[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1982年(昭和57年)東京大学-数学(文科)[4]

2023.08.23記

[4] A=\begin{pmatrix} \dfrac{1}{2} & -\dfrac{1}{2} \\ 0 & 1  \end{pmatrix}B=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ -\dfrac{1}{2} & \dfrac{1}{2}  \end{pmatrix} とおく.xy 平面において,(1,1) を座標とする点 \mbox{P}_0 から始めて,点列 \mbox{P}_0\mbox{P}_1\mbox{P}_2,…,をつぎのような手続きで作っていく.\mbox{P}_n の座標を(x_n,y_n) とするとき,

(イ) x_n+y_n\geqq\dfrac{1}{100} のときは,(x_{n+1},y_{n+1})\begin{pmatrix} x_{n+1} \\ y_{n+1}\end{pmatrix}=A\begin{pmatrix} x_n \\ y_n\end{pmatrix} または \begin{pmatrix} x_{n+1} \\ y_{n+1}\end{pmatrix}=B\begin{pmatrix} x_n \\ y_n\end{pmatrix} のどちらかが成りたつように決める.

(ロ) x_n+y_n\lt \dfrac{1}{100}のときは,(x_{n+1},y_{n+1})\begin{pmatrix} x_{n+1}\\y_{n+1}\end{pmatrix}=A\begin{pmatrix} x_n\\y_n\end{pmatrix} によって決める.

このようにするといろいろな点列ができるが,それらについてつぎの問に答えよ.

(1) \mbox{P}_2 として可能な点をすべて求め,図示せよ.

(2) x_n+y_nn で表わせ.

(3) \mbox{P}_{10} として可能な点は何個あるか.

本問のテーマ
2進法(2023.08.23)

2020.11.27記

(2023.08.23追記
y_1=1,0
y_2=1,\dfrac12,0,-\dfrac12
y_2=1,\dfrac{3}{4},\dfrac12,\dfrac14,0,-\dfrac14,-\dfrac12,-\dfrac{3}{4}
となるので 2^{n-1}y_n=Y_n
Y_1=1
Y_2=2,1,0,-1
Y_3=4,3,2,1,0,-1,-2,-3
となる.よって,)

X_n=2^{n-1}x_nY_n=2^{n-1}Y_n とおくと簡単になる.
多くの解答では(3)の論証が難しいと書いてあるが上記の置き換えだとそんなに難しくない.

[解答]
(1) \begin{pmatrix} x_1 \\ y_1 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \end{pmatrix},\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix} により
\begin{pmatrix} x_2 \\ y_2 \end{pmatrix}=\dfrac{1}{2}\begin{pmatrix} -1 \\ 2 \end{pmatrix}\dfrac{1}{2}\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \end{pmatrix},\dfrac{1}{2}\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix},\dfrac{1}{2}\begin{pmatrix} 2 \\ -1 \end{pmatrix}

(2) \begin{pmatrix} x_{n+1} \\ y_{n+1} \end{pmatrix}=\dfrac{1}{2}\begin{pmatrix} x_n-y_n \\ 2y_n \end{pmatrix} または \dfrac{1}{2}\begin{pmatrix} 2x_n \\ -x_n+y_n \end{pmatrix} だから,いずれにせよ
x_{n+1}+y_{n+1}=\dfrac{1}{2}(x_n+y_n)
となり,x_1+y_1=2 から x_n+y_n=\dfrac{1}{2^{n-1}}

(3) X_n=2^{n-1}x_nY_n=2^{n-1}y_n とおくとX_n+Y_n=1Y_n\begin{pmatrix} X_{n} \\ Y_{n} \end{pmatrix} は一対一に対応するので,Y_n の個数を数えれば良い.

ここで Y_0=\dfrac{1}{2} で整数ではないので,Y_1=0 または 1 から出発して考える.

X_n+Y_n \geqq \dfrac{2^{n-1}}{100},つまり 1\leqq n\leqq 7 のとき,
Y_{n+1}=2Y_n または 2Y_n-1 であり,
2Y_n2Y_n-1 の奇遇は異なるから,{\rm P}_{n+1} として可能な点の個数は{\rm P}_{n} として可能な点の個数の丁度2倍になる.

X_n+Y_n \lt \dfrac{2^{n-1}}{100},つまり n\geqq 8 のとき,
Y_{n+1}=Y_n であるから,{\rm P}_{n+1} として可能な点の個数は{\rm P}_{n} として可能な点の個数と同じになる.

よって,{\rm P}_{10} として可能な点の個数は {\rm P}_{8} として可能な点の個数と等しく,{\rm P}_{1} として可能な点の個数 22^7 倍の 2^8=256
Y_8となりうるのは-127 以上 128 以下の256個の整数)

2023.08.23記
[解答] の議論をより精密にするには

Y_n1\leqq n\leqq 8)のとり得る値は -2^{n-1}+1\leqq N\leqq2^{n-1} なる全ての整数であることを帰納法で示せば良い.

Y_1=1 はOK
Y_k でOKのとき
2Y_k-2^{k}+2\leqq N\leqq2^{k} なる全ての偶数,
2Y_k-1-2^{k}-1\leqq N\leqq2^{k}-1 なる全ての奇数
となりうるので,Y_k-2^{k}-1+2\leqq N\leqq2^{k} なる全ての整数となりうる.

ということになる.

[解答]では Y_n を数えたが,X_n+Y_n=1 のペアである Z_n=X_n-Y_n を数えても良い.このとき Z_n-2^{n+1}+1から 2^{n+1}-1 の全ての奇数をとり得ることになる.

[別解]
(3) X_n=2^{n-1}x_nY_n=2^{n-1}y_n とおくとX_n+Y_n=1Z_n=X_n-Y_n\begin{pmatrix} X_{n} \\ Y_{n} \end{pmatrix} は一対一に対応するので,Z_n の個数を数えれば良い.

ここで Z_0=0 であり,
\begin{pmatrix} X_{n+1} \\ Y_{n+1} \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} X_n-Y_n \\ 2Y_n \end{pmatrix} または \begin{pmatrix} 2X_n \\ -X_n+Y_n \end{pmatrix} だから,
X_n=\dfrac{1+Z_n}{2}Y_n=\dfrac{1-Z_n}{2}
により,
Z_{n+1}=X_n-3Y_n=2Z_n-1 または 2Z_n+1
となる.

X_n+Y_n \geqq \dfrac{2^{n-1}}{100},つまり 1\leqq n\leqq 7 のとき,
Z_{n+1}=2Z_n\pm 1Z_0=0
から ,帰納的に
Z_{n+1}-2^{n+1}+1から2^{n+1}-1 までの任意の奇数となり得るので,2^{n+1} 個の値をとり得る.

X_n+Y_n \lt \dfrac{2^{n-1}}{100},つまり n\geqq 8 のとき,
Z_{n+1}=2Z_n-1 であるから,{\rm P}_{n+1} として可能な点の個数は{\rm P}_{n} として可能な点の個数と同じになる.

よって,{\rm P}_{10} として可能な点の個数は {\rm P}_{8} として可能な点の個数と等しく,2^8=256

Y_{n+1}=2Y_n または 2Y_n-1 から2進数が想起される.これを
W_{n+1}=2W_n または 2W_n+1 となるように工夫すると負の2進数が登場しなくなって良い.

[うまい解答]
([解答]の途中から)
W_n=Y_n+2^{n}-1 とおくと
W_0=1W_{n+1}=2W_n+1 または 2W_n
が成立する.2進数で考えると,W_{n+1}=2W_n+1 または 2W_n は末尾に1または0の数字を追加することに相当する

X_n+Y_n \geqq \dfrac{2^{n-1}}{100},つまり 1\leqq n\leqq 7 のとき,
2進数で考えると,W_{n+1}=2W_n+1 または 2W_n は末尾に1または0の数字を追加することから,
{\rm P}_{n+1} として可能な点の個数は{\rm P}_{n} として可能な点の個数の丁度2倍になる.

X_n+Y_n \lt \dfrac{2^{n-1}}{100},つまり n\geqq 8 のとき,
2進数で考えると,W_{n+1}=2W_n+1 は末尾に1を追加することから,
{\rm P}_{n+1} として可能な点の個数は{\rm P}_{n} として可能な点の個数と同じになる.

よって,{\rm P}_{10} として可能な点の個数は {\rm P}_{8} として可能な点の個数と等しく,{\rm P}_{1} として可能な点の個数 22^7 倍の 2^8=256

W_{10} として可能な数は,2進数で表現すると 11桁の2進数で、最上位と下2桁が1であるものとなり,
4k+20510\leqq k\leqq 255
となる.