[別館]球面倶楽部零八式markIISR

東大入試数学中心。解説なので解答としては不十分。出題年度で並ぶようにしている。大人の解法やうまい解法は極めて主観的に決めている。

2026年(令和8年)京都大学理学部特色入試・数理科学入試-数学[1]

2025.11.15記

[1] 平面内の三角形 \triangle\mbox{ABC} を考える.\triangle\mbox{ABC} の面積を S とする.平面内の任意の点 \mbox{P} に対して
\dfrac{16S^2}{9}
\left(\dfrac{1}{\mbox{AB}^2}+\dfrac{1}{\mbox{BC}^2}+\dfrac{1}{\mbox{CA}^2}\right)\leqq \mbox{AP}^2+\mbox{BP}^2+\mbox{CP}^2
が成り立つことを示せ.

本問のテーマ
中線定理
ライプニッツの不等式
分散

2025.11.15記
右辺は \mbox{P}=\mbox{G}(重心)で最小値をとることは有名問題(分散を考えれば一発(後述))なので,
\dfrac{16S^2}{9}\left(\dfrac{1}{\mbox{AB}^2}+\dfrac{1}{\mbox{BC}^2}+\dfrac{1}{\mbox{CA}^2}\right)\leqq \mbox{AG}^2+\mbox{BG}^2+\mbox{CG}^2 を示すことになります.ヘロンの公式を用いて \triangle\mbox{ABC} の3辺の関係式に直そうとすると辺に関する8次式の不等式となってしまいます(後述するように思ったよりも簡単に解けるようです(2025.11.18追記)).\dfrac{S^2}{\mbox{AB}^2} などが登場するので,三角形の面積の様々な捉え方において,「底辺×高さ÷2」を用いることが Best という,流石京大は恐しい出題となっています.という訳で垂線の長さを導入し,重心との関連で中線も導入すると,何と「中線よりも垂線の方が短いですね」という阿呆みたいな自明な不等式に帰着されてしまいます.垂線の長さを導入できるか否かが鍵になったのではないかと思います.

[解答]
\mbox{A}(\vec{a})\mbox{B}(\vec{b})\mbox{C}(\vec{c})\mbox{B}(\vec{p}) とし,\triangle\mbox{ABC} の重心を \mbox{G}(\vec{g}) とおくと
\mbox{AP}^2+\mbox{BP}^2+\mbox{CP}^2
=3|\vec{p}|^2-6\vec{g}\bullet\vec{p}+|\vec{a}|^2+|\vec{b}|^2+|\vec{c}|^2
=3\mbox{GP}^2+\mbox{AG}^2+\mbox{BG}^2+\mbox{CG}^2
が成立するので \mbox{AP}^2+\mbox{BP}^2+\mbox{CP}^2
\mbox{P}=\mbox{G} のときに最小値 \mbox{AG}^2+\mbox{BG}^2+\mbox{CG}^2
をとるので,
\dfrac{16S^2}{9}
\left(\dfrac{1}{\mbox{AB}^2}+\dfrac{1}{\mbox{BC}^2}+\dfrac{1}{\mbox{CA}^2}\right)\leqq \mbox{AG}^2+\mbox{BG}^2+\mbox{CG}^2
を示せば十分.

さて,\mbox{A} から \mbox{BC} への中線の長さを l\mbox{B} から \mbox{CA} への中線の長さを m\mbox{C} から \mbox{AB} への中線の長さを n とし,\mbox{A} から \mbox{BC} への垂線の長さを p\mbox{B} から \mbox{CA} への垂線の長さを q\mbox{C} から \mbox{AB} への垂線の長さを r とすると,
\mbox{GA}=\dfrac{2}{3}l\mbox{GB}=\dfrac{2}{3}m\mbox{GC}=\dfrac{2}{3}n2S=p\mbox{BC}=q\mbox{CA}=r\mbox{AB} から
p^2+q^2+r^2\leqq l^2+m^2+n^2
を示せば良い.ここで中線よりも垂線の方が短かいので
p\leqq lq\leqq mr\leqq n
となるので
p^2+q^2+r^2\leqq l^2+m^2+n^2
が成立し,よって題意の不等式も成立する.

2025.11.17記
初見での方針は S=\dfrac{\mbox{AB}\cdot\mbox{BC}\cdot\mbox{AB}}{4R} と中線定理を用いて得られる \mbox{AG}^2+\mbox{BG}^2+\mbox{CG}^2=\dfrac{1}{3}(\mbox{AB}^2+\mbox{BC}^2+\mbox{CA}^2) を用いて
\mbox{AB}^2\mbox{BC}^2+\mbox{BC}^2\mbox{CA}^2+\mbox{CA}^2\mbox{AB}^2\leqq 3R^2(\mbox{AB}^2+\mbox{BC}^2+\mbox{CA}^2) という不等式を導いた時点で二進も三進もいかなくなったのですが(良く考えれば (x+y+z)^2-3(xy+yz+zx)=\dfrac{1}{2}\{(x-y)^2+(y-z)^2+(z-x)^2\}\geqq 0 に思い至り,\mbox{AB}^2+\mbox{BC}^2+\mbox{CA}^2\leqq 9R^2 を示せば良いのではないかと気づかなければ駄目なのでは?と思います),
ライプニッツの不等式の3通りの証明 | 高校数学の美しい物語
というものがあって(言われたらそういう不等式もあったなぁと思い出したのですが),それを用いると
3(\mbox{AB}^2\mbox{BC}^2+\mbox{BC}^2\mbox{CA}^2+\mbox{CA}^2\mbox{AB}^2)\leqq (\mbox{AB}^2+\mbox{BC}^2+\mbox{CA}^2)^2
を示せば良くなり,
(\mbox{AB}-\mbox{BC})^2+(\mbox{BC}-\mbox{CA})^2+(\mbox{CA}-\mbox{AB})^2\geqq 0
から証明できました.

[解答]
\mbox{A}(\vec{a})\mbox{B}(\vec{b})\mbox{C}(\vec{c})\mbox{B}(\vec{p}) とし,\triangle\mbox{ABC} の重心を \mbox{G}(\vec{g})\triangle\mbox{ABC} の外心を \mbox{O}(\vec{o}) とおく.
\mbox{AP}^2+\mbox{BP}^2+\mbox{CP}^2
=3|\vec{p}|^2-6\vec{g}\bullet\vec{p}+|\vec{a}|^2+|\vec{b}|^2+|\vec{c}|^2
=3\mbox{GP}^2+\mbox{AG}^2+\mbox{BG}^2+\mbox{CG}^2…①
が成立するので \mbox{AP}^2+\mbox{BP}^2+\mbox{CP}^2
\mbox{P}=\mbox{G} のときに最小値 \mbox{AG}^2+\mbox{BG}^2+\mbox{CG}^2
をとるので,
\dfrac{16S^2}{9}
\left(\dfrac{1}{\mbox{AB}^2}+\dfrac{1}{\mbox{BC}^2}+\dfrac{1}{\mbox{CA}^2}\right)\leqq \mbox{AG}^2+\mbox{BG}^2+\mbox{CG}^2…(★)
を示せば十分.

①において \mbox{P}=\mbox{O} とおくと
3R^2\geqq\mbox{AG}^2+\mbox{BG}^2+\mbox{CG}^2…②
が成立する.ここで中線定理から \mbox{AB}^2+\mbox{AC}^2=\dfrac{9}{2}\mbox{AG}^2+\dfrac{1}{2}\mbox{BC}^2 などが成立するので
\dfrac{3}{2}(\mbox{AB}^2+\mbox{BC}^2+\mbox{CA}^2)=\dfrac{9}{2}(\mbox{AG}^2+\mbox{BG}^2+\mbox{CG}^2)
となるので②から
9R^2\geqq\mbox{AB}^2+\mbox{BC}^2+\mbox{CA}^2…③
が成立する.

また S=\dfrac{1}{2}\mbox{AB}\cdot\mbox{AC}\cdot\sin\angle\mbox{CAB} と正弦定理 \mbox{BC}=2R\sin\angle\mbox{CAB} とから
S=\dfrac{\mbox{AB}\cdot\mbox{BC}\cdot\mbox{AB}}{4R}…④ となるので,③④と(★)から
3(\mbox{AB}^2\mbox{BC}^2+\mbox{BC}^2\mbox{CA}^2+\mbox{CA}^2\mbox{AB}^2)\leqq (\mbox{AB}^2+\mbox{BC}^2+\mbox{CA}^2)^2
を示せば良く,これは
(\mbox{AB}-\mbox{BC})^2+(\mbox{BC}-\mbox{CA})^2+(\mbox{CA}-\mbox{AB})^2\geqq 0
から成立する.

ライプニッツの不等式が分散の公式から証明できるのに今更気付きました.なお,「ライプニッツの不等式を知らないが,とりあえず外接円の半径が登場するので正弦定理を用いる」という方針だと次のようになります.

[解答]
(途中から)
\dfrac{16S^2}{9}
\left(\dfrac{1}{\mbox{AB}^2}+\dfrac{1}{\mbox{BC}^2}+\dfrac{1}{\mbox{CA}^2}\right)\leqq \mbox{AG}^2+\mbox{BG}^2+\mbox{CG}^2…(★)
を示せば十分.ここで中線定理から \mbox{AB}^2+\mbox{AC}^2=\dfrac{9}{2}\mbox{AG}^2+\dfrac{1}{2}\mbox{BC}^2 などが成立するので
\dfrac{3}{2}(\mbox{AB}^2+\mbox{BC}^2+\mbox{CA}^2)=\dfrac{9}{2}(\mbox{AG}^2+\mbox{BG}^2+\mbox{CG}^2)
であるから,
16S^2
\left(\dfrac{1}{\mbox{AB}^2}+\dfrac{1}{\mbox{BC}^2}+\dfrac{1}{\mbox{CA}^2}\right)\leqq 3(\mbox{AB}^2+\mbox{BC}^2+\mbox{CA}^2)
を示せば良い.

正弦定理により
\mbox{AB}=2R\sin C\mbox{BC}=2R\sin A\mbox{CA}=2R\sin B
であり,このとき
S=\dfrac{1}{2}R^2(\sin2A+\sin2B+\sin2C)
が成立する(これは鈍角三角形でも成立することに注意).

=\dfrac{1}{2}R^2\{\sin2A+\sin2B-\sin2(A+B)\}
=R^2 \sin(A+B)\{\cos(A-B)-\cos(A+B)\}
=2R^2 \sin C\sin A \sin B
(ここは S=\dfrac{\mbox{AB}\cdot\mbox{BC}\cdot\mbox{AB}}{4R} だと一発)
であるから,A\gt 0B\gt 0C\gt 0A+B+C=\pi のときに
4(\sin^2A\sin^2B+\sin^2B\sin^2C+\sin^2C\sin^2A)\leqq 3(\sin^2A+\sin^2B+\sin^2C)
となることを示せば良い.

任意の実数 x,y,z に対して (x+y+z)^2-3(xy+yz+zx)=\dfrac{1}{2}\{(x-y)^2+(y-z)^2+(z-x)^2\}\geqq 0 であるから
3(\sin^2A\sin^2B+\sin^2B\sin^2C+\sin^2C\sin^2A)\leqq (\sin^2A+\sin^2B+\sin^2C)^2
が成立するので,A\gt 0B\gt 0C\gt 0A+B+C=\pi のときに
\sin^2A+\sin^2B+\sin^2C\leqq \dfrac{9}{4}
を示せば良い.

ここで 0\gt A\geqq B\geqq C として良く,このとき
\dfrac{2\pi}{3}\leqq A+B\leqq\pi となり A+B は鈍角である.

ここで \dfrac{A+B}{2}=u\dfrac{B-A}{2}=d とおくと
0\lt u\lt \dfrac{\pi-C}{2}|d|\lt u であり
\sin^2A+\sin^2B=\sin^2(u+d)+\sin^2(u-d)=2(\sin^2u\cos^2d+\cos^2 u\sin^2 d)=2\{(\cos^2u-\sin^2 u)\sin^2d+\sin^2 u\}=2\{(\cos(A+B)\sin^2d+\sin^2 u\}
であるから,\cos(A+B)\lt 0 より,A+B を固定すると d=0,つまり A=B のときに最大値 2\sin^2u をとる.

このとき
\sin^2A+\sin^2B+\sin^2C\leqq 2\sin^2 u+\sin^2C=2\cos^2 \dfrac{C}{2}+\sin^2C=-\cos^2C+\cos C +2=-\left(\cos^2C-\dfrac{1}{2}\right)^2+\dfrac{9}{4}
であるから(★)が成立する.

三角形の内角 A,B,C に対して
\sin^2A+\sin^2B+\sin^2C\leqq \dfrac{9}{4}
を示すのにはもう少しやりようがある気がします(ただそのままだと Jensen の不等式は使えません).

なおライプニッツの不等式の証明が,2乗和が重心で最小になることから直ちに導かれるのはとても面白いと思います.この2乗和が重心で最小になるというのは「分散公式」からもわかると思います.
原点を \mbox{P},重心は平均と考えると
\dfrac{\mbox{AG}^2+\mbox{BG}^2+\mbox{CG}^2}{3}=\dfrac{\mbox{AP}^2+\mbox{BP}^2+\mbox{CP}^2}{3}-\mbox{GP}^2
のように,分散は二乗平均から平均の二乗を引いたものとなるからです.

分散を表わす第3の表現 - 球面倶楽部 零八式 mark II
備忘録:スチュワートの定理 - 球面倶楽部 零八式 mark II
あたりを参照してください.すると中線定理から導いた
\mbox{AB}^2+\mbox{BC}^2+\mbox{CA}^2=3(\mbox{AG}^2+\mbox{BG}^2+\mbox{CG}^2)
は分散の第3の表現に対応していることがわかります.

冒頭でヘロンの公式を用いると8次式を処理しなければならない,と書きましたが処理されている方がいらっしゃいました.

根性入れると意外と消えて簡単になるんだなとびっくりしました(等号成立が正三角形となることを予想すると確かにそれほど複雑にはならなさそうですが,それは完全なる後付けですね).