqq 0-6p+5q\geqq 0
が必要で,このとき E は正または0の実数の積の和となるので十分である.

よって求める必要十分条件
-3q+6r\geqq 0-5r+3p\geqq 0-6p+5q\geqq 0p+q+r=1
つまり
6r\geqq 3q3p\geqq 5r5q\geqq 6pp+q+r=1
となる.

ここで p=0 と仮定すると 0=3p\geqq 5r から r=0 となり 6r\geqq 3q から q=0 となるので,p+q+r=0 となって矛盾する.同様に q=0r=0 としても矛盾が生じるので pqr\neq 0 である.

6r\geqq 3q3p\geqq 5r5q\geqq 6p
が不等式の辺々を掛けると
90pqr\geqq 90pqr
となり,pqr\neq 0 から 90\geqq 60 となるが,これは等号が成立するので結局
6r=3q3p=5r5q=6p
となり,p:q:r=5:6:3 となる.

以上から,グーをp=\dfrac{5}{14},チョキをq=\dfrac{3}{7},パーをr=\dfrac{3}{14} の確率で出せば良い.

このとき,E=0 となりますが,相手の立場に立てば,必ず勝つ方法はなく引き分けに持ち込むのが関の山であることがわかります.

[うまい解答]
(2) もし任意の abc に対し,E\gt 0 となる出し方が存在するならば,相手も同じ出し方をした場合に E\lt 0 となってしまうので矛盾する.よってもし任意の abc に対し,E\geqq 0 となる出し方が存在するならば,それは E=0 でなければならない.

A=\dfrac{a}{a+b+c}B=\dfrac{b}{a+b+c}C=\dfrac{c}{a+b+c} とおくと
A+B+C=1であり,
E=p\cdot\dfrac{3B+0A-6C}{3}+q\cdot\dfrac{5C+0B-3A}{3}+r\cdot\dfrac{6A+0C-5B}{3}
=\dfrac{(-3q+6r)A+(-5r+3p)B+(-6p+5q)C}{3}
となるが,E=0 が任意の正または0の実数A,B,CA+B+C=1)について成立することから
-3q+6r=-5r+3p=-6p+5q=0
が必要で,このとき確かにE=0 が任意の正または0の実数A,B,CA+B+C=1)について成立するので十分である.

-3q+6r=-5r+3p=-6p+5q=0p+q+r=1 をみたす p,q,rp=\dfrac{5}{14}q=\dfrac{3}{7}r=\dfrac{3}{14} と唯一存在するので,グーをp=\dfrac{5}{14},チョキをq=\dfrac{3}{7},パーをr=\dfrac{3}{14} の確率で出せば任意の abc に対し,E=0 となる.