[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2008年(平成20年)東京大学前期-数学(文科)[3]

本問のテーマ
三角形の正しい合同条件(2021.02.06)

2021.02.06記

[解答]

{\rm P}(x,y))(\rm P\neq A,B,C) とおくと,\dfrac{\vec{\rm PA}\cdot\vec{\rm PC}}{|\vec{\rm PA}|\,|\vec{\rm PC}|}=
\dfrac{\vec{\rm PB}\cdot\vec{\rm PC}}{|\vec{\rm PB}|\,|\vec{\rm PC}|} であるから,|\vec{\rm PC}| を約して,
\dfrac{x(1-x)-y(1+y)}{\sqrt{(1-x)^2+y^2}}=\dfrac{-x(1+x)-y(1+y)}{\sqrt{(1+x)^2+y^2}}
つまり R=x^2+y^2 とおくと
(R-x+y)\sqrt{R+2x+1}=(R+x+y)\sqrt{R-2x+1}
が成立する.

よって,
(R-x+y)(R+x+y)\geqq 0 かつ (R-x+y)^2(R+2x+1)=(R+x+y)^2(R-2x+1)
が必要十分.整理して
(R-x+y)(R+x+y)\geqq 0 かつ xy(R-1)=0,つまり
\Bigl\{ \Bigl(x-\dfrac{1}{2}\Bigr)^2+\Bigl(y+\dfrac{1}{2}\Bigr)^2-\dfrac{1}{4}\Bigr\}\Bigl\{ \Bigl(x+\dfrac{1}{2}\Bigr)^2+\Bigl(y+\dfrac{1}{2}\Bigr)^2-\dfrac{1}{4}\Bigr\}\geqq 0 かつ xy(x^2+y^2-1)=0
となるので,

x 軸,y 軸,単位円の合併集合のうち,
2つの円 \Bigl(x-\dfrac{1}{2}\Bigr)^2+\Bigl(y+\dfrac{1}{2}\Bigr)^2=\dfrac{1}{4} および \Bigl(x+\dfrac{1}{2}\Bigr)^2+\Bigl(y+\dfrac{1}{2}\Bigr)^2=\dfrac{1}{4} 両方の外側または両方の内側にある部分から \rm A,B,C を除いた部分となる.式で書けば

x=0(|x|\gt 1) または y=0(y\neq -1) または x^2+y^2=1(y\gt 0)

f:id:spherical_harmonics:20220317130148p:plain:w300

初等幾何で考える場合は次のようになる.ここで,角度には正の向きと負の向きがあるので \rm P
直線 \rm AC と直線 \rm BC によって分けられる4つの領域のいずれにあるかで場合分けが生じる.

また,三角形の合同条件で,二辺と一角では駄目な理由を思い出したい.

[うまい解答]

\triangle\rm PAC\triangle\rm PBC について,
\rm AC=BC\rm PC=PC\angle\rm APC=\angle BPC であるから,

(a)\angle \rm PAC=\angle\rm PBC(\triangle \rm PAC\equiv\triangle\rm PBC)
または
(b)\angle \rm PAC+\angle\rm PBC=\pi

である.さて,\rm P が直線 \rm AC 上にあるとき,\angle\rm APC=0 または \pi0\lt \angle\rm BPC\lt\pi だから不適であり,\rm P\neq A,B,C が直線 \rm BC 上にあるときも同様に不適であるから,\rm P は直線 \rm AC 上にも直線 \rm BC 上にもなく,座標平面を直線 {\rm AC}:y=x+1 と直線 {\rm BC}:y=-x+1 によって4つの部分に分けた境界の除くいずれかの領域にある場合を考えれば良い.ここでそれぞれの領域を \rm C の右側,上側,左側,下側と呼ぶことにする.

(i) {\rm P}\rm C の右側にあるとき:
\rm PA\lt PB だから (a) にはならない .
(b) であるための条件は \rm P,A,B がこの順に一直線上にあることである.
よって,\rm Px 軸上で \rm A の右側にあることが必要十分.

(ii) {\rm P}\rm C の左側にあるとき:
\rm PA\gt PB だから (a) にはならない .
(b) であるための条件は \rm P,B,A がこの順に一直線上にあることである.
よって,\rm Px 軸上で \rm B の左側にあることが必要十分.

(iii) {\rm P}\rm C の上側にあるとき:
(a) であるための条件は \rm PA=PB となり,\rm P\rm AB の垂直2等分線である y 軸上にあることである.
(b) であるための条件は向かい合う角度の和が \pi となる条件だから,4点 C,A,P,B は同一円周上にあることだから,\rm P\rm A,B,C を通る円である単位円周上にあることである.
よって,\rm Py 軸上または単位円周上にあることが必要十分.

(iv) {\rm P}\rm C の下側にあるとき:
(a) であるための条件は \rm PA=PB となり,\rm P\rm AB の垂直2等分線である y 軸上にあることである.
\angle \rm PAC,\angle\rm PBC は鋭角だから (b)にはならない.
よって,\rm Py 軸上にあることが必要十分.

以上を図示すれば良い.

幾何で押し通そうとすると,条件を見落しがちになるのでかなり面倒である.角度には正の向きと負の向きがあるので4通りの場合分け(同符号、異符号の2通りでも良い)を行なって4点の位置関係に制限をつけるのが良いだろう.符号付き角度を考える場合は複素数が比較的見通しが良い.

[大人の解答]

{\rm P}(z)z=x+yi とし,{\rm A}(1){\rm B}(-1){\rm C}(-i) とすると,
\arg\dfrac{1-z}{-i-z}=\pm\arg\dfrac{-1-z}{-i-z}(z\neq \pm1,-i)
\Longleftrightarrow\arg\dfrac{z-1}{z+i}=\pm\arg\dfrac{z+1}{z+i}(z\neq \pm1,-i)
必要十分条件

(i)\arg\dfrac{z-1}{z+i}=\arg\dfrac{z+1}{z+i} のとき:
\dfrac{(z-1)(z+i)}{(z+i)(z+1)}=\dfrac{z-1}{z+1}=\dfrac{(z-1)(\bar{z}+1)}{|z+1|^2}=\dfrac{|z|^2-1+2yi}{|z+1|^2} は正の実数である.
よって y=0 かつ |z|=|x|\gt 1

(ii)\arg\dfrac{z-1}{z+i}=-\arg\dfrac{z+1}{z+i} のとき:
\dfrac{(z-1)(z+1)}{(z+i)^2} は正の実数である.
よって
\dfrac{(z+i)^2}{(z-1)(z+1)}=\dfrac{z^2+2iz-1}{z^2-1}=1+\dfrac{2iz}{z^2-1} も正の実数である.
よって \dfrac{2iz}{z^2-1}-1 より大きい実数である.

z=0 は条件に適するので,z\neq 0 で考える.

\dfrac{z^2-1}{2iz}=\dfrac{1}{2}\Bigl(\dfrac{1}{z}-z\Bigr)i=\dfrac{1}{2}\Bigl(\dfrac{\bar{z}}{|z|^2}-z\Bigr)i
-1 より小さいか正の実数である.

この虚部が \dfrac{1}{2}x\Bigl(\dfrac{1}{|z|^2}-1\Bigr) となることに注意すると,
(a) |z|=1 のとき,\dfrac{1}{2}(\bar{z}-z^2)i=y だから y\gt 0
(b) x=0 のとき,\dfrac{1}{2}\Bigl(\dfrac{\bar{z}}{|z|^2}-z\Bigr)i=\dfrac{1}{2}\Bigl(y+\dfrac{1}{y}\Bigr) だから,
\dfrac{1}{2}\Bigl(y+\dfrac{1}{y}\Bigr)-1 より小さいか正の実数となるような y の範囲は y\in\mathbb{R} となる.

以上から,y=0(|x|\gt 1) または x^2+y^2=1(y\gt 0) または x=0(y\in\mathbb{R}) から \rm A,B,C を除いたもの.