[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1989年(昭和64年)東京大学-数学(文科)[3]

[3] 虚部が正の複素数の全体を H とする.
すなわち,H=\{z=x+iy\,|\ x,y は実数で y\gt 0 \}とする.以下 zH に属する複素数とする.q を正の実数とし,f(z)=\dfrac{z+1-q}{z+1} とおく.

(1) f(z) もまた H に属することを示せ.

(2) f_1(z)=f(z) と書き,以下 n=2,3,4,\cdots に対して
 f_2(z)=f(f_1(z))f_3(z)=f(f_2(z))\cdotsf_n(z)=f(f_{n-1}(z))\cdots
とおく.このとき,各 n に対して
f_n(z)=\dfrac{r_nz+(1-q)s_n}{s_nz+r_n}, \quad 
{r_n}^2-(1-q){s_n}^2=q^n
が成り立つような z によらない実数 r_n,s_n がとれることを示せ.

2021.01.23記

詳細は 1989年(昭和64年)東京大学-数学(理科)[3] - [別館]球面倶楽部零八式markIISR 参照.

[解答]
(1) f(z)=1-\dfrac{q}{z+1}=1+\dfrac{q(-\bar{z}+1)}{|z+1|^2}
だから,f(z) の虚部は \dfrac{-q\bar{z}}{|z+1|^2} の虚部に等しく,これは z の虚部の \dfrac{q}{|z+1|^2}(\gt 0) 倍である.

よって,z の虚部が正ならば,f(z) の虚部も正となり,z\in H ならば f(z)\in H

(2) A=\begin{pmatrix} 1 & 1-q \\ 1 & 1 \end{pmatrix} とおくと \begin{pmatrix} f(z) \\ 1 \end{pmatrix}=A\begin{pmatrix} z \\ 1 \end{pmatrix} が成立する.
J=\begin{pmatrix} 0 & 1-q \\ 1 & 0\end{pmatrix} とおくと J^2=(1-q)I だから A^n=(I+J)^n=r_nI+s_nJ となる r_n,s_n が存在し,このとき A^n=\begin{pmatrix} r_n & (1-q)s_n \\ s_n & r_n\end{pmatrix} となるので,f_n(z)=\dfrac{r_n z+(1-q)s_n}{s_n z+r_n} なる r_n,s_n をとることができる.

このとき,\mbox{det}A=q により\mbox{det}A^n=q^n だから r_n^2-(1-q)s_n^2=q^n が成立する.

文系なので普通は帰納法でやる.

[解答]
r_1=s_1=1 とおくと,f_1(z)=\dfrac{r_1z+(1-q)s_1}{s_1z+r_1}r_1^2-(1-q)s_1^2=1-(1-q)=q より n=1 で成立.

n における成立を仮定すると,
f_n(z)=\dfrac{r_n z+(1-q)s_n}{s_n z+r_n}r_n^2-(1-q)s_n^2=q^n なる r_n,s_n が存在し,

このとき
f_{n+1}(z)=\dfrac{(r_n+(1-q)s_n) z+(1-q)(s_n+r_n)}{(s_n+r_n) z+(r_n+(1-q)s_n)} となるので
r_{n+1}=r_n+(1-q)s_n,s_{n+1}=r_n+s_n とおくことができ,
r_{n+1}^2-(1-q)s_{n+1}^2=q(r_n^2-(1-q)s_n^2)=q^{n+1} が成立するので n+1 でも成立する.

よって数学的帰納法により任意の自然数 n について題意が成立する.

2021.06.11記

懐しい資料が見つかった

(1)ができないと話にならない.(2)は,数学的帰納法以外には考えられないだろうと思ったのだが,高等学校の教科書では分数式の取扱いが不十分である.そのため本問の様に,複素数の集合 H の上の写像という形で出題せざるを得なかった.