[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

1975年(昭和50年)東京大学-数学(理科)[6]

2023.08.11記

[6] 赤球が一個と白球が三個入った容器 \mbox{A} と,ほかに赤球と白球の入った容器 \mbox{B}\mbox{C} がある.いま,\mbox{A}\mbox{B}\mbox{C} から無作為に一個ずつ合計三個の球を取り出し,これらからやはり無作為に一個をとって \mbox{A} にかえすという操作をくり返す.ただし容器 \mbox{B} から赤球が取り出される確率と白球が取り出される確率とは共に\dfrac{1}{2} に保たれており,容器 \mbox{C} からはつねに赤球が取り出されるものとする.

(i) 上記の操作を n 回くり返したとき,容器 \mbox{A}x 個の赤球が入っている確率を P_n(x)
n=123,…で表せば,関係式
 P_{n+1}(x)=\dfrac{1}{12}(6+x)P_n(x)+\dfrac{1}{24}(1+x)P_n(x+1)+\dfrac{1}{8}(5-x)P_n(x-1)
が成り立つことを証明せよ.ただし x\leqq -1 または x\geqq 5 のときは P_n(x)=0 と定める.

(ii) n 回目の操作を終えたとき \mbox{A} の中にある赤球の数の期待値 E_n を求めよ.

(iii) \displaystyle\lim_{n\to\infty} E_nを求めよ.

本問のテーマ

2023.08.12記
最終的には,3つの容器を全部混ぜてから4個の球を選んだときの赤球の個数の期待値が E_{\infty} となる.
容器 \mbox{B}\mbox{C} には無限個の球があり,容器 \mbox{B}\mbox{C} と1個ずつ球を取り出すのだから,全体ではほぼ75%の赤玉があることとなるので,
赤玉の割合の期待値は 75% となるので,E_{\infty}=3 となることがわかる.

[解答]
(i) \mbox{A}から赤が出た場合,\mbox{A}に赤が戻る確率は
 \dfrac{1}{3}+ \dfrac{1}{2}\cdot \dfrac{1}{3}+ \dfrac{1}{3}=\dfrac{5}{6}
であり,
\mbox{A}から白が出た場合,\mbox{A}に赤が戻る確率は
\dfrac{1}{2}\cdot \dfrac{1}{3}+ \dfrac{1}{3}=\dfrac{1}{2}
だから
P_{n+1}(x)=P_n(x)\Bigl(\dfrac{x}{4}\cdot\dfrac{5}{6}+\dfrac{4-x}{4}\cdot\dfrac{1}{2}\Bigr)+P_n(x+1)\cdot\dfrac{x+1}{4}\cdot\dfrac{1}{6}+P_n(x-1)\Bigl(1-\dfrac{x-1}{4}\Bigr)\cdot\dfrac{1}{2}
となる.これを整理して,
 P_{n+1}(x)=\dfrac{1}{12}(6+x)P_n(x)+\dfrac{1}{24}(1+x)P_n(x+1)+\dfrac{1}{8}(5-x)P_n(x-1)
を得る.

(ii) (i) で x=1,2,3,4 とおくと
P_{n+1}(1)=\dfrac{1}{2}P_n(0)+\dfrac{7}{12}P_n(1)+\dfrac{1}{12}P_n(2)

P_{n+1}(2)=\dfrac{3}{8}P_n(1)+\dfrac{2}{3}P_n(2)+\dfrac{1}{8}P_n(3)

P_{n+1}(3)=\dfrac{1}{4}P_n(2)+\dfrac{3}{4}P_n(3)+\dfrac{1}{6}P_n(4)

P_{n+1}(4)=\dfrac{1}{8}P_n(3)+\dfrac{5}{6}P_n(4)

となるので,期待値は
E_{n+1}=P_{n+1}(1)+2P_{n+1}(2){}+3P_{n+1}(3)+4P_{n+1}(4)
=\dfrac{1}{6}\{3P_n(0)+8P_n(1)+13P_n(2)+18P_n(3)+23P_n(4)\}
となる.ここで
\displaystyle\sum_{n=0}^{4}P_n(x)=1
であるから,
E_{n+1}=\dfrac{1}{6}\{3+5P_n(1)+10P_n(2)+15P_n(3)+20P_n(4)\}=\dfrac{1}{6}(3+5E_n)
となる.この2項間漸化式を解くと
E_{n+1}-3=\Bigl(\dfrac{5}{6}\Bigr)^{n+1}(E_0-3)
となるので,
E_n=3+\Bigl(\dfrac{5}{6}\Bigr)^{n}(E_0-3)=3-2\Bigl(\dfrac{5}{6}\Bigr)^{n}
を得る.

(iii) n\to\inftyのときE_n\to 3 である.

P_{n+1}(0)=\dfrac{1}{2}P_n(0)+\dfrac{1}{24}P_n(1)

P_{n+1}(1)=\dfrac{1}{2}P_n(0)+\dfrac{7}{12}P_n(1)+\dfrac{1}{12}P_n(2)

P_{n+1}(2)=\dfrac{3}{8}P_n(1)+\dfrac{2}{3}P_n(2)+\dfrac{1}{8}P_n(3)

P_{n+1}(3)=\dfrac{1}{4}P_n(2)+\dfrac{3}{4}P_n(3)+\dfrac{1}{6}P_n(4)

P_{n+1}(4)=\dfrac{1}{8}P_n(3)+\dfrac{5}{6}P_n(4)

だから,

\vec{x}_n=\begin{pmatrix} P_{n}(0) \\ P_{n}(1) \\ P_{n}(2) \\ P_{n}(3) \\ P_{n}(4) \end{pmatrix}
A=\dfrac{1}{24}\begin{pmatrix} 12 & 1 & 0 & 0 & 0 \\ 12 & 14 & 2 & 0 & 0 \\ 0 & 9 & 16 & 3 & 0 \\  0 & 0 & 6 & 18 & 4 \\ 0 & 0 & 0 & 3 & 20 \end{pmatrix} とおくと \vec{x}_0=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix}\vec{x}_{n+1}=A\vec{x}_n が成立する.

ここで E_n=\begin{pmatrix} 0 & 1 & 2 & 3 & 4 \end{pmatrix}\vec{x}_n
であるから,
E_{n+1}=\dfrac{1}{24}\begin{pmatrix} 12 \\ 32 \\ 52 \\ 72 \\ 92\end{pmatrix}\vec{x}_n
E_{n+1}=\dfrac{1}{2}+\dfrac{5}{6}\begin{pmatrix} 0 & 1 & 2 & 3 & 4\end{pmatrix}\vec{x}_n=\dfrac{1}{2}+\dfrac{5}{6}E_n
となる.

また,A固有値1に対応する固有ベクトル(のうち成分和が1となるもの)は
\dfrac{1}{256}\begin{pmatrix} 1 \\ 12 \\ 54 \\ 108 \\ 81\end{pmatrix}
となるので,十分大きな n に対しては
P_{n}(0)\approx\dfrac{1}{256}
P_{n}(1)\approx\dfrac{3}{64}
P_{n}(2)\approx\dfrac{27}{128}
P_{n}(3)\approx\dfrac{27}{64}
P_{n}(4)\approx\dfrac{81}{256}
が成立し,期待値も
E_n\approx\dfrac{1}{256}\begin{pmatrix} 0 & 1 & 2 & 3 & 4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 \\ 12 \\ 54 \\ 108 \\ 81\end{pmatrix}=3
となる.



A^{\infty}